泊まるホテルを探すというフィリーレンとピーターは、連れだって病院を後にした。その約十分後、本日最後の来客がやってくる。
「……誰だ? 貴様ら」
見知らぬ男たち三人の姿をぼんやりと捉えて、ダレンはベッドの上で身構えた。といっても、まだ視力が全快していないため、明後日の方向を向いてファイティングポーズを取ったのだけれども。
「あ、あの、ゴークイーンズのMの方です。初期はタイツマンとか名乗ってました」
そう、彼らである。途中から三人揃わなくなって二人になり、ついには一人になり、挙句の果てにゴークイーンズだけがフィーチャーされて男どもは出番ゼロみたいな回も多々あった、彼らである。黒タイツ姿でないと、誰なのか全く分からなかった。
「つまらないものですが、良ければどうぞ!」
タイツマンらが差し出した果物籠には、ザクロとブラッドオレンジ、レモンが入っていた。こちらもフィリーレンのものと同様セット販売だったらしく、「狂い咲き&インクレディブル」と書いてある。2割引きのシール付きだ。
「いやザクロとブラッドオレンジはともかく、レモンは単品で食べるの難しくないかしら⁉ 何なの? 唐揚げにでもかけろってこと??」
首を捻っているお菊をよそに、男たちは女王の元へ駆け寄った。ベッド脇に跪き、首を垂れる。
「ご無事で何よりです、我らが女王」
「ですが、その怪我ではしばらくは戦線復帰は厳しいでしょうね……」
「何ともおいたわしい……」
「なら、さっきのピーター青年みたく、あなたたちが代わりに戦えば良いのですわ~!」
底抜けに明るい声を出して、レッド・クイーンは布団の中から変身用ブレスを取り出した。この病室の患者は、皆布団の中に物を隠す習性があるらしい。
「真のSMプレイは、SとMの立場逆転すら可能にしますわ~!」
「これまでは私たちがSでしたが、怪我が治るまではあなたたちがSになって、人に隠れて悪を斬ってほしいですわ~!」
ブルーとイエローも、たちまち乗り気になった。
「し、しかし、女王をM扱いするなど恐れ多いですし……」
下僕たちは渋ったが、女王たちの熱意に押されては断りづらい。散々迷った末、「では、試しに変身してみましょう」とアイテムを手にした。
「――レッツ、モーフィン!」
光に包まれた三人は数秒後、真っ黒なアーマーを纏っていた。サングラス型のアイレンズを持ち、これといって余計な装飾が付いていない、シンプルかつヒロイックな形態である。
『トランスポート!』
胸のハーネス型ベルトを軽く叩くと、専用武器が召喚される仕組みになっている。が、なぜか出てきたのは、デジタル一眼レフカメラと双眼鏡だった。これでどうやって戦えって言うんだ。
「……」
手の中に出現したカメラと双眼鏡を眺め、沈黙する下僕たち。もしかしたら、どこかスイッチを押したら武器に変形するのかもしれない。どこにスイッチがあるのかは分からないけども。
「やっぱり、違う」
やがて、下僕のうち一人――かつてビート・タイツを名乗った男がこぼした。
「女王たちがゴークイーンズへ変身したときは、もっとSMプレイっぽい衣装だった。武器だって、こんなデジカメとかじゃなかった。鞭を召喚していたはずです」
「それは、あなたたちがまだSの道を極めていないからですわ~! ゆっくりと時間をかけて鍛えれば、いつかきっと私たちのようになれますわ~!」
「……いえ、違うんです」と、元スタッグ・タイツ。
「やはり、我々の本質はM。Sになることはできない。ゴークイーンズはあなたたちしかいない。あなたたちが最高にSだからこそ、我らはどこまでもMになれる。それは、これからも決して変わりません」
「だから、早くお怪我を治して下さい」
ビートでもスタッグでもない、最後の一人も真剣な表情で言う。
「ゴークイーンズに変身する資格があるのは、世界でたった三人だけ。我らが女王だけです。この変身アイテムは、お返しします」
「「「げ、下僕たち~!!!」」」
忠誠心の厚いタイツマン一同に感極まったのか、彼女たちは目を潤ませて叫んだ。皆で肩を抱き合い、おいおいと涙を流す。何とも暑苦しい連中である。
タイツマンたちも帰って行った頃には、日は没していた。
静かになった室内で、フィリーレンらがくれた果物をつまむ。そうしながら、ダレンはお菊に小声で言った。
「レジスタンスのメンバーが、原典のイメージ付与を快く思っていないことは承知している。リボンズドライバーを使って間接的に原典のパワーを引き出すことはあっても、自らの肉体へ直接原典を取り込む者がいないように、無貌が死んだ今でも基本方針は変わっていないのだろう」
「どうしたのよ、急に」
籠の中に転がっているどんぐりを見つめ、お菊が返す。
「だが、現状のままではダメだ。リボンズドライバーの力では対抗しきれない敵も増えつつある。レジスタンスも装備を一新し、戦力アップを図るべきだ。――たとえ、その結果として、方針を曲げることになったとしても」
「……考えておくわ」
お菊は唇を噛んだ。
彼女は今、部下がフレッドの手にかかったときのことを想起していた。考えようによっては、彼が死んだのは量産型リボンズドライバーの性能が低かったからとも言える。もっと強力な装備を使っていれば、力及ばず倒れることもなかったかもしれないのだ。
こうして、静かに夜は更けていった。
人間界では負傷したヒーローたちが手当てを受け、ベルトを譲渡したり敵への対策を練ったりしている頃。超次元界にも動きがあった。
「フィリーレンが人間界へ渡ったことで、守りを固めたつもりなのでしょうが……ぬかりましたね、百合・BLレンジャー。超次元界の方は隙だらけですよ」
カラフルに光る扉を抜け、濡レドランが小高い丘へ降り立ったのである。彼が見下ろすのは、テントを張って野営しているレジスタンス組織、イーシュ・バール。
「BLACON・SUNと雑魚戦闘員しか残っていないレジスタンスなど、もはや対超次元ライダー用の原典を使うまでもない。この『彗星の濡レドラン』が、直々に叩き潰してあげましょう!」
青い皮膚に銀の鎧の怪人は、ニヤリと笑って丘から飛び降りようとした。しかし、彼の頬を光の矢が掠める。続けて、光線も。
「誰が隙だらけだって?」
「ここからは、私たちのターンだ!」
羽ペンのような形の短剣を構えたヤンデレキラーと、専用銃を敵へ向けたイセイナイトが、濡レドランの行く手に立ち塞がったのである。
※次回の更新は1週間後の予定です。