SUNダールが露天風呂へ転落したとき、濡レドランは「ウェット」性癖による解析を開始していた。僅か数秒のうちに相手の過去を参照し終え、目的を果たしたのである。
濡レドランは別に、SUNダールのことを信じていたわけではなかった。温泉へ誘ったのは、相手が嘘をついているかどうかをウェット性癖の力で確かめるためだったのだ。
「お前が過去の私を殺したシーンを参照したことで、お前の嘘と魂胆は見抜いた。さらに、お前の視点から過去の私の行動を見ていくことで、私は自分の記憶を取り戻すことができた。感謝するぞ、SUNダール。……もっとも、自分を一度殺した相手に礼を言うのも、変な話だがな。今度はお前が殺される番だ」
「貴様っ!」
跳び上がるようにして露天風呂から出たSUNダールは、腰の刀を抜き放ち、斬りかかった。けれども、濡レドランにはあっさりと避けられてしまう。
「ウェット性癖の能力を忘れたのか? 体や衣類が湿っている限り、お前の考えていることはすべて私に筒抜けだ。どこから攻撃が来るのか分かっていれば、かわすのは容易い」
ブーメラン状の武器を召喚し、青い怪人はすれ違いざまに一閃を浴びせた。SUNダールが怯んだ隙に、彼が鎧の中に隠していた原典のカードを拾い上げる。
「これは返してもらうぞ」
「黙れ! 貴様には渡すものか。――次元忍法・『自在縄』!」
SUNダールは唸り、光の縄を伸ばして奪還を試みた。
「『濡レドランチャー』!」
が、相手の肩から一斉射出されたミサイルが、縄を粉砕。それだけでなく鮫怪人にも反発か命中し、軽く吹き飛ばした。
「自慢の『日焼けフェチ』性癖も、陽の光が差さない夜では無用の長物らしいな。諦めろ、SUNダール。高次元生命体ごときに私は倒せんよ」
「お、おのれ。超次元生命体め……」
うつ伏せに倒れ、悔しそうに歯噛みするSUNダール。彼の背を踏みつけ、濡レドランは嘲笑した。
「前から言いたかったのだが、私は超次元生命体ではないぞ」
「……何?」
鮫怪人は顔面蒼白になった。
「お前の超次元生命体に対するコンプレックスも復讐心も、結局はただ、見当違いの相手にぶつけられていたというわけだ。分かるか、SUNダール? お前は無意味に人生を浪費したに過ぎないのだよ」
「そんな馬鹿な。ならば、貴様は一体」
何者なのだ、と言おうとして、SUNダールの台詞の後半は悲鳴へと変換された。濡レドランが呼び出した単眼の虫たちが、鮫怪人の体へ群がったからである。フレッドを強制的に巨大化させたときのものと同じ、蝙蝠に似ているが頭部が異様に大きな虫だ。
「や、やめろおおおおっ! やめてくれ!」
「クックック。むしろ感謝してほしいくらいですよ。お前の無意味な人生が、最後の最後でほんの少しだけ意味のあるものになるのだからな。さあ、この私のために命を散らせ! 百合・BLレンジャーを倒すのだ!」
「ぐああああっ⁉」
絶叫とともに、SUNダールは巨大化した。
虫に頼らずとも自身の術で巨大化できる彼からしてみれば、巨大化の強制はありがた迷惑でしかない。しかも、巨大化すれば当然目立つ。一般市民の通報により、百合・BLレンジャーが迅速に駆けつけてきた。
この三十分ほど前、オメガ珈琲シルバーから「復活した濡レドランを箱根で発見。ネトルが彼と戦って負傷した」との連絡があった。そのため、てっきり濡レドランと戦うことになるものと思っていた一同は、相手がSUNダールだったので面食らっている。
「あれ、濡レドランいなくね?」
「よく見たら地上にいるわ。ニヤニヤしながらこっちを見上げてる。ていうかあんた、あんまりキョロキョロしないでよね! 余所見運転してて事故ったらどうすんのよ⁉」
前を見なさい前を、と操縦席でツカサに叱られているカイリ。彼らが操っているのは六体合体の最強ロボ「百合&BLカイザー・VSX」なので、六体分の総重量は半端ではない。何かの拍子に躓いて、民家を破壊でもしたら大事である。
自暴自棄になったSUNダールは怒り狂っていた。
「おのれ、濡レドラン。こうなったら、百合・BLレンジャーを道連れにしてくれるわ!」
「そう簡単にやられてたまるかよ!」
カイリが操縦桿を引く。
するとロボは左腕からビームを放ちながら敵に接近し、右腕のブレードで斬りつけた。さらに右肩のガトリング砲を近距離からぶっ放し、後退したSUNダールの脇腹へ、左足で回し蹴りを叩き込む。図体がでかい割にはかなり身軽な動きで、百合&BLカイザーは猛攻を加えた。
「フン。どうした、その程度か!」
けれども、SUNダールはさほどダメージを受けた風でもなく、ピンピンしている。
「俺の原典は、原作の巨大戦においてヒーロー側の最大戦力を前にしても一歩も引かず、相手と刺し違えてようやく退場している。俺を倒したければ、相打ち覚悟で来てもらおうか!」
「え、嫌です……」
ウミカが思わず本音を漏らしてしまった。割とマジで拒否っている。
「百歩譲って敵のボスと相打ちならまだしも、敵幹部のうちの一人と相打ちはかっこ悪いのでちょっとごめんなさい無理です」
「何だと!! 本気で戦え、本気で! 俺を倒したくはないのか!」
ブチギレた鮫怪人を前に、戦隊たちは「どうしたものか」と考えていた。
もしもSUNダールが「巨大戦時に相打ち以外では倒せない」的な厄介な能力を備えているのだとしたら、下手に百合&BLカイザーで突っ込んで刺し違えるわけにはいかない。六体合体のこの最強戦力を今失えば、これからのLFOとの巨大戦で苦労するのは必至だからだ。合体機能を持たない来部ボクサー、ゼロタウラス、BLレックスロボの三機だけで、どこまでやれるかは分からない。
「……なら、倒さなければいいだけだ」
噂をすれば影が差す。
BLレックスロボの肩に乗ったナオヤことBLファイヤーが、いつの間にかSUNダールの背後を取っていた。彼は敵の不意を突くため、他の面々と別行動していたのである。
「『マックスBLブリザード』!」
「何っ⁉」
回避する隙を与えず、恐竜モチーフの赤いロボの肩から低温レーザーが発射された。それはSUNダールの全身を包み込み、圧縮冷凍の作用を及ぼす。瞬く間に鮫怪人の体表は白い氷の層に覆われ、五十メートル以上ある体躯は手のひらサイズにまで縮小されてしまった。
殺したわけではない。相手の意識を保ったまま、身動きだけを封じる。考えようによっては死よりも重い罰だ。
「圧縮冷凍が溶ける前に、持参したクーラーボックスへ放り込んでおかなければ」
BLファイヤーはロボットの肩から飛び降り、華麗に着地した。よくできたフィギュアのように微動だにしないSUNダールへ駆け寄るも、その行く手を濡レドランが阻む。
「濡レドラン……!」
「おっと、勘違いしないで頂こう。私が用があるのはSUNダールではない。彼の所持している原典だけだ」
そう言って、青の怪人はカードを一枚、冷凍されたSUNダールへと投げつけた。忍者のパワーを内部へ封じると、カードは自動的に濡レドランの手元へ戻ってくる。
「百合・BLレンジャーへほとんど何のダメージも与えられないとは、SUNダールはつくづく使えない奴でした。あとは煮るなり焼くなり、好きにして頂いて構いませんよ」
原典を奪われたSUNダールは人型を維持できなくなり、光の塊のような姿のまま氷漬けになっていた。無様に敗北した部下には目もくれず、濡レドランは新型ゲートを開いて退散する。
「おい、どこへ行く」
背中越しにナオヤから問われ、彼は「仕事が残っているのですよ」と答えた。
「SUNダールは私から原典を奪い取り、高次元生命体へ分配した。その分配した者どもへ、然るべき罰を与えなければ。では、失礼します」