少しして、彼は両手いっぱいに10円ハンバーガーを抱え、暖房の効いた部屋へ帰還した。
「ただいま戻りました!」
「戻りましたじゃないわよ!!」
爽やかに微笑む後輩へ、ツカサは呆れ気味に雷を落とした。
「何で車を移動させずに、ハンバーガーを山ほど貰って戻って来てるわけ⁉」
「いやー、あのおばちゃん、すごく親切で愛想も良かったんですよ! 間違った場所に停めてしまってごめんなさいね、寒い中ご苦労様ですなんて言って、ニコニコしてるんです! で、お詫びにハンバーガーをあげますから皆さんで召し上がって下さいって! あ、でもその代わり、もう少しだけ停めさせて下さいって言われて特別に許可しときました!」
「あんたねえ……」
一見すると「親切なおばちゃん」だが、「駐車違反で罰金取られるよりは、低価格のハンバーガーをあげた方が安く済む」と計算した上でおすそ分けしてきた可能性もある。お人好しなのも考えものだ。ツカサとケイイチロウは、揃ってこめかみを押さえた。
また、仕事で民間人へ対応する場合、なるべく「例外」を作らない方が良いのも基本である。「あの警官が対応してくれたときは○○だったのに」とごねられると、後が面倒になるからだ。ルールをルールとして遵守するのも、仕事のうち。
「せっかくいただいたので、食べましょうよ!」
上司の気持ちそっちのけで、サクヤはハンバーガーへかぶりついた。幸せそうに目を細める。
「うーん、美味い!」
後輩に呆れている先輩たちはもちろん、ケチなカイリ、二郎系ラーメンと10円ハンバーガーを似たようなものだと考えているらしいナオヤも、バーガーには手を出さず。結果的に、サクヤだけが夢中になってハンバーガーを食べ続けた。
「……おい、そのハンバーガー」
やがて、彼が齧ったバーガーの断面を見て、ナオヤが血相を変える。
「何だか、肉がやけに黒っぽく見えるんだが」
刹那、サクヤはぎらぎらした目でナオヤを睨んだ。
「黙れ! この美味さが分からないのか? 10円ハンバーガーは世界で一番美味しいのに!」
「なっ……お、おいサクヤ! 確かに俺は追加戦士組だし、お前からすれば後輩にあたるから、先輩に対してよりは雑に扱ってもいいかもしれない。だが、だとしても今の言い方はないだろう!」
憤慨するナオヤのことは、眼中にないらしい。
持ち帰ったバーガーをあっという間に平らげてしまった後輩は、虚ろな目をしていた。いつの間にか、目の下に隈もできている。
「うるさいですね。僕は10円ハンバーガーが食べたいんだ。それ以外の食べ物なんて知ったことか。もっとバーガーを寄越せ! 『警察チェンジ』!」
BL2号へと変身したサクヤが、狂ったようにVSチューナーを乱射した。次々に窓ガラスが割られ、破片が飛び散る。
「やむを得ない。『警察チェンジ』!」
「『怪盗チェンジ』!」
「『BLファイヤー』!」
ケイイチロウに続き、一同も変身してサクヤを取り押さえにかかった。暴れる後輩をケイイチロウが羽交い締めにし、ナオヤが彼の手からVSチューナーを奪う。
どう見ても、サクヤは普通の状態ではない。さっき食したハンバーガーに何か悪いものが入っていて、精神的に不安定になったのだろうか。
「うわーっ!」
「助けてくれ!」
そのとき、外から立て続けに悲鳴がした。窓が割られたことで、外界の音もはっきりと聞こえるようになっている。見れば、後輩同様に錯乱した人々が、一般市民へ襲いかかっている。
暴れているのは皆、先刻10円ハンバーガーの販売の列に並んでいた者だった。中には小さい子供も混じっていた。花壇の花を手当たり次第に抜いたり、母親から渡された飲み物を地面に叩きつけて「こんなのいらないよ! ハンバーガーが欲しい!」とだだをこねていたりする。
「……やはりな。あのバーガー屋、何かあるぞ」
サクヤを羽交い締めにしたままの姿勢で、ケイイチロウは唸った。
「こいつは俺とナオヤでどうにかする。ツカサとカイリは、バーガー屋の店員を拘束してくれ!」
「分かったわ」
「合点承知だぜ!」
今回ばかりは、カイリがケチってハンバーガーを食べようとしなかったのが功を奏したかもしれない。サクヤみたく暴れずに済んだから。
そんなことを考えながら、二人は全力疾走で飛び出していった。
既にトウマとウミカも到着し、百合ブルー、イエローへ変身して販売車の前に立っていた。カイリとツカサもそこへ追いつく。
「聞きたいことがある。外へ出ろ」
コンコンと運転席の窓を叩くトウマ。コック帽の中年女性は勢いよくドアを開けると、「おいで、B・ハンバラー!」と車内へ声を掛けた。すると、後部座席に潜んでいたハンバーガー頭の怪人が飛び出してくる。
「やばやば! 何なの、この子」
ちょっと可愛いかも、という台詞の内容とは裏腹に、ウミカは反射的に後ずさった。
「B・ハンバラーはこの私、『Bリアン女王』が生み出した怪物さ」
コック帽を脱ぎ捨てた女。現れたのは、角やトゲ、マントがついた唯一無二の衣装を纏った悪の女王であった。
「おっと、自己紹介がまだだったねえ。私はLFO三英雄の一角、Bリアン女王。はぐれ者の超次元生命体さ」
「三英雄か。SUNダールは濡レドランを裏切ったみたいだが、お前は違うのかよ?」
カイリに問われ、Bリアンは「とんでもない!」と首を振った。
「SUNダールの奴も馬鹿だよねえ~。何せあの入墨ドウコクを、純粋な戦闘力だけなら三英雄最強の入墨を、敵に回しちまったんだから。もう余命は幾ばくもないだろうよ」
「その入墨ってのには会ったことないけど、何ていうか、お前らもお前らで色々大変なんだな……」
Liberation From Origin、略してLFOは、濡レドランを軸としてかろうじてまとまっているだけの組織だ。各人の思惑はバラバラで、全体的にまとまりに欠ける。濡レドランがSUNダールに一度撃破されて以降、その傾向はより顕著になった。今までに百合・BLレンジャーが戦った悪の組織の中でも、トップクラスに結束力がないのではないだろうか。
「で、今日は何しに来たんだよ。あの妙なバーガーは何なんだ。やっぱり化学調味料か?」
「化学調味料? アッハッハ! そんな生易しいものじゃないさ。あのハンバーガーには、ヘドロが入っているからねえ」
「「ヘドロ⁉」」
一同は素っ頓狂な声を上げた。だから肉が黒っぽく見えたのだろうか。
「あ、あり得ないわ」とツカサ。
「そんなものが混入しているのなら、一口食べたらすぐ気づくはずよ。でも皆、あんなに美味しそうにパクパク食べていたじゃない!」
「――俺の能力のおかげさ」
B・ハンバラーが口を挟む。パンズにはパティとトマトとレタスとピクルスとそれからヘドロを、会話には口を挟む。やかましいわ。
「俺の体から放たれる匂いと、俺が奏でるハープによる催眠音楽には、人々がヘドロの臭いや味に気づけないようにする認識阻害効果がある。そして、本来なら激マズのヘドロ入りバーガーを食べた人間は、視覚や聴覚が異常になるだけでなく、このバーガー以外の食べ物を受けつけない体になってしまうのだ!」
「一体、何のためにそんなひどいことを!」
ツカサの問いに答えたのは、Bリアン女王だった。
「ルーカスはロリーニンジャーへ変身するとき、ハンバーガーを一口齧っていたそうだね。その話を思い出して、ちょっといたずらしに来てやったのさ!」
大勢の人たちを苦しめるのが「ちょっと」とは、これ如何に。
「人間どもはヘドロ入りバーガーで五感を狂わせ、バーガーを求めて凶暴化し、やがては原始生物へと近づいて破滅する。百合・BLレンジャー、お前たちもね!」
※次回の更新は1週間後の予定です。