ああ言えばこう言う。このままでは、本当に強化形態が剥奪されてしまいかねない。
「……助けに来たぜ、先輩方!」
そのとき、雨が止んだ。ギロチン台も消滅する。
不可視の結界を外から破壊し、裕介、美明日、ナオヤの三人が雪崩れ込んできたのである。通常、「性癖展開」は閉じた領域内でその効果を発揮するのだが、外部からの衝撃には案外脆かったりする。
濡ラジラへ珈琲サイブレードを向け、オメガ珈琲シルバーが告げた。
「てめえの部下の怪人は、もうぶっ飛ばした後だぜ。『性癖展開』も、そう簡単には使わせねえぞ」
「そうか、B・パンチローラーを撃破したか。だが、そんなことはもはやどうでもいい!」
仲間がやられたのに全く意に介さない様子で、堕天使は両腕を大きく広げた。
「最強の力を手に入れた今、Bリアンの生み出す雑魚怪人に用はなくなった。私には直属の、忠実なる下僕がいるのだからな。出でよ、『ダークウェッター』!」
彼のすぐ隣に新型ゲートが開き、三つの頭部を持つ二体の怪人が姿を見せた。頭部は羊やユニコーンの形に似ている。
ダークウェッターと呼ばれた怪人たちは大型ドリルのような武装形態へチェンジすると、濡ラジラの両腕へ合体。彼にさらなる強さを与えた。
「素晴らしいパワーだ。最強の形態へ至った私は今や、配下を生み出すことも意のままとなっている!」
「……なんかヤバそうだな。これ以上パワーアップされる前に倒すぞ! エマージェンシー!」
カイリの号令で、裕介と美明日を除く七名はVS・スワットモードへと強化変身を遂げた。VSリボルバーを連射するが、放った光弾は濡ラジラの両腕にガードされる。
ダークウェッターが変形合体した武装は多少ダメージを負ったようだけれども、濡ラジラ本人はピンピンしている。仲間を盾にしたも同然の行為に、美明日はむっとした。
「B・パンチローラーにだって、そのダークウェッターたちにだって、怪人とはいえ命があるはずよ。仲間が痛めつけられたり倒されたりしているのに、あなたは何も感じないの? まるで心がないみたいだわ」
「弱く愚かな者は、強く賢い者に仕え、奉仕するために存在する。雑魚が私のためにその命を投げ出すのは、当然のことだ!」
とんでもない外道っぷりを披露し、濡ラジラは高笑いした。
「お前たちとは器が違うのだ。見るがいい、私の真の力を!」
武装の先端部から、何本ものレーザー光線が照射された。直撃を食らった戦隊たちは、大きく吹き飛ばされてしまう。
スワットモードを奪うまでもなく、救世主の濡ラジラは百合・BLレンジャーを圧倒していた。が、何を考えているのか、おもむろに踵を返す。
「……サイボーグの濡レドランとしての私を倒し、究極の形態に到達させてくれた礼だ。命までは取るまい。今日のところは退いてやろう。それに、百合・BLレンジャー以外にも、私が排除すべき邪魔者たちはいるからな」
ゲーミングキーボードのように光るゲートを通過し、堕天使は消えた。
百合・BLレンジャー以外で排除すべき邪魔者というと、今は超次元界にいるフィリーレンたちだろうか。露鬼やクヴァルから、一つ残らず原典を略奪するつもりかもしれない。いくらフィリーレンらが強くても、理不尽な「没収」を行える濡ラジラが相手では、正直かなり分が悪いだろう。
あるいは、「Ⅼサイズの箱」から解放されているヤンデレキラーやイセイナイトを再び無力化するつもりか。特にイセイナイトは、原典においてラスボスに洗脳されたことがある。
「……畜生っ!」
変身解除したカイリが、悔しそうに唸った。
辺りには瓦礫が散乱し、レジスタンスの構成員たちが気を失って倒れている。「レジスタンス最強」と謳われた元無貌支持派第二位・ダレンも、レジスタンスの指導者であるお菊も、今ではすべての原典を奪われた状態だ。残念だが、濡ラジラから原典を奪い返さない限り、今後レジスタンスからの増援は期待できそうにない。
ピーターもヒョウガも気絶している。「年上好き」性癖を持つヒョウガは、長寿な敵との戦いで少なからず活躍した戦士だ。しかし、濡ラジラが彼をマークしてしっかりと対策を取っているところを見るに、今回ばかりは力技で押し切る作戦は使えなさそうである。
「一体、どうすればいいって言うんだよ。濡ラジラだけじゃなく、LFOにはまだ幹部が二人も残ってるんだぞ。それに対して俺たちは、戦力を半減させられたに等しい。どうやって戦えって言うんだ⁉」
カイリの悲痛な叫びに、誰も言葉を返せなかった――一人を除いては。
「……むにゃ?」
百合・BLレンジャーは忘れていた。濡ラジラが退却する際、メラ・メロンパンを置いてけぼりにしたことに。むっくり起き上がった黒ギャルは、状況がよく分からないというように小首をかしげた。
「え? あーし、今これどういう状況に置かれてるんだし? マジ卍。ぴえん」
絶妙に時代遅れ感のあるワードばかりを並べてきた。何なら、黒ギャル自体が今では絶滅危惧種だけども。
「よっしゃ、こいつだ! こいつだけでも捕まえようぜ! こいつがいなければ、ヒョウガにデバフをかける要員がいなくなる。多少は戦いやすくなるだろ!!」
「ちょ、ちょっと待ってほしいんだし……きゃーっ、やめて、それ私のだし! てか冷たいし! 凍えそうだし⁉」
再度変身したカイリたちに取り押さえられたメラ・メロンパンは、ドライバーとバックルも没収された。さらに「念には念を」と、BLファイヤーの「BLリフレイザー」で黒ギャルを圧縮冷凍する。
「これでよし」
冷凍した彼女を保冷カプセルへ放り込み、ナオヤが額の汗を拭った。
「かろうじて一矢報いたな」
「ああ」
相槌を打ちつつ、ケイイチロウはメラ・メロンパンから取り上げたバックルをじっと見ていた。
「これを逆に濡ラジラへ使うことができれば、弱体化させられるのかもしれんが……」
『私が何の見返りもなく、新型ゲートの力を分け与えていると思ったら大間違いですよ。あれは非常に高スペックな代わりに、使用者の現在位置を常に私が把握できるようになっているんです。裏切ったり、敵に捕まって自白を強要されたりしたら、すぐ分かります』
「彗星の濡レドランの言葉が本当なら、濡ラジラは今頃、メラ・メロンパンが変身アイテムを奪われて圧縮冷凍されたことも把握しているはずだ。仮に『クロス・ギャール』が濡ラジラへ有効だとしても、奴の意表を突くことはできない。まず間違いなく対策を講じてくるから、大した効果は期待できないだろうな」
「ひとまず、怪我人の手当てが最優先よ。また濡ラジラに狙われても困るから、今度の搬送先は郊外の病院にしましょう」
ツカサの提案に無言で頷き、一同はきびきびと動き始めた。