「そうそう、説明していませんでしたわね。多くのFPSでは、時間経過とともにプレイヤーが活動できるエリアが狭まってきますの。そのエリアが、いわゆる安全地帯。安全地帯の外にいると体力ゲージをガリガリ削られてしまうから、ゲーム内の地図を適宜確認して、安全地帯内へ向かうようにしないといけませんのよ!」
「ふうん」
安全地帯が少しずつ狭くなることで、生存しているプレイヤーの数が減っても敵に会う機会が減りすぎないようになっているのだろう。上手いことできている。
もっとも、四人が今いるデパートは安全地帯の中に入っているので、特に移動する必要はない。一同はなるべく足音を立てないように、そろりそろりと屋上から階下へ向かうと、床に落ちているアイテムを拾い集めた。
「そもそも、デパートに銃や弾丸が転がってることがおかしな気がするわよね」
どういう世界観のゲームなのだろう。あれか、ここは本物の百貨店ではなく、百貨店をイメージして作られた箱庭の中で戦闘演習を行っているとか、そういう感じなのだろうか。デパートの骨組みだけを用意して、そこへ適当にアイテムをばら撒いたようにしか見えない。テナントらしいテナントが入っていないのだ。
世界観に疑問を持ちつつも、お菊は中~遠距離の敵に対応したライフルと、遠距離用の狙撃銃をゲットしていた。残り物ではあるが、レッド・クイーンに見てもらったところ「そんなに悪い武器ではない」そうだ。これで遠くの敵も狙い撃てる。
デパートの一階部分へ到達し、フロア全体を一通り漁った後、お菊は「これからどうするの?」と尋ねた。
「もうデパート内には、役立ちそうなアイテムが残ってないわ。敵もいないようだし、移動する?」
「移動しませんわ~!」
レッド・クイーンが胸を張って答えた。
「この後はデパートの屋上へ戻り、屋上の縁から身を乗り出すようにして、近隣エリアの敵を見つけ次第撃ちまくるのですわ~! 結局、FPSなんて、高所から一方的に狙撃するのが最強なのですわ! どこから撃たれているのか相手が理解する前に、サクッと仕留める。これこそがベストな攻略法!」
「いやもうちょっと正々堂々と戦いなさいよ」
お菊に構わず、階段で屋上を目指そうとする女王たち。しかしそのとき、遠くから車のエンジン音が近づいてきた。マップ上にも、小さなタイヤのマークが表示される。
「あれ、何?」
「敵が運転している車が接近中ですわ~! デパートへ突っ込んできますわ~! 急いで屋上へ避難すべきですわ!」
切羽詰まった調子のイエロー・クイーン。
「え、このゲームって車を運転できるわけ……?」
「その辺の道に停まっているやつに乗り込めますわ~! チームメイトを乗せて、一緒に移動することも可能ですわ~!」
「その辺に停まっているやつを運転できるの? てことは、車には特に鍵とかは掛かってないのよね?? セキュリティー的に大問題な気がするけど……何なら、現実でやったら犯罪よ? 車泥棒よ?」
「難しいことは考えたら負けですわ~!」
ドタドタと階段を駆け上がっていくゴークイーンズたち。だがお菊は、じっとその場にとどまった。逃げるどころかライフルを構え、迫り来るスポーツカーへ突進していく。
「確かにあなたたちの言う通りに戦っていれば、むやみに会敵することなく、安全な場所から狙撃できるのかもしれない。あの車に乗っているプレイヤーも、さっきみたいに屋上の吹き抜け部分からヘッドショットするのが一番効率的なのかもしれない。だけど!」
スポーツカーへ銃を連射し、彼女は不敵に笑った。
「やっぱり、逃げ隠れするのは性に合わないのよね。正々堂々、正面突破させてもらうわ!」
お菊は知らなかった。このゲームでは、車に轢かれると即死級の特大ダメージを食らうことを。
無謀にも正面突破を試みた彼女のアバターは、銃弾を車のボディーに弾かれて全然当たらないまま、スポーツカーに轢かれてダウンした。そして容赦ない銃弾の嵐を浴び、デパート一階にて死亡したのだった。
その後、お菊の残したアイテムを漁ろうとした敵を、屋上の吹き抜けから女王たちが狙撃。仇を討った。
「あー、悔しい……」
ゲーム終了し、うなだれているお菊の肩をレッド・クイーンがぽんぽんと叩く。
「初めてにしては上出来ですわ~!」
お菊脱落後、女王三人のチームは最終的にラスト2チームまで残った。つまるところ第二位である。せこい戦法でしぶとく生き残ったが、安全地帯が狭くなるにつれて遠距離からの狙撃戦法も使えなくなり、最終的には近距離で激しく撃ち合った末に玉砕した。
「そうだ、第二位といえばダレンよ。目が治ったら、ダレンも一緒にやりましょうよ!」
振り返ると、彼は自分のベッドでラジオを聴いているところだった。
「すまないが、今忙しいんだ」
『先手、七六歩。後手、八四歩。先手、七七角。後手、八五歩』
将棋番組らしい。名人戦の解説でもしているのだろう。頭の中で盤面をイメージしながら聴くのは、結構大変な作業に思える。
「あなた、将棋のルール分かるの?」
「いや、さっぱりだ。まるで意味不明だ。モールス信号を聞かされているような気分だな」
「じゃあ何で別の局にしないのよ⁉」
ダイヤルをいじって適当にニュース番組でも流してやると、ダレンは安堵した表情になった。
「ありがとう。……ときに、ゴークイーンズたちよ」
「何ですの?」
きょとんとしている三人に、顔に傷を持つ男は問うた。
「貴様ら、FPSを元気にプレイできるくらい回復しているのなら、もうクイーンパレットを使って治癒を行えるのではないか?」
「「「あ」」」
かくして、ダレンとお菊の病院生活は終わりを告げた。
なお、クイーンパレットによる治癒はゴークイーンズ自身には施せないため、彼女らは今しばらく入院する羽目になった。