警察本部からさほど離れていない病院を指差し、彼女は笑った。
「お前たちを倒したら、この辺の病院や学校にも、ヘドロバーガーを差し入れてやろうかねえ。確か、お仲間が入院しているんだったかしら。アハハハハハッ!」
「捕らぬ狸の何とやらってな」
カイリは吐き捨て、VSチューナーを女王へ向けた。
ヘドロ入りハンバーガーには、視覚や聴覚を異常にする作用があるという。視力が低下して治療に励んでいるダレンを口にしたら、さらに視力が低下し、場合によってはもう二度と回復しないかもしれない。
ダレンだけではない。病室でぐうたらしているゴークイーンズも、安静にしているお菊も、大いに苦しむ羽目になる。
「そんなこと、俺たちがさせるかよ!」
「おっと、私たちを簡単に倒せると思ったら大間違いだよ。私とその配下の怪人には、とある性癖のパワーが共通して備わっているからねえ」
「とある性癖……?」
何だろう。名前に「B」と入っているから、それに関連した性癖なのだろうか。Bの下に小町とかって付いていれば、「ア・ナ・タのアイドル~♪」などと歌い出しそうだけども。サインはB~! チュッ!
「何を考えてるんだい、爆レスなんかあげないよ! 私の性癖はね、『B専』さ!」
「お、おう」
B専。不細工な者や不格好な者を好む、少々変わった性癖だ。
「綺麗は汚い、汚いは綺麗。私はね、醜い者や汚い物が大好きなんだよ! 部下にヘドロバーガーを提供させたのも、私の趣味の一環さ。そんな私の『B専』性癖は、『相手が度の過ぎたイケメンもしくは美女である、と直感的に判断された場合、その対象をこの世から抹消すべく、ドレイン効果を発揮する』というもの。つまり、相手の攻撃力を吸収して自分の攻撃力へと変換する!」
自信満々に言い放ったBリアン女王。B・ハンバラーと並び立ち、性癖のパワーを解放した。
「……」
「……」
しかし、何も起こらなかった。
不細工でもイケメンでも美女でもなく、「普通に整っている」くらいの範囲に収まったらしい戦隊の面々には、二人のB専性癖が効かなかったのである。というかこの性癖、まともに効く相手ってかなり限られるのではないだろうか。芸能人クラスにしか機能しなさそうですらある。
「ええい、フツメンどもめ、蹴散らしてくれるわ!! やれ、B・ハンバラー!」
「ハッ!」
やけになった女王は、怪人を先行させて自身は後退した。やはり自ら前線に出るタイプではないらしい。
「今まさに、残酷なケチャップ……いや血が流れるぞ!」
B・ハンバラーはハンバーガー型の爆弾を召喚し、連続して投げつけてきた。
「お前たちもヘドロバーガーの具にしてやろう!」
「お断りよ。――『デュアル・百合&BL・ウェーブ』!」
爆発の中、BLエックスは百合エックスと手を繋いで強化変身した。BLホワイトと百合ブラックへ変わった二人は、降り注ぐ爆弾をパンチやキックで鮮やかに弾き飛ばす。
「チッ!」
爆弾が通じないと判断し、舌打ちするB・ハンバラー。ならばと巨大な先割れスプーンを召喚し、近接戦闘に切り替えて突進してきた。
だが、それこそ二人の思うつぼだった。純粋な格闘戦において、百合ブラックとBLホワイトに勝てる者はごく僅かである。嵐のように叩き込まれる拳と蹴りのラッシュは、スプーンによる打突をまったく寄せつけなかった。怪人の攻撃を軽くいなし、カウンター気味に打撃を浴びせまくる。
「「エマージェンシー! 百合レンジャー!」」
一方、トウマとウミカも二人だけでVS・スワットモードを起動。防弾ベストとマシンガンを装備し、弱ったB・ハンバラー目がけて銃弾を見舞った。
「とどめよ。……百合とBLの、美しき魂が!」
「ああ。……邪悪な心を、打ち砕く!」
「「百合&BL・マーブルスクリュー‼」」
白と黒の稲妻が螺旋状に混ざり合った必殺の雷撃の槍を、ツカサとカイリが放つ。
「俺たちも行こう、ウミカ。『ストライク・アウト』!」
「さらに、『百合・イタダキストライク』!」
右手にVSリボルバー、左手にVSチューナーをそれぞれ構え、百合ブルーとイエローも二丁拳銃による光弾のダブル発射を行った。威力を通常よりアップさせている分、銃撃の反動もでかいが、この合体技が披露されるのは地味に初だったりする。
「ぐあああ~っ⁉」
四人の必殺技連打を受け、ハンバーガー怪人は大爆発の中に消えたかに思われた。けれども彼は、爆発の炎を踏み消すようにしてみるみる巨大化してのけた。
「驚いたかい? 私の可愛い怪人たちは、体のサイズを自在に変化させることができるのさ。巨大化も縮小化もお手の物。別に何か特別な術やアイテムを使わなくたって、自力で巨大戦を展開できるんだよ」
得意満面のBリアン女王。
「残念だったねえ、BL2号がヘドロバーガーでダウンしている現状、百合&BLカイザーに六体合体できなくて。せいぜい百合カイザー単騎で頑張りな! ……あ、そうそう。零騎士ヒョウガだっけ、彼は増援に来れないと思うよ。ここに来る前、私の配下のメラ・メロンパンをぶつけておいたからね! 今頃、メロンパン相手に手こずってるだろうさ」
そういえば、あの変な名前のギャルはミレニアムズだった。LFO内での立ち位置的には、SUNダール率いる高次元生命体の派閥でも、入墨ドウコク率いる無貌支持派の派閥でもなく、女王の派閥に入るのか。妙なところで根回しがいい奴である。
「――で、俺たちはノーマークってわけか?」
詰めが甘いな、と駆けつけたのは、オメガ珈琲シルバーと超次元ライダーネトルティ来部だった。
「10円ハンバーガーなんていかにも怪しいから、ネットニュースを見てすぐ飛んできたの」と美明日。彼女の変身する形態は背中から翼を出せるので、文字通り本当に飛んできたのかもしれない。
「私もカフェの経営に携わり始めたから分かるけど、どう足掻いたって売価が10円じゃ利益なんて出せるわけないもの。すなわち、ハンバーガーを配ること自体に何か意味がある。悪事の気配を感じて来てみたけど、どうやら間違いなかったみたいね」
「お、おのれ~。B・ハンバラー、後は任せたよ!」
ネトルの精神干渉能力を警戒したのか、Bリアン女王は敗北フラグみたいな捨て台詞を残し、ゲートを生成して我先にと撤退した。なお、やはりB専のパワーは裕介にも美明日にも効かなかった模様。
「……よし。トウマ、ウミカ、百合カイザーで行くぞ! シルバーたちも来部ボクサーで援護してくれ!」
この場にいるツカサ以外の全員がロボ戦に参加することが、アドリブで決定された。ただちに三機の戦闘機と、二台の巨大マシンが駆けつける。
「勝利を奪い取ろうぜ! 完成。百合カイザー!」
「合体、ボクサー・ディメンション! 完成、来部ボクサー!」
三体合体から成る百合カイザーは、飛行能力を活かして怪人の周囲を飛び回った。右腕のガトリング砲を連射し、その皮膚からスパークを迸らせる。
「決めるぜ。『来部パンチャー』!」
反撃の隙を与えず、裕介と美明日が攻勢に出た。来部ボクサーを高くジャンプさせ、空中で高速回転させながら拳を猛烈な速度で繰り出す。その数、一分間に約三千発。
百合ブラックやBLホワイトと交戦したときもそうだが、今日のB・ハンバラーはやたら殴られている。顔がバーガーだからか、頭部を殴られると妙に軽くて良い音がした。
「……振り向くな、振り向くな、振り向くな! 百合・BLレンジャー、お前たちは既に、我々LFOに狙われているのだああ~っ!」
必殺パンチを食らったB・ハンバラーは、警告めいた言葉を発し、仰向けに倒れた。直後、断末魔の悲鳴とともに爆散する。
彼の死と同時に、ヘドロバーガーを食べて苦しんでいた人々の症状も治った。サクヤも我に返り、「あれっ? ケイイチロウ先輩、何で僕を組み伏せてるんです??」などと困惑している。
「フッフッフ。今度こそ零騎士にとどめを……って、B・ハンバラーやられてるし⁉ Bリアン女王も帰っちゃったぽいし! あ、あーしもそろそろ帰るし!」
ヒョウガ相手にまたしても優勢になっていたメラ・メロンパンも、ハンバーガー怪人が爆散したのを見て、慌てて帰って行った。
ヘドロバーガーを使って人々を原始生物に変えようというBリアン女王の悪巧みは、百合・BLレンジャーによって粉砕された。しかし、彼女は他にもまだまだ怪人を従えている。決して油断はできない。
戦え、百合レンジャー! 頑張れ、BLレンジャー! 小さな命を守るため、愛と勇気の炎を燃やすんだ!