さて、ローラースケートを履いた市民たちに襲われて困り果てていた百合・BLレンジャーだったが、ナオヤが活路を切り開いてくれた。
「……この状況、ツンデレキラーのTウイルスに人々が感染したときに似ている」
ならば、同様の対処法で攻略できるはずである。
「『BLディフェンダー・ファイナルモード』!」
BLファイヤーへ変身した彼は、市民らの脚部に向けてⅩ字の斬撃を飛ばす「BLリフレイザー」を発動。足元を凍結させ、ローラースケートによる移動を封じて無力化した。
「ありがとう、ナオヤくん!」
「助かったぜ!」
ようやく自由に動けるようになったツカサたちは、人々を操っていた元凶を探した。やや離れた位置に、ヘッドホンとローラースケートを装着した怪人がいるのをすぐさま発見する。どう見てもあいつが犯人である。
「濡レドラン……いや、濡ラジラ様の邪魔はさせん!」
B・パンチローラーは戦隊たちに気づき、フリスビーのようなものを投げつけてきた。フリスビーといっても犬と戯れるときに使うようなやつではなく、丸鋸の刃みたいな形のめちゃめちゃ危険そうな代物だ。たぶん、当たればかなり痛い。
BLディフェンダーをガンモードへ変形させ、ナオヤが的確な射撃でそれを撃墜する。
「病院の方が騒がしいことから察するに、濡レドランの真の狙いはダレンたちの殲滅だろう。この怪人は俺が引き受ける。お前たちはレジスタンスを援護しろ!」
「分かったわ。気をつけてね!」
「お言葉に甘えさせてもらうぜ!」
足早に駆けていく仲間たちを見送り、ナオヤはB・パンチローラーと対峙する。
「悪いが、さっさと倒させてもらうぞ」
ソードモードで斬りかかろうとするが、怪人の放った催眠音波を受けて後ずさった。
「くっ……」
剣を取り落とし、耳を手で押さえる。スーツで頭部を覆っているせいか、市民たちのようにあっさり洗脳されてはいない。けれども、これではまともに戦えない。
「たった一人で俺の催眠音波に対抗できると思ったら、大間違いだ!」
ふらついているナオヤを笑い、B・パンチローラーが再びフリスビーを投擲しようとした。しかし、どこからか放たれた光線が、それを彼の手から弾き飛ばす。
「すみません、先輩。店のクレーム対応に手間取っちゃって、遅れました!」
バイクから降りたオメガ珈琲シルバーが、平謝りに謝る。彼の後ろで二人乗りしてきていたのは、超次元ライダー・ネトルティ来部だ。
何でも、店に珈琲を飲みに来た青い髪の女性が、「ちょっと! この珈琲、私が唇を付けた途端に浄化されて、ただのお湯になっちゃったんですけど! 持って来て! 今すぐ、新しい替えの珈琲を持ってきて!」と騒ぎ出したのだ。裕介のことを誰かと間違えているらしく、しきりに「カズマさ~ん!」と叫ぶので、訂正するのにも一苦労だった。
「お詫びに、私たちもこの怪人を倒すのを手伝います!」
ネトルの体調が良くなったことで、本来の最強フォームに戻れたのだろう。心強い後輩たちの到着に、BLファイヤーは勇気づけられた。
「ありがたい。では、一気に……いや、一緒に行くぞ!」
「ダレン! お菊! どこだ⁉」
カイリを先頭にひた走り、百合・BLレンジャー六名は病院前へ到着していた。仲間たちの姿は見当たらず、辺りには瓦礫が散乱しているばかりである。
「――来たか、百合・BLレンジャー」
堕天使を思わせる姿で復活している「救世主の濡ラジラ」が、建物の陰からゆっくりと現れた。
復活しているということは、どんな手を使ったのか不明だけども、ダレンらレジスタンスは一度濡レドランを倒すのに成功したのだろう。成功して、その後どうなったのか。不穏な気配が立ち込める中、濡ラジラは楽しそうに語った。
「B・パンチローラーの妨害をかいくぐって参上するとは、敵ながら見事。だが、少しばかり遅かったようだな」
「遅いだと? これでもやれるだけ飛ばして来たんだぜ。心が体を追い越して来たんだぜ」
心外そうなカイリを鼻で笑い、濡ラジラは「見ろ」と指差した。
「あれが、私に刃向かった者たちの辿った結末だ」
「なっ……」
束の間、言葉を失った。
瓦礫の遥か向こうに、何人もの人が倒れている。その中にはダレンやお菊、ピーターもいた。皆少なからず流血し、変身解除されて意識を失っているようであった。
さらに先では、ヒョウガとメラ・メロンパンも気絶していた。大方、濡ラジラの広範囲攻撃に巻き込まれる形で戦闘不能に陥ったのだろう。自分の部下を巻き添えにすることさえ厭わないとは、血も涙もない悪魔である。
「そうそう。お前たちにはまだ、私の新たな名を告げていなかったな」
救世主の濡ラジラだ、と天使の顔をした悪魔は言う。
「よく覚えておくといい。命乞いをするときに、必要になる」
「何よ、天使みたいな格好しちゃって」
VSチューナーの銃口を濡ラジラへ向け、ツカサは怪訝そうに呟いた。
「……天使みたい、ではない」
それを聞き逃さず、濡ラジラが訂正する。
「私は神の使い。天使そのものなのだ」
「は??」
何を言ってるんだろう、この人は。もしかして中二病なのだろうか……と思いかけた一同だったが、ふと思いとどまる。
「ちょっと待って。もしかして『神』って、あの自称神のゼニスのこと?」
「そうだ」
救世主の濡ラジラは厳かに頷いた。
「私の計画も最終段階に入ったことだし、そろそろお前たちに明かしても良い頃だろう。私の正体と、真の目的についてな」
濡レドラン改め濡ラジラの目的が何なのかについては、以前から気になっていた。LFOを結成し、原典を収集することで彼にどんなメリットがあるというのだろう。
「元々ゼニスは、たった一人で世界を創造するつもりではなかった。奴は最初に、神の使いとして三体の天使を造り、各々に天空、大地、海の創造を担わせた。私はその中の一体。天空を司る天使なのだ」
「そんな大昔に生まれた天使様が、何で今頃になって暴れてるんだよ」
カイリが質問した。
「話は最後まで聞け。……だが私は、他の二体の天使の能力の低さに呆れ果て、彼らを見限った。私の方が二体よりも迅速かつ正確に、創造の使命を果たせるという確信を得た。だから私は彼らを殺し、その能力を奪ったのだ。そして、陸空海すべてを一度に創造しようと試みた」
「いや最悪じゃねえか」
「しかし、ゼニスはそれを快く思わなかった。私を超次元界の大地の奥底へと封印し、私に代わって自らが世界創造を行った」
クックッと笑い声を漏らす濡ラジラ。
「けれども、ただでやられる私ではない。従えていた単眼の虫たちを操ることで、私は遥か地底にいながらにして地上の、超次元界の情報を収集し続けた。お前たち百合・BLレンジャーのことも、じっくりと観察させてもらったぞ」
あの虫、単なる巨大化用のツールではなかったとは。
「やがてゼニスが倒され、その影響で奴がかけていた封印の術が解けると、私は晴れて自由の身になった。ようやくだ。ようやく、私の偉大な夢を叶えるときが来たのだ!」
「……で、お前の夢って何?」
嫌な予感を覚えつつ、カイリが尋ねる。
「決まっているだろう。かつてゼニスに阻まれて果たすことのできなかった、世界の創造だ!」
青い目で戦隊たちを見回し、堕天使は言い放った。
「超次元界、高次元界、人間界――三界を一度破滅させ、再創造を行う。今度こそ、私の理想の世界を造り上げるのだ。誰にも邪魔はさせん!」
※次回の更新は1週間後の予定です。