さて、巨大化したSUNダールの圧縮冷凍に成功した百合・BLレンジャーは、二手に分かれていた。
手のひらサイズになったSUNダールを保冷剤と一緒にカプセルに入れ、ナオヤ、ケイイチロウ、サクヤは東京まで怪人を護送。それ以外のメンバーは川へ降り、ネトルの捜索にあたった。
「おーい、ネトル~! ネトル~!」
変身解除した一同は、口に両手を当ててメガホンみたくして彼女の名を呼んだ。
「ねえ。改めて呼んでみて思ったけど、ネトルって相当恥ずかしい名前よね」
「それを言ったら、この作品のキャラの名前で恥ずかしくない名前の方がむしろ珍しいんじゃね? 声に出して読みたくない日本語ランキングで、上位争いできるレベル。ちなみにワーストランキングな」
「メタ発言するな!!」
毎度おなじみのコントを繰り広げるツカサとカイリだったが、やがてカイリの方が何か見つけたようだった。
「おい! もう少し下流の方に、全裸の美女が浮かんでるぞ! 全裸の美女が! 全裸が!」
「全裸全裸って連呼しないでくれる⁉ あと、ネトルをガン見するのもやめて!!」
あんたはあたしのことだけ見とけばいいの、と言わんばかりに、ツカサはカイリの肩を掴んで無理やり自分の方を向かせた。
男性陣が慌ててネトルから目を逸らし、ツカサ、ウミカ、美明日の三名が救出に向かった。不幸中の幸いで、川は流れが緩やかだったので流される心配はない。
仰向けにぐったりと浮かんでいたのは、来部美明日と瓜二つの美女。浴衣は川へ転落した際に脱げてしまったらしく、一糸まとわぬ姿である。眼鏡も掛けていない。
「……それにしても寒いわね」
三人がかりでネトルを担ぎ上げ、岸へ寝かせてから、美明日はぶるっと身を震わせた。冬の夜に川の水に浸かれば、冷えて当然だった。
「ネトルの体はもっと冷えているはずよ。すぐに旅館へ運んで、温泉に入らせましょう」
「名案ね。もちろん、あたしも手伝うわ」
「私も! ってウミカはウミカはしれっと箱根の温泉を堪能しようとしてみたり!」
こうして、一同は旅館の大浴場へ向かったのだった。
シャワーで熱いお湯をしばらく掛けられているうちに、ネトルは目を覚ました。
「……ん」
美明日に後ろから抱きかかえられる格好で、彼女は介抱されていた。むくりと起き上がり、目を擦る。
「チッ。私としたことが、濡レドランにやられちゃったみたいね」
「不意打ちみたいなものだったんでしょ? 仕方ないわよ」
無事で何よりよ、と優しく相方をハグする美明日。
「ごめんね、ネトル。湘南エリアへ移住するとき、あなた、『港区女子になれる』って騙されてたことで怒ってたわよね。それで、今日私と早川君が盛り上がってるところを邪魔しに出てきたんでしょ?」
「ううん。それはそれ、これはこれよ」
ネトルはゆっくりと首を振った。
「港区女子と一口に言っても、全員が港区在住なわけではないわ。むしろそれは少数派で、多くの港区女子は都内23区のどこかから港区まで足を運んでいる。ある統計によれば、港区女子のうち二割は神奈川県から来ているそうよ。だから、もし私が湘南から港区へ通ったとしても、一応は港区女子の定義内に収まると思うの。今回邪魔しちゃったのは原典の影響を受けたのも一因だけど、まあ私の気まぐれみたいなものね」
ただ港区にいるだけで港区女子を名乗れるわけではないので、あとは華やかな生活をできるか否かにかかっていそうだ。
「あのね、ネトル。私、わざと嘘をついたわけじゃなかったのよ。ただ、その、勘違いをしていて……」
「勘違い?」
「ええ」
相方から少し体を離し、美明日は自らの体を抱くようにして恥じらった。
「笑わないでくれる? ……私、土地勘がなさすぎて、みなとみらいって港区の親戚みたいなものだと思い込んでいたの」
「ブハッ」
ネトルは心底おかしそうに、思いっ切り吹き出して笑い転げていた。すっかり元気そうである。
「アハ、ハハハハハッ。あなた、頭は良いのにたまに変なところでズレてるわよね」
「わ、笑わないでって言ったじゃない⁉」
「ていうか、今のあなたの家からだと港区の品川駅まで電車で約五十分、みなとみらい駅までだと約四十分じゃなかった? どっちにしろほとんど変わらないのよ、所要時間なんて! フフッ、アハハハ」
「もうっ、笑わないでよ」
そう言いつつも、美明日もつられてクスクス笑いそうになっている。
何はともあれ、相方がさほど弱っていなくて何よりだ。二人はその後も楽しげに談笑を続け、お互いの体を仲良く洗いっこした。
「ふふふ。双子の姉妹の百合とかで、こういうシチュエーションありそうだよね」
湯船に浸かりながら彼女たちを見守る、百合イエローことウミカは眼福に預かっていた。
「百合に限らずBLもそうだけど、同性間での友情と愛情は別物よ。一応言っておくわ」
ウミカが知らず知らずのうちに誰かの地雷を踏み抜かないよう、ツカサは念のためフォローを入れておいた。
一方、男湯では。
「こういうとき、バカな男が女湯を覗こうとしたのがバレて袋叩きにされる……というのが世の常だが」
物知り顔で、カイリは不敵に笑った。
「俺くらいの男になると、ギャンブルには出ない」
「先輩、そりゃリスク冒してまでわざわざパートナーの裸を見ようとはしませんよ」
同じく彼女持ちの裕介が、呆れたように言う。その隣でトウマは呟いた。
「どうせやるのなら、完全犯罪だな。露天風呂にドローンとか飛ばしてみるのも良いかもしれない」
「トウマ先輩、それはもっとダメなやつです」
「冗談だ」
冗談に聞こえないからやめてほしい。