百合レンジャーvsBLレンジャー   作:クリスタルスカイ

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34 史上最大の感度

「おわっ、ネトル⁉ 急に出てくるなよ、急に」

 

 人間態の彼女は、基本的にコピー元である美明日の姿をそっくりそのまま模倣する。したがって、現在のネトルは美明日と同じく、体にタオルを巻いただけのほぼ全裸な格好だった。

 

「仕方がないでしょう? 私の原典、温泉旅行中に正体を明かすシーンがあるんだから。その影響でいてもたってもいられなくなったのよ」

「いやまあ原典の影響ってのは少なからずあるんだろうけど、恋人が二人でラブラブしなたらお湯に浸かってるところへ割り込んでくるのを原典のせいにするなよ!!」

 

 自信満々、といった風のネトルへ、祐介はたまらず抗議した。

 

 

「早川君、私たち今日はそこまでラブラブしてないわよ。まだベロチューもしていないじゃない」

「ラブラブ度合いの問題じゃねえよ⁉」

 

 ズレた指摘をしてくる美明日のタイミングの悪さには、頭を抱えたくなる。彼女をスルーして、ネトルは裕介の顔を上目遣いに見た。

 

「そんなに嫌がらなくたっていいじゃない。好きな女と同じ顔、同じ体つきの女がもう一人いるのよ? 素直に喜んだらどう?」

「ば、馬鹿言え! 美明日は美明日だけしかいないし、代わりなんて他にいねえよ。一輪の花みてえにな」

「そう?」

 

 ネトルは悪戯っぽく小首をかしげた。

 

「私は腐っても超次元生命体だから、肉体を形状変化させて、スリーサイズを多少盛るくらいのことはできるわよ。仮にオリジナルよりもコピーの方が抱き心地が良かったとして、あなたはオリジナルを心から愛せる?」

 

 

 祐介は美明日の正確なスリーサイズを知らない。だが、今ネトルが目の前で行ってみせた肉体変化は、バストとヒップをワンサイズアップさせたように見えた。美明日が怯んだような表情を浮かべる。

 恋人と素早く目で合図し、祐介は「分かってねえな」とため息とともに返した。

 

「俺に言わせれば、胸はサイズよりも感度が重要だぜ。おい、美明日!」

「え、ええ……。分かったわ」

 

 恥ずかしそうにタオルを取る美明日。その胸にある小さな突起物をツンと軽くつつくと、彼女は目を瞑り、僅かに体を震わせて「ひゃんっ♡」と喘いだ。頬を赤く染めている。

 

「感度が良いってのはこういうことだ。てめえがいくらサイズを持ったところで、こうやって可愛く敏感に反応することはできねえだろ!」

 

 

 真顔でネトルへ向き直る裕介。平然と行われたちょいエロプレイとその内容に、ネトルは呆気にとられていた。

 やがて両手をわなわなと震わせ、怒ったように言う。

 

「な、な……何よ、馬鹿にしてるわけ⁉ 無貌から三武神に選ばれたこともあるこの私を、馬鹿にしてるわけ? 私だって、肉体のパラメータをいじれば感度を上げられなくもないわよ!」

「そうかよ。じゃあ、感度をMAXにしてみろよ!」

「望むところよ!!」

 

 ネトルは意識を集中させ、どこぞのエロ漫画みたく、体内パラメータの数値を最大まで引き上げた。感度を数万倍までアップさせ、ふふんと微笑む。

 変身ヒーロー系の原典は、原作において「100メートル先に落ちた針の音さえ聞き取れる」的なカタログスペックがあったりする。そんなに聴力が鋭敏なら、倒された敵が近距離で爆発したりすれば耳が聴こえなくなりそうなものだが、まあ設定上はそうなっている。五感をアップさせることとは、案外相性が良いのかもしれない。

 できれば、エロ目的で五感をアップさせないでほしいけども。

 

 

「ふーん……」

 

 感度をMAXにしたと言うが、外見は何も変化していない。サイズを盛った胸と尻もそのままだ。ネトルをしげしげと眺め、やがて祐介は彼女へ一歩近づいた。

 

「なあ、髪に何かついてるみたいだぜ。取ってやるよ」

「あら、ありがとう」

「嘘だけどな」

 

 ニヤリと笑い、裕介は伸ばした手を髪ではなく、ネトルの耳たぶへと伸ばした。そして、軽くつついた。

 

「んっっ⁉⁉」

 

 たったそれだけで、ネトルは体を大きく反らし、ビクビクと激しく痙攣させた。「んおっ」とか「おっ」とか喘いだり悶えたりしているが、エロ漫画みたく全部の音に濁点が付いているかのような響きだ。感度数万倍は伊達ではなかったらしい。

 

 

「挑発に乗って、感度を上げてくれて助かったぜ。おかげで簡単に無力化できた。ったく、ちょろすぎるな」

 

 意外とネトルって馬鹿なのかもしれない。

 立っているのもやっとになった彼女を抱っこし、裕介は脱衣所へと放りだした。浴室の扉を閉め、再び美明日と二人きりになる。

 

「ありがとな、美明日。俺の意図を察して、感じているふりをしてくれたんだろ? ネトルが自身の感度を上げるよう仕向けるために」

「ええ」

 

 もう一度タオルを巻き、彼女は羞恥に目を伏せた。

 

「……ねえ、正直に言っていいかしら」

「お、おう」

「オーバーに演技したけれど、少し気持ち良かったのは本当よ」

「そ、そうかよ」

 

 今までずっとツンツンしていたのに、急にデレモードへ突入したようである。

 

 

「ただ、いきなり胸を触られてもびっくりしちゃうから、できればキスからしてほしいものね」

「……そんじゃ、ま、最初からやり直しますか」

「そうね」

 

 二人は微笑み合い、ようやく温くなってきたお湯へ一緒に浸かった。そして、静かにキスをした。

 いつの間にか脱衣所からネトルの姿が消えていることには、気づかなかった。

 

 

「畜生……覚えてなさいよ、早川裕介!!」

 

 夕闇の中ではあはあと息を荒げ、ネトルは旅館を出てすぐの川沿いの道を歩いていた。自力では歩行することすら難しいため、欄干に手をついて体を支えながら進む。

 裕介に耳たぶをツンツンされた際、感度数万倍になっていたネトルの全身には、文字通り稲妻のごとき快感が走った。慌てて感度を通常へ戻したものの、稲妻の余韻は消えてはくれない。風に当たれば多少は収まるかもしれないと思い、大浴場から失敬してきた浴衣を着て、旅館の外へと出てきたというわけだった。

 なお、タオルを巻いただけの格好に浴衣と帯をプラスしたので、当然ながら下着類は付けていない。一歩間違えればド変態である――感度を数万倍にした時点でかなりの変態な気はするが。

 

 

「この私をそそのかして、指で突かれただけで絶頂する変態に仕立て上げるだなんて。いつか、隙を見てあなたの肉体に精神干渉して弄んであげるわ!」

 

 季節は冬だけれども、温泉の熱気と快感の波で火照った体は、無限の熱を放っている。寒さをものともせず浴衣一枚で歩くネトルを、道行く人たちは「何あれ」と言いたげに凝視していた。

 意識がぼうっとしていたせいで、彼女は気づくのが遅れた。途中から明らかに通行人の数が少なくなり、逃げ惑うような足音が増えたことに。

 

「……何かしら?」

 

 顔を上げると、前方に異形の者が立っていた。

 

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