「腐ってもLFOの指導者というわけか。心臓を貫くつもりが、間一髪で体を捻ってかわしたと見える。諦めが悪いな、濡レドラン」
不遜な態度を変えようともしないSUNダールは、上司の命令に素直に従っていたときとはまるで別人だった。刀を鞘に収め、じりじりと濡レドランとの距離を詰める。
「俺はな、濡レドラン。いまだに高次元生命体が超次元生命体から見下され、いいように使われることに我慢ならなかった。無貌が倒されても、無貌支持派が滅びても、我ら高次元生命体への差別は根強く残り続けた。我らは常に、一段低く見られてきた。俺はそれが許せなかったのだ」
病室でダレンたちが見ていたドキュメンタリー番組では、人間界での人種差別が問題視されていた。それについて、「超次元界では外見による差別なんてないのに」というような発言もあった。
しかし、彼らは忘れていた。住む世界が違うゆえに普段は接点こそ少ないが、ひとたび超次元生命体と高次元生命体が顔を合わせれば、差別意識が顔を出さずにはいられないということを。
「……そ、そうですか。確かに私も、お前たち高次元生命体に対してひどい扱いをしたことがなかったとは言えません。先ほども、少し言い過ぎました。この通り、謝罪致しましょう」
膝を突き、土下座する濡レドラン。プライドを捨てて部下の反逆を止められるのなら安いものだ、とでも考えていたのだろうが、実際には、肩を新たに太陽光の槍で貫かれるだけに終わった。
「ぐあああっ⁉」
苦悶の叫びを上げ、青の怪人は無様に転げ回る。
「な、なぜこんな仕打ちを。お前が求めているのは、私からの謝罪や誠意ではないのか⁉」
「そんなものに価値があると思っているのか? 馬鹿め!」
先刻「馬鹿め」と言われたことへの意趣返しのように、SUNダールはとびきりの皮肉を込めて返した。
「たとえ貴様が謝罪したところで、他の超次元生命体も高次元生命体への差別をやめるわけではあるまい。根本的な問題は何も解決しないのだ。俺が欲するのは……力だ!」
のたうち回る濡レドランを乱暴に蹴り飛ばし、さらに両足首にも太陽光を照射。逃げるための脚を使えなくし、鮫怪人は意地悪く笑った。
「貴様がストックしている原典すべてと、ついでにLサイズの箱も俺が頂く。そして高次元界へ戻り、同胞へ強力な原典を分配するのだ。力さえあれば、もう高次元生命体は超次元生命体から見下されない。俺はこの手で、同胞たちから失われた尊厳を取り戻す!」
「SUNダール……まさかお前、最初からそのためにLFOへ加わったのか⁉」
「やっと分かったか。褒美にもう一撃くれてやる」
右肩を醜く焼き焦がされ、濡レドランは悲鳴を上げた。その様子を満足げに眺め、SUNダールは彼の頭を踏みつける。
「……こ、こんなことをして、ただで済むと思うな! 私に復活能力があるのを、忘れたとは言わせませんよ。仮に今私を倒せたとしても、いずれ必ず、お前に復讐するために戻って来ましょうとも」
「ならば、今殺すついでに、原典を奪えるだけ奪っておくまでだ。何度よみがえろうとも、力の源を失っていては意味があるまい」
そして、濡レドランの首根っこを掴み、無理やり立たせた。もっとも相手は足首に大火傷を負っているため、立つのもやっとな状態なのだけども。
「貴様は俺がLFOへの加入を申し出たとき、入団テストと称して、軽く手合わせをしたな。その手合わせの続きだと思え」
「……面白い。刀を抜け!」
息を荒げて吠える濡レドランに、「それには及ばん」と失笑するSUNダール。
「貴様など、刀の錆びにもならん」
「何っ⁉」
相手が動揺した隙を突き、SUNダールは掌から青い光線を放った。光線は、ガードを試みた濡レドランのかぎ爪を叩き折る。
「元より、貴様の謝罪など聞き入れるつもりはなかった。流星のツンデレプタやフレッドを使い捨ての駒としてしか見ていなかった貴様が、いくらうわべを取り繕ったところで無駄というものだ。チュパカプラの濡レドラン、貴様は外道以外の何者でもない!」
その折られた爪の一部を掴み、鮫怪人が濡レドランへ接近した。太陽光を複雑に屈折させ、光学迷彩のようにして気配を悟らせずに肉薄し、やがて姿を現すと爪を腹部へ深々と突き刺した。ガキン、と鈍い音がして、青い怪人の腹から大量の血と火花が散る。
「邪魔なんだよ、貴様は。その慇懃無礼な紳士面も気に食わん」
「さ、SUNダール、お前……」
濡レドランは声を掠れさせ、瀕死の体を震わせた。ややあって、乾いた笑いを漏らす。
「クハハハハハッ! いやはや、傑作だ。まあ、私の正体が超次元生命体だと思っているのであれば、そういう行動に出るのも分からなくはないですね」
「何だと?」
まるで、「自分は超次元生命体ではない」と言わんばかりの、青い怪人。一瞬怯んだような表情を垣間見せ、SUNダールはどこからか鉄扇を取り出した。
「戯言もそれまでだ。貴様の存在理由は、もうどこにもない。早く逝け!」
鉄扇を大上段に振り上げ、一刀両断。濡レドランの硬い皮膚を、静かに真っ二つに叩き切った。本当に刀を抜かず、濡レドランのかぎ爪と鉄扇だけで勝ってしまったのである。
「なぜだ。この私が、高次元生命体ごときに負けるなど……ぐあああああ~っ⁉」
結局、最後まで高次元生命体への差別意識を捨てぬまま、チュパカプラの濡レドランは力なく倒れて大爆発に包まれた。
なお、原典の性質によるものか、今回ばかりは即座に復活を遂げることはなかった。彼が再び姿を見せるのは、少し先のお話である。