病室にて、ゴークイーンズ三名は相変わらずFPSゲームに興じていた。三人でチームを組んでマッチングを行い、息の合ったプレイをしているようである。
「ブルー、そっちに敵が一人行きましたわ~!」
「了解ですわ、レッド! 返り討ちにしてやりますの!」
にぎやかに遊んでいるので、お菊も自然と興味をそそられてしまう。
「……ねえ。そのゲームって、どうやって遊ぶの? 私もやってみたいわ」
松葉杖を突いて女王たちのベッドへ移動し、タブレットの画面を覗き込んだ。ちょうど、三人のチームが敵にやられて全滅したところだった。
「レクチャーしてさしあげますわ~!」とイエロー・クイーン。
女王たちは皆タブレットでプレイしていたが、このFPSゲームはアプリさえダウンロードすればスマホでもできる。イエローは自分のスマホをお菊に貸し、アプリを入れると、四人チームを結成して再度マッチングを行った。
間もなく、四人チームが二十五組、計百名のプレイヤーが画面上に集結する。
「私たちはこれから飛行機に乗って移動した後、パラシュートでゲームエリア内に降下し、そこに落ちている武器やアイテムを拾うのですわ~! そして、最後の一チームになるまで殺し合うのですわ!」
「ふむふむ。なかなか物騒なゲームね」
と言いつつも、お菊はやる気満々だ。よほど病室でやることがなく、退屈していたのだろう。FPSは、彼女を退屈から救いに来たのかもしれない。
戦いの鐘が鳴り、とりあえず同盟を結んだ四人組は飛行機で出発した。飛行機は直線に近いルートを飛び、プレイヤーは任意の場所でパラシュートを開いて降下できる。
どの場所に降りてゲームをスタートするかは、ある意味、FPSにおいて最も重要なことだ。他のチームもたくさん降り立っているような激戦区に降りれば、開始直後に撃たれて即死もあり得る。逆に、過疎っている穴場スポットへ降りれば、戦いを避けて好きなだけアイテムを集めることも可能だ。
「ここに降りますわ~!」
はたして、レッド・クイーンがゲームエリア上でマークを付けた建物には、「デパート」と書いてあった。名前からしてプレイヤー人口が多そうな場所である。飛行機のルートからさほど離れていないため、ますます人が集まりそうだ。
「競争率高そうね」
心配そうなお菊に、三人は意味ありげに笑ってみせた。
「大丈夫。私たちには、幾度もトライアンドエラーを繰り返して得た裏技があるのですわ~!」
パラシュートが開き、ゆらゆらと降下。四人が着地したのは、デパートの屋上であった。それも、屋上の中で一段高くなっている箇所だ。
「皆さん、すぐに伏せるのですわ!」
レッド・クイーンの指示で、他三人も急いで画面を操作。アバターを伏せた姿勢にさせた。匍匐前進できそうな体勢である。
「えっ、武器やアイテムを拾って戦うんじゃなかったの?」
戸惑いつつも、お菊も従った。
(カツン、カツン……)
(ズガガガガガ!)
画面右上に、他のチームのプレイヤーらの足音や銃声が断続的に聞こえる。やがてそれらが遠ざかると、レッド・クイーンがアバターをむくりと起き上がらせる。
「オーッホッホッホ! 邪魔なプレイヤーたちは去りましたわ~! さあ、いよいよ私たちの出番ですわよ!」
「いやちょっと待ちなさいよ。さすがに説明不足じゃない⁉」
彼女に倣ってアバターを立ち上がらせながら、お菊はツッコんだ。
「他のチームの人たち、着地してすぐに武器を拾って戦ってたわよね? 何で私たちはこんなコソコソ隠れてるわけ?」
「これこそが、私たちの開発した必勝法ですわ~!」とブルー・クイーン。
「研究の結果、デパートの屋上には他より一段高くなっている箇所があり、そこへはいかなる手段を用いても下からよじ登ることができないと分かっていますの。つまり私たちが今いる場所には、いくらアバターをジャンプさせても下界から登ることは不可能。いわゆる絶対領域ですわ~!」
高所からひらりと屋上へ降り立ち、ブルー・クイーンはさっそくアイテムを集めにかかった。
といっても、既に他のプレイヤーが漁った後なので、残り物みたいな武装しか落ちていない。それを集めていく様は、さながら死肉を食らうハイエナだ。こんなに地味でかっこ悪い戦法が必勝法なら、必勝しなくてもいいとお菊は思う。
ブルーのアバターはやけにでかいリュックを拾い、背負った。まるで殻を背負ったカタツムリである。
「何でデパートの屋上が、スカートとソックスの間で露出した太腿部分なのよ。『不可侵領域』の間違いじゃなくて?」
「失礼。噛みましたわ!」
「いや、わざとね」
「嚙みまみたわ!」
「わざとじゃないの⁉」
もう訳が分からない。お菊のアバターもショットガンを拾ったが、どうやらこれは射程が短く、近距離以外ではおよそ使い物にならないものらしい。要するにハズレ武器だ。
四人が最低限の装備を整えたところで、レッド・クイーンの号令で「いざ、狙い撃ちですわ!」ということになった。
「このデパートには吹き抜けになっているところがあり、そこから階下を見下ろせますの。もし階下にプレイヤーがいたら、一方的に撃って倒せますわ~!」
「やり方がいちいちせこいわね⁉」
ツッコんでいる間にも、イエローが敵を一名発見した。射程の長い狙撃銃を幸運にもゲットしていた彼女は、見事なエイムで敵の頭部を撃ち抜いた。ほぼ一撃で、敵プレイヤーがダウンする。うつ伏せに倒れ、自由に動けなくなった。
「やった! 一人倒したわね!」
喜ぶお菊に、「まだ終わってないのですわ」と首を振るイエロー。
「ダウン状態に陥ったプレイヤーは徐々に体力ゲージが減少し、ゼロになって死亡しますわ。けれど、死ぬ前に同じチームのプレイヤーから救助を受ければ、復活することが可能ですの」
「なるほど……ということは、仲間が助けに来る前に追加ダメージを与えて、さっさと体力ゲージをゼロにしなくちゃいけないのね!」
使い物にならないショットガンを構えたお菊を、ブルーは制した。
「いえ、急いては事を仕損じますわ~!」
十秒後。
ダウンした仲間を救助すべく、一人の男性プレイヤーが走ってくるのが見えた。
「大丈夫か⁉ 待ってろ、すぐ助けてやる!」
「あ、相棒……」
仲間へ手を伸ばし、救助を開始した男性プレイヤー。そこへ、デパートの屋上からブルーが再び仕掛けた。
「隙あり! 二人まとめて、地獄に送って差し上げますわ~!!」
「「ぐあああ~っ⁉」」
ヘッドショットをもろに受け、二名のプレイヤーは即死した。あとには、彼らが生前に所有していたアイテム群がドロップする。あれもあとで拾いに行かなければ。
「オーッホッホッホ!」
ブルー・クイーンが勝ち誇る。
「このゲーム、救助活動中は武器やアイテムの操作ができず、完全に無防備になりますの! だからダウンした敵はすぐに仕留めず、仲間をおびき寄せて無防備になったところを殺すための餌として使うのが最適解なのですわ~!」
「え、えげつないわね……」
お菊がドン引きしていると、画面上部に「安全地帯・縮小中」と警告が表示された。
「安全地帯?」