全身に灰色の重厚なパワードスーツを着込み、肩にはキャタピラのベルトみたいな鎧が、頭や腕からはケーブルのようなものが垂れ下がっている。体をサイボーグ化して変わり果てた姿になってはいるものの、その青い皮膚の顔には見覚えがあった。
「濡レドラン⁉ 復活したというの?」
身構え、腰にドライバーを装着するネトル。彼女を一瞥し、怪人は口を開いた。
「……いかにも。俺が『サイボーグの濡レドラン』だ。原典の特性により復活した。復活する地点を自分の意志では決められないため、今回はこのような観光地に降り立ってしまったらしい」
一人称が「私」から「俺」になっている。どういう心境の変化なのだろう。
「しかし、困ったものだ。原作のストーリー展開を反映してか、どうやら俺の記憶はリセットされてしまったらしい。人間界のパソコンで例えるなら、ハードディスクが抜かれているような状態だ」
「記憶喪失なのね? 同情するわ。何も覚えていないんでしょう?」
記憶を失っているというのなら、上手いこと丸め込めば戦いを回避できるはず。が、ネトルの希望的観測通りにはいかなかった。
「いや、少しは覚えているぞ。倒すべき敵のことくらいはな!」
サイボーグの濡レドランは笑い、「『濡レドランチャー』!」と叫んだ。どうやら技の名前らしい。キャタピラのベルトを思わせる肩アーマーから、何発ものミサイルが一斉に発射される。
「ハードディスクのないパソコンだって、BIOS起動はできる。お前たち百合・BLレンジャーへの敵対心は、消えてはいない!」
「……しょうがないわね。変身!」
『カーコルド・アップ!』『Feel a thrill! Spiral! 超次元ライダー・ネトル! ジャッカル!』
ジャッカルが描かれたスタンプをドライバーへ押印し、変身するネトル。地味に初披露する形態である。頭部のデザインがネコ科の動物っぽくなる以外に目立ったフォルムの変化はないが、通常フォームよりもスピードに優れた形態だ。また、アイレンズの色は青緑から紫へと変わっている。
スピードを活かした高速移動でミサイルをかわしつつ、ネトルは濡レドランへ接近した。ドライバーからNTRブレードを引き抜くと同時に通常フォームへ戻り、一太刀浴びせる。
「あまり私を怒らせないで!」
『ネトル・ダークネスフィニッシュ!』
青緑の斬撃を、濡レドランは両腕で受け止めてみせた。
「無駄だ。サイボーグ化した私は、攻撃力及び防御力が飛躍的に向上している。元三武神程度では、話にならない!」
「なっ……」
「『濡レドランチャー』!」
至近距離から浴びせられた爆撃を喰らい、ネトルは大きく吹き飛ばされてしまった。光に包まれて変身解除し、箱根を流れる川へと落下する。
「水落ちは生存フラグ。それに、さほど深い川でもあるまい。確実にとどめを差しておかねば」
特撮番組のお約束もきちんと覚えているらしい濡レドランは、橋の欄干へ近づいた。もう一発、ミサイルをぶち込んでやるつもりのようだ。
「――そうはさせないわ!」
「濡レドラン、てめえまた懲りずに復活しやがったな!」
外が騒がしいことに気づいた美明日と裕介が、そこへ駆けつけた。浴衣に上着を軽く羽織った格好で、変身アイテムを取り出す。
ネトルが水落ちしてダウンしている関係で、美明日はネトルティ来部にはなれず、「BANG・解」も使えない。それでも、現状の最高戦力で挑むつもりだった。
『Wing! Wing! Winning! ホーリー! ホーリー! ホーリー! ホーリー! ホーリー来部~!』
「インストール、『オメガ珈琲シルバー』。さらに『BANG・解』、『喫茶斬月』!」
メタリックホワイトと銀の戦士が並び立つ。雄叫びを上げてサイボーグの濡レドランへ突進しながら、二人は必殺技を発動した。
ヒーロー側が初手で必殺技を使うと、大体においてそれは破られるものだ。しかし、今は濡レドランがネトルへとどめを差す隙を与えないのが最優先。ダメージを与えることより敵の牽制が目的だった。
『ホーリー来部・ジャスティスフィナーレ!』
「『オメガ天衝』!」
美明日が来部ガンからビームを発射し、裕介は珈琲サイブレードを一振りして黒い斬撃を飛ばす。
「『濡レメラン』!」
灰色の機械怪人は、一対のブーメラン状の武器を召喚。それらを合体させ、勢いよく投擲した。通常攻撃みたいな技だが意外と高威力で、事実、二人の同時必殺技をほとんど相殺してしまった。
「ほう。少なくともネトルよりは、倒し甲斐がありそうだ」
濡レドランは頷き、やや唐突に踵を返した。
「今日お前たちと交戦したのは、新しい肉体を試運転したかっただけだ。まだ記憶も完全ではないし、これ以上の戦闘に意味はない。そろそろ退かせてもらうぞ」
早々にゲートを生成した怪人を、裕介は思わず「おい待てよ!」と呼び止めた。
「まだ勝負はついちゃいねえぞ!」
「おっと。お前たちがまずやるべきなのは、川へ転落した相方の捜索ではないのか? 俺を追撃するのは良いが、その間にネトルが溺れ死んでいたりしたらどうなることやら……クックック」
裕介の腕を引き、「悔しいけど、彼の言う通りよ」と美明日が諭した。
「今ここで濡レドランを倒せたとしても、彼はまた復活する可能性が高いわ。倒しても倒してもなかなか死なない相手とやり合うよりは、ネトルを助けた方が良い」
「チッ……」
彼女の言うことももっともだと感じ、オメガ珈琲シルバーは戦闘続行を断念。川へ降り、ネトルの捜索を開始した。
「フン。素直でよろしいことだ」
そんな二人の姿を鼻で笑い、濡レドランは引き上げようとした。
「――濡レドラン様」
けれども、彼の名を呼ぶ者がいた。訝しげに振り向くと、鮫の特徴を備えた怪人が跪いている。
「LFO三英雄の一角、SUNダールでございます。失礼ですが、先刻の戦隊どもとの会話、一部聞こえてしまいました。このSUNダールのことは覚えておりますでしょうか?」
※次回の更新は1週間後の予定です。