その頃、ダレンとお菊は病室で暇を持て余していた。とにかく、することがない。
無料Wi-Fiがあるため、ゴークイーンズの三人はサブスクでアニメやドラマを一気見したり、ゲームに没頭したりして何だかんだで満喫している。いわゆる「おうち時間」を楽しみまくっていた。
大して、人間界のスマホやタブレット、その他ゲーム機などを一切持っていないお菊たちは暇でしかなかった。ツカサたちが気を利かせて「時間潰しに」と本を何冊か置いて行ってくれたけれど、それもすぐ読み終わってしまった。
たまに、百合とかBLとかマニア向けの官能小説が混じっていたのには閉口する。「ジャンクPC改造のすすめ」なんてのもあった。おそらく、というか絶対犯人はカイリであろう。もうちょっと一般受けする小説を持って来いよ。
「暇だな」
「暇ね……」
結局、病室に備え付けてあるテレビをぼーっとしながら眺めるくらいしか、やることがない。気分はまるで、定年退職したご老人である。ダレンに至っては視力が全快していないため、半分くらいラジオ感覚で聴いている。
『本日のトピックは、「加速するアジア人差別とどう向き合うか」ですっ! それでは、現場の結野アナウンサー! 略して結野アナ!! 結野アナ、お願いします!』
『は~い!』
まあまあ下ネタな単語が聞こえたような気がしたが、ツッコむと気まずい空気になりそうだったのでダレンはスルーした。
『ここは、昨日の深夜に銃撃事件が起きた場所です。白人男性が銃を乱射し、店内にいたアジア人女性が殺害されました。ご覧の通り、店の窓ガラスは割れたままになっています!』
結野アナは、最近アメリカやヨーロッパではアジア人差別が深刻化していること、とりわけ女性はこういった事件の被害者になりやすいことを説明した。それから、番組は徐々に方向性を転換し、「非暴力の差別も顕著になっている」と述べた。
場面は日本へ戻り、先月アメリカへ旅行に行ったという会社員へインタビューしているシーンに切り替わる。顔にモザイクがかけられたサラリーマンは、淡々と語った。
『僕は日本人ですけど、現地の人から、「ニイハオ」「ヘイ、チャイニーズ!」などと声を掛けられたことはありましたね。アジア人は目が細いからか、大げさに目を細めるような仕草をされたこともあります。正直、いい気分ではなかったです』
一部の中国人観光客が観光地でトラブルを起こした事例は、日本国内にもある。しかし、だからといって中国人すべてを忌み嫌うどころか、彼らと外見的特徴が似ているアジア出身の人々も一緒くたにして差別するのは間違っている。あるいは欧米の人々は、アジア人を「個」としてではなく、「一つの種族」のようなものとして見ているのかもしれないが。
黒人など、白人中心の社会で比較的差別を受けやすい立場の人々も、相手がアジア人だと容赦なく差別してくることがあるそうだ。何なら、白人からのアジア人差別よりも黒人からの方がひどいケースもちらほらあるらしい。
ただ、この番組は差別の現状を事細かに伝えることに終始していて、具体的な対策を打ち出さずに「理解し合うことが大事ですね!」的なことだけ言って終わってしまった。「差別とどう向き合うか」がテーマなのに、タイトル回収が雑。
「人間界も人間界で、大変なのね」
一時間弱の番組を見終わって、お菊がしみじみと言った。
「私たち超次元生命体は皆、元々不定形で、白い光の塊みたいな姿をしているわ。だから、見た目がどうこうで争うことは基本的にないんだけれど……人間って複雑なのね」
「私たちに言わせれば、超次元生命体だって正直ずるいと思いますわ~!」
タブレットと睨めっこしてFPSゲームに興じながら、レッド・クイーンは応じる。
「百合・BLレンジャーは『苦労して開発した装備がたまたま何かの原典に似ていて、原典を宿して戦う』ことがほとんどなのに対して、超次元生命体なんか、原典をポンと所持したらそれでおしまいですわ~!」
「人間が自家製麵でラーメンを一から作っているのだとしたら、超次元生命体はカップ麺で手作りのラーメンと同じクオリティーを出しているのですわ~!」
女王たちは三人一組のチーム戦を行っているらしい。レッドとは別アングルの画面を睨みつつ、ブルーも言う。
「だが、手作りの方が健康には良いぞ?」
「ダレンさん、論点が微妙にズレてますわよ⁉」
イエローのツッコみに、苦笑するお菊。
「……と、とにかく! 人間も超次元生命体もそれぞれに悩みとか大変なこととかがあるけれど、お互いを理解して乗り越えていくことが大事よね! 番組で取り上げられてた、銃撃事件みたいなのが起きないように!」
(ズダダダダダダダッ!!!)
「死ねですわ~!」
「撃ちまくりですわ~!」
「私たち、既に十人以上もキルしてますわ~! 最強ですわ~!」
「いい感じにまとめようとしたのにゲーム内でドンパチしないで⁉ ていうか話聞いてる??」
お菊がぎゃあぎゃあ説教しようとしたところに、フィリーレンが病室のドアをノックした。途端に静かになるゴークイーンズ。
他三人を連れて帰還したエルフは、薄い胸を張って報告した。
「ただいま。さっき濡レドランに会って、クヴァルと露鬼とイセイナイトを取り返してきたよ。原典の一部は取り返せなかったけど。」
何でもないことのように言ってのけた彼女に、一同は目を丸くした。
「フィリーレンさん、すごいですわ~! 大活躍ですわ~!」
「今日のMVPは間違いなくあなた……って、あ~! 撃たれましたわ! あちこちから撃たれてますわ! 死にましたわ! 畜生!!」
満更でもなさそうにむふーとしたフィリーレンを、イセイナイトが小突く。
「お前が助けたのは私一人だけ。クヴァル、露鬼に関しては、濡レドランの気まぐれで命拾いしたに過ぎないだろう」
「……うん。」
誇張するなと叱られ、しょんぼりしたフィリーレン。彼女の肩を軽く叩き、銀の騎士は言った。
「助けてもらったことは礼を言う。だが、私は百合・BLレンジャーにも、レジスタンスにも属するつもりはない。濡レドランはいつか、私一人で倒してみせる」
それだけを告げ、イセイナイトはさっさと病室から出て行ってしまった。
「一緒に戦ってくれたら良かったのに」
残念がるお菊に、フィリーレンは「いいんだよ。」と首を振った。
「感謝されるためにやったんじゃないんだから。見返りを期待したら、それは正義とは言わないよ。」
「だが貴様、さっきはものすごく自分の活躍を褒めてほしそうだったぞ。褒められることは見返りとは違うのか」
「……ノーコメントで。」
せっかく名言風に締めたエルフだったけども、ダレンの追及を受けて何も言えなくなってしまった。
今回、ご迷惑をおかけした作品
・銀魂
※作者が転職とそれに伴う引っ越しで忙しいため、12月中は更新をお休みさせていただきます。年明けから再開する予定です。お待たせしてしまい申し訳ないですが、よろしくお願いします。