SUNダールの記憶を読んだことで、彼が高次元界のどこで同志たちと会っていたかは、濡レドランの手に取るように分かる。SUNダールの同志たちの顔や名前も分かる。つまり濡レドランは、その明晰な頭脳の中に裏切り者のリストが入っているも同然だった。
「……ここか」
ゲートをくぐり、高次元界の荒野へ出る。そこかしこにみすぼらしい掘っ立て小屋が建ち並ぶ中、家々から人型の高次元生命体たちが顔を出した。
「あの、どなたでしょうか。この辺の方ではないですよね」
「無論だ。そもそも私は高次元生命体ではない」
恐る恐る尋ねてきた小柄な老婆を、濡レドランは挑むように睨みつけた。
「私の名はサイボーグの濡レドラン。お前たちが慕っていたSUNダールが、一度は殺した相手ですよ。ま、もう復活しましたがね」
今日は仕返しに参りました、とおどけた口調で続ける。
「SUNダールが私から奪い、お前たちへ配った原典。それを返して頂きたい。大人しく返却すれば、命までは取りませんよ」
「お断りだよ!」
老婆に続き、他の若い者たちも「そうだそうだ」と口々に叫んだ。
「私たち高次元生命体は、力が弱いからって超次元生命体から散々迫害されてきたんだ。力さえあれば、もう馬鹿にされたり暴力を振るわれたりしないんだよ。だから、この原典は渡せない。私たちの悲願を実現するために、こいつはどうしても必要なのさ!」
「……愚かな」
貧者たちの必死の訴えを、濡レドランは一笑に付した。
「人間界において、人が外国人を差別するのはなぜだ。自分たちより劣っているから? 違うな。『相手が外国人だから』だ。それと同じですよ。お前たちが差別されるのは、弱いからではない。お前たちが高次元生命体だからです。たとえお前たちの戦闘能力が多少上がったところで、差別や偏見を完全になくすことなどできはしない」
「何だと!」
「無礼な奴め!」
おもむろに原典のカードを取り出し始める高次元生命体たち。各々がSUNダールから託された原典のパワーを解放し、ヒーロー然とした格好へ変身を遂げた。
圧倒的な数的不利にもかかわらず、濡レドランは余裕の表情だった。
「ちょうどいい。ルーカスの『他殺博徒』を参考にして会得したこの術を、試してみるときが来たようだ」
どこからかガベル――裁判で使われる、木製の槌――を召喚し、彼はそれを近くの掘っ立て小屋の柱へ打ちつけた。
「……『性癖展開』」
刹那、雨が降り始める。
「『誅伏湿死(ちゅうぷくしつし)』!」
怪人が高らかに宣言すると、彼と高次元生命体たちを囲むように無数のギロチン台が出現した。
濡レドランの性癖展開「誅伏湿死」は、付近に雨を降らせ、その中で簡易的な裁判を行うというものだ。被告人となる相手がこれまでに犯した罪の中からランダムに一つを取り上げ、それについて裁判官が審議。有罪と認められれば、相手の所有物を一つ取り上げることができる。さらに、もし「死刑」判決が出たら、検察官である濡レドラン自身へ文字通り必殺の武器が付与される。
さて、先刻「被告人となる相手がこれまでに犯した罪の中からランダムに一つを取り上げる」と書いた。被告人が一人なら、無論この通りだろう。しかし今回は特殊なケースで、この場にいる高次元生命体全員が被告人扱いとなっている。それらすべてを検察官が起訴するとなると、共通の罪状が必要になる。
そんな罪状は一つしかない。すなわち……。
「被告人、高次元生命体一同には、本来はこの私、濡レドランに所有権のある原典を所持し、そうと知りながら、警察へ届けるといった然るべき処置を故意に行っていない疑いがありますね」
サイボーグの濡レドランが述べると、二名の裁判官が「うーむ」と声を上げた。
「これはひどい。死刑にするしかあるまいと、この私、彗星の濡レドランは考えます」
「いやいや。こんな雑魚ども、死刑にする価値もない。せいぜい懲役数年か、罰金ですよ。ま、有罪になりさえすればペナルティーを課せられるんですから、正直なところ罪状なんて何でも良いんですけどね」と、チュパカプラの濡レドラン。
そう。この裁判、裁判官が被告人の濡レドランの分身体なのである。インチキもいいところだ。挙句の果てに「罪状は何でもいい」とか言い出す始末だし。
ツノゼミとゲジゲジのモチーフがそれぞれ入っている二体の怪人はなおもボソボソと話し合い、やがて声を揃えて「有罪! 懲役五年!」と叫んだ。
「はい、有罪になりました。では、罰として……『没収』!」
サイボーグの濡レドランの一声で、高次元生命体たちへ性癖の作用が働く。彼らが使っていた原典のパワーはカード内へと再び吸収され、そのままカードごと濡レドランの懐へと収まった。
有罪が認められれば、相手の所有物を一つ没収できる。相手が複数名いれば、一人につき一点ずつ奪えるのだ。
「そ、そんな!」
「SUNダールが俺たちのために体を張ってくれたってのに、こんなのってないだろ⁉」
戦うための力を失った高次元生命体たちはうろたえ、どうしたらいいのか途方に暮れている様子だった。濡レドランは憐れみを込めて彼らを眺め、指をパチンと鳴らす。
「憎きSUNダールの始末は、私が強制的に巨大化させるかたちで行ってしまいましたからね。せめて、彼の同志の始末くらいはお前に譲りましょう。来なさい、入墨ドウコク」
「……やっと復活したようだな、濡レドラン」
ゲーミングキーボードみたく発光するゲートが開き、赤と黒の荒武者のごとき怪人が歩み出る。また姿を変えて甦った恩人を見て、ニッと笑った。
「おめえが戻ってくるのを待ってたぜ。粋な真似してくれるじゃねえか」
「私とお前の仲だろう、入墨。遠慮はいらない」
粋な真似というのは、何もとどめを譲ったことだけではない。濡レドランの性癖展開「誅伏湿死」の効果で雨が降り続いているため、入墨は水切れを起こす心配がないのだ。思う存分暴れられる。
「それじゃ、お構いなく行くぜ」
大刀と小刀、二刀を抜き放って荒武者は吠えた。
「悪く思うなよ。SUNダールの悪事の片棒を担いだ時点で、てめえらの運は尽きちまってるんだからな!」
悲鳴を上げて逃げ惑う高次元生命体たちを、入墨ドウコクは一人たりとも逃がさない。高速移動でターゲットの進路上へ先回りし、威力絶大の斬撃を見舞う。そして、すぐさま次の獲物へ取りかかる。返り血を浴びるのも構わず、斬って斬って殺しまくった。
「さすがだな、入墨」
その凄惨な光景から、濡レドランは決して目を背けることなく、薄ら笑いを浮かべて観戦していた。
「やはり、私の見る目は正しかった。お前は無貌支持派の下位序列に甘んじる器ではない。ビッグ・ファーストに匹敵する可能性すらある、最強の鬼神だよ」
かくして、LFO三英雄の一角、SUNダールは圧縮冷凍された。原典も奪われ、ほとんど何の戦闘能力も持たない存在へと成り下がった。超次元生命体を見返せるだけの力を求めていた彼からすれば、きわめて不本意な結末だろう。
だが、復活した濡レドランはさらなるパワーアップを遂げ、怪しい術まで会得した。まだまだ状況は厳しい。
戦え、百合レンジャー! 頑張れ、BLレンジャー! とりあえず、ネトルの無事を祈るぞ!