刀や弓を装備した戦闘員らが、鮫怪人を包囲する。奇怪な叫び声を上げながら、彼らは一斉に襲いかかってきた。
「小賢しい。次元忍法・『JAWS・GUY(ジョーズ・ガイ)』!」
鮫の背びれ型の破壊エネルギーを纏い、SUNダールは円を描くように高速突進した。名無しの権兵衛たちを一撃で爆発四散させ、再び入墨と一対一で対峙する。
「有象無象を呼び出すのは無粋ではないか、入墨。ここは真剣勝負といこうではないか」
「真剣勝負? 濡レドランを不意打ちで殺した奴が言っても、何の説得力もねえなあ!」
鼻で笑い、荒武者は攻撃を再開した。相変わらず、非の打ち所がなく完璧な剣技と身体能力だった。SUNダールが懸命に反撃を試みるも虚しく、一方的に斬撃を浴びせられ続けてしまう。よほど原作での戦績が良いらしい。
「くっ……」
全身をズタズタに切られた鮫怪人は、傷口から血を滴らせ、息を荒げた。
「どうやら俺の計算違いだったらしいな。湖から少し離れ、陸に上がれば、水切れとやらが起こるのではと少し期待していたのだが。よもや、ここまで俺が追い詰められるとは」
「いや、水切れは既に起こり始めてるぜ。ただ、俺の性癖がそれを相殺しているだけだ」
「性癖?」
名前にも入っている「入墨」が、何か関係しているのだろうか。
「俺の性癖は『スティグマトフィリア』。相手がタトゥーを彫っていたりピアスを付けていたりしたとき、自分の体力が時間経過とともに回復する。水切れで消耗した分の体力は、こいつで回復できてるぜ。今のところはな」
「何を言っているのだ。俺はタトゥーやピアスなど……」
「よく見てみな」
ニヤリと笑っている入墨ドウコク。彼が刀で指し示す先を見て、SUNダールは「なっ」と束の間絶句した。
「き、貴様……先刻の斬り合いの最中に、俺の腹に剣でタトゥーを彫ったのか⁉」
「封印」という二文字の漢字が、でかでかと彫られている。何て器用な奴だ。裁縫とか得意そう。もし超次元界の学校に家庭科の授業があったなら、入墨は成績優秀者として表彰されるに違いない。
「ああ、彫ってやったさ。俺が一番嫌いな漢字をな!」
原作において、入墨ドウコクの使用する原典は「封印」の文字のパワーを受けて封印されたことがある。激しい水切れを起こすのは、かつて封印されたときの後遺症だ。
「これで俺の消耗は抑えられた。俺が水切れでダウンするよりも、おめえが斬り殺される方が先だぜ」
「おのれ。舐めた真似を!」
鮫怪人は歯ぎしりし、懐から何枚かのカードを取り出した。言わずもがな、濡レドランから強奪したものの残りである。
「使える原典の数は、俺の方が上だということを忘れるな!」
発動したのは、濡レドランが入墨ドウコクを助けたときに使ったという「パーフェクトノックアウト」。これには、周囲にいる者の持つ性癖のパワーを実体化し、性癖アイテムとして自分が使用できる能力がある。
『筋肉フェチ(大胸筋)化!』『筋肉フェチ(腹筋)化!』『筋肉フェチ(上腕二頭筋)化!』
同一の性癖が込められたメダル型のアイテムを、三連続で自身へ投与。たぶん、その辺に筋肉フェチの女性の超次元生命体でもいたんだろう。女性には筋肉フェチの人も多く、割とポピュラーというか一般的な性癖ではある。
その効果により、SUNダールは大胸筋、腹筋、上腕二頭筋を極限まで鍛え上げ、これまでとは桁違いのパワーを引き出せるようになった。もう見るからにムキムキである。
「ハハハハハッ! どうだ、入墨。以前お前を救った力で、今度は俺がお前を葬ってやろう!」
斧と銃へ二モード変形するマルチウェポンを召喚し、アックスモードを選択。実体化した「パーフェクトノックアウト」のゲームカセット型アイテムを、それに装填する。
『キメワザ!』『ノックアウト・SUNダール・フィニッシュ!』
三種の筋肉フェチのパワーで、筋力をマックスまで増加した状態で必殺技を発動したSUNダール。「日焼けフェチ」性癖の能力も併用し、集約させた太陽光を荒武者へ雨あられと降り注がせながら突進する。
「終わりだ、入墨」
さらに、太陽光の余剰エネルギーを斧の刃へ集め、必殺の斬撃に高熱属性を付与。原典や性癖の効果を重ね掛けした、まさしくてんこ盛りの技を繰り出し、鮫怪人は吠えた。
「さすがの貴様も、二種類の原典と二種類の性癖のパワーが合わされば、太刀打ちできまい!」
「……効かねえんだよ。雑魚が!」
しかし、SUNダールは敵の実力を見誤っていた。
何回も太陽光を命中させたはずなのに、荒武者はかすり傷一つ負っていない。それだけではなく、彼は「雑魚が!」と咆哮したときの衝撃波のみで、「ノックアウト・SUNダール・フィニッシュ」の一撃をかき消し、鮫怪人の手から斧を吹っ飛ばてしまっていた。
「何だと⁉」
あり得ない。めちゃくちゃな強さだ。恐れおののき、じりじりと後退するSUNダールへ、入墨は詰め寄った。
「残念だったな。自分で言うのも何だが、俺は攻撃力、スピードだけでなく防御力も最強クラスだ。そんな小細工で攻略できる相手じゃねえんだよ」
つーか、と続ける。
「濡レドランがあれだけの数の原典を保有しながらも自分では全然使わねえのは、自分の虚無の総量がそんなに多くないって分かってるからじゃねえのか。お前はそこんところが理解できてねえ。キャパに余裕ねえのに原典使っても、本来のパワーは引き出せねえよ。所詮は付け焼き刃だな」
「黙れ!」
歯ぎしりするSUNダール。次の瞬間、彼は「巨大身の術」を使ってまたしても巨大化した。
が、何も巨大戦を挑もうとしたわけではない。そんなことをしたら本当に殺されてしまう。彼はただ、巨体を揺らして近くの山を蹴り飛ばし、大量の土砂を地上へまき散らしただけだった。直後に等身大サイズへ戻り、小走りに戦場から離脱する。
「視界を奪って逃げる気か、SUNダール⁉ この卑怯者があ!」
怒り狂った武者の声が、辺り一帯にこだました。彼の叫びは衝撃波となり、土煙を局地的に吹き流す。高速で振るった剣が、その風圧で視界を切り開く。
入墨ドウコクの視界が回復するまでには、ものの十秒もかからなかったろう。けれどもその短時間で、鮫怪人はどこかへ逃げおおせていた。
「逃がさん」
なおも敵の捜索を続けようとした入墨だったが、腕に違和感を覚えて視線を落とす。見れば、手の甲が徐々に干からびてきていた。
「……そろそろ限界か。命拾いしたな、裏切り者よ」
SUNダールが土埃を巻き上げたことで一時的に空気中の湿度が下がり、水切れが加速したのかもしれない。加えて、封印の文字を刻んだ相手が遠ざかったことで「スティグマトフィリア」の効果も失われ、回復作用を得られなくなったのも痛い。いずれにせよ、これ以上の戦闘続行は困難だった。
湖上の船へと戻るべく、入墨はくるりと方向転換した。おそらく聞こえていないだろうと知りつつ、SUNダールに呼びかける。
「船に戻り次第、おめえの裏切りは俺の配下や他の三英雄にも伝達する。どこまで逃げ切れるか知らねえが、せいぜい足掻いてみるんだな。雑魚が」
三英雄を味方に引き入れるか、もしくは早めに倒しておこうと画策したSUNダールだったが、様々な誤算があった結果、計画は頓挫した。
こうなると、残り一人の三英雄を味方につけるのも難しそうに思える。濡レドランだって、いつまでも復活しないわけではないだろう。
濡レドランから与えられた新型ゲートを使う限り、彼がSUNダールの居場所を補足できるというのもたちが悪い。できることなら、濡レドラン復活前に状況を打破したいところだけども。
一気に窮地に立たされたSUNダール。彼が今後どうなるかは、また次回以降をお楽しみに!