百合レンジャーvsBLレンジャー   作:クリスタルスカイ

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40 これからは私の時代だ

 ドアをノックする音で、Bリアン女王は振り向いた。

 

「はい、どなたかしら?」

「……サイボーグの濡レドラン」

「あらあら、濡レドラン! ようやく復活したんだねえ。ドアを開けるよ。まあ、またずいぶん姿が変わってるじゃあないか。私はね、お前が甦るのを今か今かと待ってたのさ。ささ、どうぞお上がり」

 

 今か今かと待っていた割には、裏切り者のSUNダールを倒すための戦力を彼女は一切派遣しなかった。内心「調子のいい奴め」と毒づきつつも、濡レドランは女王の自宅へお邪魔した。

 別に、お茶しに来たわけではない。近況を確認しに来ただけだ。

 

 

「Bリアン女王、その怪人は何だ?」

「ああ、こいつかい。こいつはね、B・ジュクラーさ。今朝作ったばかり、出来立てほやほやの我が子だよ」

 

 濡レドランが指さした先には、鉛筆モチーフの怪人が体育座りしていた。頭が鉛筆型、胸にも何本かの鉛筆型パーツが付いている。

 

「しくしく泣いているように見えるが……?」

「そうなんだよ。何とこの子はね、作戦に失敗しておめおめと逃げ帰ってきたのさ! けど私はね、できの悪い子ほど可愛く感じちゃうたちだから、別に罰したりはしないよ。褒めて伸ばす! アーッハッハッハ!」

 

 一体、どんな作戦を実行しようとしてしくじったのだろうか。濡レドランの心を読んだかのように、女王は語り始めた。

 

 

「あれは、人間界の冬の寒い朝のことだったねえ」

「うん。まあ、今朝生まれたばかりで人間界へ送られたのなら、向こうは冬だろうな」

 

 至極当然のことをすごそうに言わないでほしい。

 

「B・ジュクラーには、体細胞から万能鉛筆を生成する特殊能力があるのさ。その万能鉛筆を使うと、あら不思議。鉛筆がひとりでに動いて、テストの問題を解いてくれる。万能鉛筆を使った子供たちは、何も勉強しなくたってテストで百点が取れるようになるんだよ」

「そんなことをして、何になると言うのです」

「分かってないねえ、濡レドランは」

 

 チッチッ、とBリアン女王は指を振った。

 

 

「万能鉛筆を与えられた子供は、努力することを虚しいと感じ、やがてあらゆる向上心を失って怠け者になる。私の計画ではね、B・ジュクラーの万能鉛筆を配布する学習塾、その名も『百点塾』を全国展開して、日本中の子供たちを怠け者にするはずだったのさ。そうすれば、日本の未来はお先真っ暗だからね。でも……」

 

 角のようなトゲのような、変な被り物をした中年女性は、そこで悲しそうにB・ジュクラーを一瞥した。

 

「B・ジュクラーが万能鉛筆を渡そうとした小学生たちは皆、『鉛筆なんかいらないよ!』だの、『今時、鉛筆は時代遅れだぜ! それよりシャーペンくれよ!』だの、『今は小学生だってタブレットで勉強する時代なのに、時代錯誤も甚だしいですよ』だのと、彼のことをけちょんけちょんに言い負かしたのさ。で、鉛筆を受け取ってもらえなくて泣いてるってわけ」

「そ、そうか」

 

 サイボーグの濡レドランはこめかみを指で押さえた。体のほとんどが機械化されているというのに、頭痛に似た感覚に襲われる。

 

 

「Bリアン。私は百合・BLレンジャー及びレジスタンスの排除を命じたはずだ。日本の子供たちを怠け者にして将来的に国力衰退を図るような、そんな気の長い作戦をやれと言った覚えはない」

「だって、しょうがないじゃないか。私が使ってる原典の怪人には、子供をターゲットにした作戦を展開する奴らがうじゃうじゃいるからねえ。ほら、昭和特撮にはほぼ毎回子役が出てきて、怪人に狙われるだろう?」

「まあ、それはそうだが」

 

 ため息をつきたいのを、濡レドランは堪えた。どうもこのBリアン女王という部下、バラエティー豊かな怪人を生成できる能力は買うが、いささか仕事が遅すぎるきらいがある。マイペースとも言う。

 

 

「とにかく、回りくどい作戦を展開するのはやめてもらおう。早く新しい怪人を生み出せ」

「分かった、分かったよ。ちょっと待っとくれ」

 

 女王はキッチンへ向かい、冷蔵庫からタマゴを一つ取り出した。それに魔力を込めると、間もなく怪人が中から現れた。

 右半身からカラフルな風船が生えた、「B・アドバルラー」の誕生である。

 

「さあ、生まれた!」

 

 嬉しそうに怪人の手を取り、女王は言う。

 

「このB・アドバルラーには、毒ガスを詰めた風船を生成し、遠隔操作かつ好きなタイミングでそれを割る能力がある。ちなみに毒ガスは、浴びれば一時的に視力が奪われる効果も付いてるよ。こいつを使えば、戦隊どもの目を潰すのも朝飯前さ!」

「なるほど、それは心強い。ではB・アドバルラー、さっそく私と共に……」

 

 来てもらおうか、と近づいた濡レドランから、怪人は大きく跳び退いた。そしてあろうことか、B・ジュクラーの隣に体育座りし、同じようにめそめそと泣き出してしまった。

 

「い、嫌です! 僕には、そんなひどいことはできない!」

「何っ?」 

 

 

 Bリアン女王が、申し訳なさそうに頭を掻いた。

 

「ありゃりゃ、ごめんね濡レドラン。どうやら、根っこの部分が善良な子を召喚してしまったみたいだ。原典においても、人質作戦を最後まで遂行することなく退場しているようだよ」

「はあ」

 

 今度こそ本当にため息をついて、サイボーグの濡レドランは踵を返した。

 

「今日はもういい。次に来るときまでに、ちゃんとした怪人を生み出して成果を残しておけ」

 

 玄関ドアを開けて外に出て、新型ゲートを生成。それを通り抜けて、さっさと超次元界中央部へワープしてしまった。

 

 

(……やはり、Bリアンはマイペースすぎる。奴を三英雄に選んだのは、私の見込み違いだったかもしれないな。少なくとも即戦力としては、新入りのメラ・メロンパンの方がまだ役に立つ)

 

 生い茂る木々の間を歩きながら、濡レドランは考えた。

 

(入墨も戦闘力こそ高いが、原典の性質上、長時間の戦闘は難しい。私の「誅伏湿死」などで戦場の状況を整えてはじめて投入できる。彼はあくまで最後の切り札。ダメ押しにこそ使うべきだ)

 

 クセの強い他の三英雄と比べ、高次元生命体の派閥をまとめていたSUNダールは目立った短所がなく、能力も攻防のバランスが取れていた。だからこそ「切り込み隊長に適任」と判断して三英雄に抜擢したのだが、とんだ食わせ者だった。

 濡レドランはSUNダールを処分し、彼の配下だった高次元生命体たちもLFOから除名した。LFO加入時に与えた原典のカードも、無論剥奪済みである。したがって裏切り者への制裁は終わっているけども、それに伴う戦力ダウンは否めない。

 

 

(となると、新たな幹部候補を探すべきか? ……いや)

 

 違うな、と機械怪人は考え直した。青い眼が爛々と輝く。

 

(今まで以上に、私が前線へ出れば良いだけの話だ)

 

 濡レドランには、原作(テレビ本編)ではあと一回、外伝作品も含めればあと二回ほど、倒された際の復活チャンスが残っている。彼が最強の形態を手に入れる日は、そう遠くない。

 

(待っていろ、百合・BLレンジャー。邪魔なSUNダールを処分し、復活に伴うパワーアップも遂げた今……これからは、私の時代だ!)

 




※次回の更新は1週間後の予定です。
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