その直後のことだった。
新型ゲートを通り、サイボーグの濡レドランは人間界へ現れた。背後には、Bリアン女王から借りてきた怪人が一体、それにメラ・メロンパンが控えている。
「やれ。『B・パンチローラー』」
「ハッ!」
頭にヘッドホン、足にローラースケートを付けた怪人は、恭しく頷いた。アメフト選手のようにガッチリした肉体を持つ彼は、しかしパワー型ではない。どちらかというとテクニック寄りの、特殊能力持ちだ。
B・パンチローラーの頭部から、目には見えない催眠音波が照射された。それを浴びた通行人たちは、彼に洗脳され、意のままに操られるのである。
「良いぞ。作戦通り、洗脳した一般市民どもをBL警察本部へ殺到させろ。百合・BLレンジャーが身動きを取れずにいるうちに、私とメラ・メロンパンで病院を叩く。今度こそ、死にぞこないのレジスタンスに引導を渡すのだ!」
操られた人々は皆、ローラースケートを履いてBL警察本部へ向かった。外へ異常な人だかりができているのに気づき、ツカサたちが飛び出してくる。
「何なのよ、これ⁉」
無言で突撃してくる市民たちの攻撃をやっとのことでかわし、息を荒げる彼女たち。その光景を遠くから眺め、濡レドランは嘲笑した。
「どうだ。善良な市民たちが相手では、戦隊どもも迂闊に攻撃できまい。Bリアンもたまには有能な怪人を作ってくれるものだ。時間稼ぎにはちょうど良い」
この場をB・パンチローラーに任せ、青い怪人は黒ギャルを連れて、すぐ側の病院へと悠々と向かった。
「クックック。待っていろ、ダレン。視力を失ったお前は、もはや過去の男だ。この私が完全に葬ってやる!」
「――悪いな、濡レドラン」
けれども、彼は予測していなかった。病院の入り口に、件のダレンとお菊が陣取っている状況を。
しかもダレンの目には、光が戻っていた。
「私の視力は、たった今復活したところだ」
「何っ⁉」
さすがの濡レドランも動揺を隠せない。
「葬られるのは貴様だ、濡レドラン。仲間の仇は討たせてもらうぞ。FPSとやらではなく、この現実の世界でな」
追い打ちをかけるように、ダレンの隣に貴族専用ゲートが開いた。そこからレジスタンス構成員の男衆が二十人ほど出てきて、最後にゲートを開いていたと思しきBLACON・SUNも「トウッ!」と登場する。
今回の襲撃に際し、濡レドランは「葬送のフィリーレンが人間界を警備していない(=超次元界を警備している)」タイミングを狙った。戦略としては決して間違っていない。ただ彼にとって計算違いだったのは、敵の接近に気づいたお菊がすぐに仲間へ連絡し、援軍を寄越したことだ。
「面白い。だが、今さら何をしようが無駄な足掻きですよ」
すぐに余裕を取り戻し、濡レドランが言う。
「お前がどの二号戦士の原典を使おうが、こちらにはメラ・メロンパンがいる。彼女の使う原典は『ゾンビフィーバーフォ―ム』の原典と関連性がありますから、原典さえ渡せば、フレッドと同じく『すべての超次元ライダーをぶっ潰す力』を使用可能。どんな技を使おうが、叩き潰して差し上げましょう」
「それはどうかな!」
明後日の方向から声がして、メロンパンが顔を上げた。見れば、既に変身を終えた零騎士ヒョウガが戦場へ馳せ参じたところだった。
「メラ・メロンパン。お前に『すべての超次元ライダーをぶっ潰す力』は使えない。なぜならそれを使ったが最後、お前は俺に瞬殺されるからだ!」
「た、確かにそうかもだし⁉」
ゼロライアットの切っ先を向けられ、黒ギャルは怯んだ。
彼女の使用するドライバーは構造上、「クロス・ギャール」と「ゾンビフィーバーフォーム(フェチ神)」のバックを同時にはセットできない。どちらか片方ずつしか使えない。すなわち、クロス・ギャールによるデバフか、フェチ神による対超次元ライダー特化か、同時に一つしか使えないのだ。
そしてクロス・ギャールのデバフ効果は、一体のターゲットにのみ作用する。したがって、ヒョウガもダレンも両方とも弱らせることはできない。
「年下好き」性癖により爆発的に攻撃力をアップさせられるヒョウガにデバフをかけなければ、メラ・メロンパンは瞬殺される恐れがある。かといってヒョウガをクロス・ギャールで弱体化させているうちは、ダレンを対策できないというわけだ。瞬時にここまで考えたヒョウガは、かなりの切れ者である。
「仕方ないですね。メロンパン、お前は零騎士の足止めに徹しなさい。ダレンとその部下は私が潰す!」
部下に原典のカードを貸し与えるのを諦め、濡レドランはダレンたちへ向き直った。
「かかって来なさい、レジスタンスども。ま、ダレン以外は量産型リボンズドライバーしか使わない、雑魚に過ぎませんがね」
「悪いな、濡レドラン」
本日二度目の謝罪をして、ダレンは言う。
「私たちは方針を変えた。レジスタンスの総攻撃力を底上げするためにな」
「ほう。一体、どう変えたというのです。まさか、新たな原典でも入手したのですか?」
「手に入れたのではない。――分配したのだ」
刹那、並び立ったレジスタンスの構成員が、一斉にドライバーを腰に装着した。だがそれは、量産型のリボンズドライバーなどではない。各々が異なる形状をしている。
かつてダレンも変身したD3-Xになった者なんかは、手動でアーマーを着込むのに苦労していた。
「……分配だと?」
「そうだ」
ダレン自身もドライバーを装着し、そこへ砂時計型のアイテムをセットする。
「フレッドに部下を殺されて以来、どうにかしてレジスタンスの装備をグレードアップしたいと考え続けてきた。だが、短期間でリボンズドライバーを強化するのは困難を極める。そこで代替案として、これまで私が保有していた原典を部下へわけあたえることにしたのだ。マジェスティが使用不可になった現状、二号戦士の原典を私が独占する必要もなくなったからな」
『ネクロナイトハンター・Z!』『ファング!』『ブレード!』『ガン!』『クロー!』
ある者は変身後の姿の特性を活かし、二号戦士の原典を分け与えられなかった仲間たちへも同程度の力を分配した。ドラゴンを模した武装を身に着け、パワーアップを遂げていく。
「くだらん。所詮は急場しのぎの策だ。復活して強くなった私の敵ではない!」
濡レドランの肩からミサイルが放たれた。レジスタンスたちは素早く散開し、回避する。
「急場しのぎで結構。私たちレジスタンスの絆の力を、今見せてやる。覚悟しろ、濡レドラン!」
『ダレンリバイブ・剛烈!』『リ・バ・イ・ブ・剛烈~! 剛烈!』
丸鋸型の武器を手にした、赤いパワー型形態へチェンジしたダレン。彼に続き、歴代の二号戦士へ変身したレジスタンスたちが濡レドランへ突進していく。メラ・メロンパンも「クロス・ギャール」に変身し、零騎士との一騎討ちに臨んだ。
「やあ、お菊さん」
そこへ、パラシュートで降下してくる影があった。以前リボンズドライバーを手放し、手持ち無沙汰になっていた彼女はひどく驚いた。
「ピーター⁉ あなた、本当に神出鬼没ね」
日本で一泊してアメリカへ帰ったのだとばかり思っていたが、違ったのだろうか。いや、こんなFPSゲームみたいな登場をしたところから察するに、一度は帰国したのかもしれない。きっと何か事情があって、慌てて戻ってきたのだ。
「突然来ちゃってごめん。これ、やっぱりお菊さんに返すよ」
青年が差し出したのは、見舞いに来たときにお菊が渡したはずの、オリジナルのリボンズドライバーと大量のスタンプだった。