まあそんなわけで、ダレンとお菊の病室にはゴークイーンズたちが追加された。三人とも、首から下を包帯でぐるぐる巻きにされている。俗に「ニチアサ巻き」と呼ばれる、あの何とも形容しがたい妙な巻き方だった。
なお、ダレンは「私以外は全員女性の病室だが、これで良いのだろうか」と思わなくもなかったが、誰も何も言わないので黙っておくことにした。個室を与えられても、それはそれで寂しい。
「屈辱ですわ~!」
お菊と二人だったときは比較的静かだった病室も、三人組がやってきたことで随分と賑やかになっている。
「敵にやられただけならまだしも、やられ方が『巨大化した敵に踏まれた』なのが絶妙にダサくて嫌ですわ~! 怒りの導火線を燃やしますわ~!」
「危険の意味なんて、忘れましたわ~! 何かを言う前に、ぶつかりますわ~!」
レッド、イエロー、ブルー・クイーンは、口々に悔しがった。
「こんにちは。」
と、病室のドアが開かれ、エルフの魔法使いが入ってきた。片手には、果物が山盛りに入った籠を提げている。
籠の中に収まっているのは、みかん、バナナ、ぶどう、メロン、苺、スイカといったラインナップだった。なぜか隅の方に、松ぼっくりやドングリ、クルミも入っている。お見舞いにしては、なかなか独創的なフルーツの選び方である。
否、彼女が選んだと言うより、最初からそういう内容のセット販売だったのだろう。籠に貼ってあるシールによると、商品名は「フルーツバスケット・極み」のようだ。「大・大・大・大・大特価!!」と、でかい値下げシールも貼られていた。
「BLACON・SUNにゲートを開けてもらって、お見舞いに来たよ。ダレン、お菊。あと、よく知らない人たち。」
「よく知らないとは失礼な! 私たちは、かの有名な特命女王戦隊・ゴークイーンズSなのですわ~!」
「そうなんだね。」
表情を変えずに応じたフィリーレンは、あまり興味がなさそうだった。ベッド脇に「はい、これ。」と果物の籠を置き、五人を見回す。
「さっき百合・BLレンジャーの人たちにも会って、状況を聞いたよ。もし迷惑じゃなかったら、しばらくの間、私にダレンたちの護衛をさせてもらえないかな。」
「護衛か……」
考えてもみなかったと言うように、傷を持つ男は呟いた。
「私がダレンたちを身辺警護すれば、百合・BLレンジャーはこっちに戦力を割かなくて良くなるでしょ。その方が、彼らも戦いに専念できると思ってね。」
「確かに、フィリーレンには対超次元ライダー用の原典が効きにくい。今後、もしまた濡レドランが同じ原典で仕掛けてきたとしても、貴様がいれば問題なく対処できるだろう。何より、一度は私を下したほどの実力者だしな」
「それほどでもないよ。」
とは言うものの、魔法使いはむふーと得意げになっていた。分かりやすい奴である。
「でも、護衛をしてもらうとして、どこで寝泊まりするつもりなの?」
お菊が尋ねた。
「近くのホテルに泊まろうと思ってるよ。」
「……ちなみに、人間界の通貨は持ってる?」
「ううん。」
首を振るフィリーレン。何とこのエルフ、カードショップを訪れた一件から何も学習していなかった。
「仕方ないわね、ほらこれ」
「ありがとう。大事に使うね。」
お菊が財布から取り出した数枚の万札を、魔法使いは恭しく受け取った。何だか、お母さんから小遣いを貰う子供みたいになっている――二人の年齢的には、むしろフィリーレンの方がお母さんどころかお婆ちゃんなのだけれども。
来客は、フィリーレン一人ではなかった。
「お菊さん! 大丈夫だったかい⁉」
勢いよくドアを開けて滑り込んできたのは、ピーター・バーガー青年だった。どうやら、見舞いのためだけに来日してくれたらしい。
「……あっ、どうも。初めまして」
フィリーレンやゴークイーンズなど、あまり絡みのない顔ぶれもいたため、軽く自己紹介することも忘れない。
「来てくれたのね、ピーター。ありがとう。私なら何とか大丈夫よ」
彼女は微笑み、それから布団の内側で何やらゴソゴソやり始めた。
「あなたのことだから、いつか見舞いに来るんじゃないかと思ってたの。そのときに渡そうと思っていたものがあるわ」
お菊が布団から出したのは、彼女が普段使用しているオリジナルのリボンズドライバー。さらに、自身の持つ全スタンプであった。そんな大事なものを布団の中にしまうな。
「こんなことを頼むのは、勝手だと思われるかもしれないけど。私の代わりに戦ってほしい」
「えっ⁉ でも、こんなにたくさん貰っても、僕一人じゃ使い切れないし……」
言い澱み、一旦は断ろうとしたピーター。しかしその瞬間、彼の脳裏をアメリカのヒーローたちの顔がよぎった。
ハットマンをはじめ、ピーターの祖国では数多くのヒーローが活躍している。帰国後、彼らのうち誰かにドライバーとスタンプを渡し、一緒に戦ってもらうというのはどうだろう。
元々、オリジナルのリボンズドライバーは、米国在住のアイロンマンことトニー・スタートがピーター用に開発したものだ。それをアメリカのヒーローが使うことが別段おかしなわけではないし、むしろ(色々な理由があるとはいえ)今お菊が持っている方がおかしい。
「……いや、やっぱり受け取るよ。このベルトと、お菊さんの気持ち」
青年は歯を見せて笑った。