百合レンジャーvsBLレンジャー   作:クリスタルスカイ

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29 10円料理大好き!?

「ふむふむ。そうかい、そうかい」

 

 超次元界の外縁部。半球状の世界から今にも零れ落ちそうな崖っぷちに、彼女の家は建っていた。

 

「SUNダールには要注意ってことだね。分かったよ、私も気をつけておく」

 

 黒電話の受話器を片手に、三英雄の最後の一人、Bリアン女王――頭部に大きな角やトゲのある、マント付きの独特な衣装を着た中年女性の超次元生命体だ――は言った。高次元生命体でも元・無貌支持派でもない、それ以外の派閥を束ねているはぐれ者である。

 なお、こんな辺境へどうやって電話線を引いているのか、なぜ今時黒電話を使っているのかは不明。何か、こだわりがあるのだろうか。それともただ単に、使用している原典の時代背景を踏まえているだけなのか。

 

 

「わざわざ連絡ありがとうね、入墨ドウコク。もしSUNダールを見かけたら、すぐに連絡するよ。うん、うん。それじゃあね」

 

 ガチャリと受話器を置くやいなや、Bリアン女王はひょうきんそうな笑顔を浮かべた。

 

「アッハッハ! 面白いことになってきたねえ~。……ま、SUNダールの始末は入墨に任せるとしよう。私は今のうちに百合・BLレンジャーを倒して手柄を上げ、じきに復活する濡レドラン様に褒めてもらうのさ!」

 

 入墨からの電話に対し、彼女は「SUNダールを見かけたら連絡する」とは言ったものの、「自分もSUNダールを倒すのに協力する」とは一言も言っていない。面倒な仕事は動力に任せて、自分は自分で上司へのポイント稼ぎに奔走するつもりらしい。いい性格をしている。

 Bリアン自身、直接的な戦闘よりも部下の怪人の生成・使役に長けたタイプなので、「誰にだって向き不向きはある」と言えば正論っぽく聞こえてしまうのがたちが悪い。

 

 

「さあ出ておいで、私の可愛い子よ!」

 

 ウッキウキのBリアンは、いそいそとキッチンへ向かった。冷蔵庫を開け、やたらカラフルな卵を一個取り出す。その卵へ魔力を込めると、あら不思議。卵はみるみる肥大化し、ハンバーガー型の頭部を持つ怪人へと変化したのだった。

 左胸には、ケチャップやマスタードの容器を模したような装飾が施されている。

 

「怪人番号09。焼き立ての『B・ハンバラー』にございます」

「まあ、美味しそう!」

 

 恭しく跪いたB・ハンバラーの、パンでできた頭を撫でてやるBリアン。

 

「さっそくだけど、私と一緒に人間界へ来てもらうよ。忌々しい百合・BLレンジャーを、原子生物にしてやるのさ!」

 

 二人を包み込むように、カラフルに光るゲートが展開された。

 

 

『10円ハンバーガー! 10円ハンバーガーはいかがですか~?』

 

 BL警察本部のすぐ近くの大通りを、移動販売車がゆっくりと走っている。拡声器か何かを使っているのだろう、中年女性の大きな声が響いた。

 販売車には、「おいしいおいしい、ホッカホッカのハンバーガー!」「物価に挑戦!」などと書かれたチラシが、たくさん貼りつけられている。が、客のほとんどはそんなことは気にしていないに違いない。何と言っても目を引くのは、「10円ハンバーガー」とでかでか書かれた文字。車内から流れるハープの音色が、人々の食欲をさらに煽る。

 車が道に停まるやいなや、大勢のお客さんが移動販売車へ押しかけた。しかし、そこはさすがは日本人と言うべきか、きちんと列になって並んでいる。

 

 

「はーい、ありがとうね! 大変人気の商品だからね、お一人様、5個までの販売とさせていただきますよ!」

 

 運転席から降りたコック帽の中年女性が、ラップに包まれたハンバーガーを次々に客へ売っていく。ニコニコして、愛想もいい。

 

「産地直送の材料を使って、独自の製法で作ってますから、見て下さいこの驚異的なローコスト。世界広しと言えども、10円で買えるハンバーガーはうちの店だけさ!」

 

 その場で調理するのではなく、車内にある調理済み品を出してきて販売するタイプの店なので、回転率は非常に高い。大人から子供まで、やって来たありとあらゆる客層にハンバーガーは売れて行った。

 特に、主婦には大人気。「家計が助かるわ」「うち、食べ盛りの息子がいるから、何個か買って行ってあげようかしら」などという声が聞こえる。

 

 

「……何だか外が騒がしいわね」

 

 当然である。移動販売車が停まっていたのは、ギリギリBL警察本部の敷地内だったのだから。

 窓から外を覗き、ツカサは呟いた。

 

「10円でハンバーガーが買えるなんて、いくら何でもおかしいわよ。きっと、化学調味料とかドバドバ使ってるに違いないわ」

「しかし、二郎系ラーメンには化学調味料が入っているとよく言われるが、普通のラーメンと比べて物凄くローコストというわけではないだろう。それだけではないんじゃないか」

「ナオヤくん、ハンバーガーとラーメンじゃ原材料がまるで違うわ」

 

 ややズレたことを言い出したナオヤに、二郎系ラーメンを食べたことのないツカサが返す。この高次元生命体、すっかり人間界の食文化に馴染んでいた。

 

 

「10円かあ……」

 

 元怪盗のくせに、当たり前のように警察側の建物でくつろいでいる男、カイリ。彼も窓際に立って少し考える素振りを見せたが、やがて「いや」と首を振った。

 

「あのバーガーを食うのを10回我慢すれば、ハードオンの100円のジャンク品が一個変えるな。俺はそっちの方がいいぜ!」

「どんだけケチなのよあんたは⁉」

 

 この男、下手すると駄菓子すら買うのをケチりかねない。何なら、一袋数十円のもやしを買うのでさえ渋りそうなまである。

 

「とにかく、あの販売車がきな臭いのは事実だ」とケイイチロウ。

「それに、あの場所は厳密には駐車禁止のはずだな。サクヤ、悪いがちょっと注意してきてくれないか」

「分かりました!」

 

 

 威勢よく返事をして、サクヤは退室した。大股で歩き、移動販売車へ近づく。他の面々も、窓からその勇姿を見守っていた。

 最近寒くなってきたので、室内には暖房が入っている。よって窓は締め切っており、景色は見えても人の話し声などの小さな音は聞こえない。

 

「あいつ一人に任せて大丈夫なのか?」

「何言ってるのよ、カイリ。彼は真面目で優秀な後輩じゃない!」

 

 サクヤが車の運転席のドアを叩く。コック帽の女性が顔を出した。警察手帳を見せ、注意するサクヤ。軽く頭を下げる女性。

 女性が何か言いながら、ハンバーガーを差し出す。断ろうとするサクヤ。女性が彼の手にハンバーガーを押しつけた。サクヤは遠慮しつつも、ハンバーガーを齧った。

 

 

「……なあ、あいつ買収されてねえか?」

「……買収されてるわね」

 




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・デンジマン
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