ちなみに、次元妖怪ムラムラがやられたとき、大魔王は怒って攻撃してきた。けれども、彼の語る計画が本当で、ムラムラを差し向けた時点で既に「性癖補完計画」発動を狙っていたのだとすれば、魔王の行動は矛盾しているようにも思える。あくまでムラムラを計画発動のパーツとしてのみ使うつもりだったのなら、そこまで激怒する必要もないし、ムラムラが倒されたからといって百合・BLレンジャーと一戦交えなくてもいいからだ。
たぶん、色々なプランが並行して存在する中で、魔王は最終的に補完計画を選んだのだろう。状況に応じて、最適な作戦をその都度選択していく――ムラムラ作戦当時は手に入らなかった(というか、ロリーニンジャーの存在を魔王は当時知らなかった)槍を今は手中に収めているのが、その証拠の一つなのかもしれない。アドリブも積もればプランになるのだ。
さて、魔王が満を持してツカサとカイリへ槍を投げつけようとしたとき、「ちょっと待った!」と声がした。見れば、ケイイチロウとサクヤが荒れ果てた大地を駆けてくる。彼らもまた、同じ幻術の世界に囚われていたのだ。
「話は聞かせてもらったぞ、次元大魔王! しかし、一つ分からないことがある。百合やBLの戦士を最初から計画に使うつもりだったそうだが、なぜ俺やサクヤではなくツカサなんだ。なぜトウマやウミカではなく、カイリだったんだ。答えろ!」
ケイイチロウにVSチューナーの銃口を向けられても、魔王は平然としていた。
「奴らはベノムのかけた洗脳から自力で逃れ、対立ではなく和平の道を模索した。他の連中にはない、何かを感じたのだ。この人間たちを使えば、俺の想定よりもさらに大きな規模のインパクトを起こせるかもしれないと思った」
「何っ? 俺たちでは力不足だとでも言うのか!」
「黙れ、BL初号機! あと弐号機も! トリガーになり得るのは、百合エックスとBLエックスのみ。未来を築く希望の光は、二人だけで十分なのだ!」
正確には1号と2号だが、魔王はケイイチロウとサクヤを一喝した。なお、魔王に食ってかかっていたのはケイイチロウのみであるため、サクヤまで怒鳴られたのは完全にとばっちりである。
「遅れてすまない」
「百合・BLいずれかしか持たず出来損ないの群体として生き詰まった人類を、百合の実とBLの実の二つの実を持つ完全な単体生物へと人工進化させる……そんなことはさせない……ブツブツ……」
理不尽に叱られてしょんぼりしていた二人に続き、トウマとウミカも到着した。岩と砂ばかりの大地を踏みしめ、仲間たちの横に並び立つ。ウミカは何やら腕を組み合わせてブツブツ言っていたが、そもそも百合の実とBLの実とは何なのか。食べると泳げなくなるのだろうか。
とにかく、役者は揃った。敵の計画も明かされた。あとは戦うだけだった。
「……何はともあれ、あんたたちの計画の全貌が見えてきたわね。親切に教えてくれてどうも」
ようやくカイリとの言い争いをやめたツカサは、魔王へ向き直った。
「てっきり、ムラムラやセイヘキ・ザ・ワールドとの戦いは『人気が出た連載漫画を完結させたくなくて、無理やり話を引き伸ばしてる』ようなものだと思ってたわ。あれにもちゃんと意味があったのね」
「お、おのれ~。人間ごときが、俺の計画を馬鹿にするな!」
ロリギヌスの槍を地面に突き刺し、魔王が吠える。槍を投擲しようとしたら敵がぞろぞろと四人も湧いてきたので、調子が狂ったのかもしれない。
「お前ら全員を叩きのめした上で槍の餌食とし、この星を滅ぼしてくれるわ。最初に言っておくが、俺はかなり強いぞ」
「言われなくても知ってるわよ、そんなこと」
今まで、ツカサたちと大魔王が直接戦ったのは一度だけだ。ムラムラを倒されて怒り狂った魔王は、巨大化して襲いかかってきた。ビームの一撃で百合カイザーとBLカイザーを追い詰めたものの、BLレックスロボの低温レーザーを浴びて圧縮冷凍されてしまったのである。言い換えれば、レックスロボの援護がなかったら自分たちは間違いなく敗北していた。
「百合・BLレンジャーよ、これを見よ!」
大魔王はマントをバサッと脱ぎ捨てた。妖怪ぬらりひょんのように大きな頭部から下には、意外と筋肉質な肉体、それとものすごく分厚そうな腹巻があった。
「今日、俺は極厚の腹巻を装着してきた。賞味期限切れの芋羊羹を食べてはいないし、近頃では胃腸の具合はすこぶる良いぞ。いくらお前たちが圧縮冷凍しようが、俺のお腹の調子が悪くなることはない。前回のようにはいかんぞ!」
「……ん? でも、それはつまり『冷凍』を効かなくしただけだよな? 『圧縮』の効果は普通に受けるんだよな?」
一瞬感心しかけたカイリが、はてなと考え込む。敵の巨大化を封じられるのなら、まだ勝機はあるんじゃないだろうか?
図星だったのか、魔王はゼロコンマ一秒だけ真顔になった。「お、お前たちなど、巨大化して戦うまでもないわ!」などと強がっている。
「それにこの空間内では、お前たちはロボを召喚することができない。日本から遠く離れた異国の地へお前たちを強制ワープさせたゆえ、たとえ巨大ロボを呼んだとしても、到着するまでには二時間以上かかる計算になっている。ロボが来た頃には、お前たちは俺に倒されているという寸法よ」
「馬鹿言うな。倒されるのはお前だぜ、次元大魔王!」
「よくもまあ、長きにわたってあたしたちの世界をめちゃくちゃにしてくれたわね。あんたの野望もここで終わりよ! ……皆、行くわよ!」
「おうッ! 転身だァァッ!」
ラスボスを前にして気力体力ともに充実した七人の戦士は、それぞれVSチューナー、エックスチューナー、BLコマンダーを操作し、同時変身を行った。
「『気』!」
「『力』!」
「『転』!」
「『身』!」
「『了』!」
七色の光が溢れ、魔王が思わず目を細める。
「BL1号。天火星・ケイイチロウ!」
「BL2号。天幻星・サクヤ!」
「百合ブルー。天重星・トウマ!」
「百合イエロー。天時星・ウミカ!」
「孤高に煌めく怪盗。百合エックス!」
「気高く輝く警察官。BLエックス!」
「二十世紀が泣いている。BLファイヤー!」
正真正銘、次元大魔王との最後の対決だからだろうか。心なしか普段よりも名乗りポーズがキレッキレで、迫力も段違いだった。中国拳法のような複雑な動きを華麗に決めていく。
そして、カイリとツカサで決め台詞を言って締めた。
「天に輝く、五つ星! 五星戦隊・百合&BLレンジャー!」
「何が五星戦隊だ。どう数えても七人いるだろうが!」
すかさず大魔王がツッコんだ。もっともな指摘である。何でもかんでも、原作をそっくりそのまま使えば良いというものではない。
「七つ星でも何でも構わないわ。好きに呼びなさい!」
「大切なのは、今ここでお前をぶっ飛ばすってことだ。さあ、楽しもうぜ! 勝負、勝負!」
ツカサとカイリを先頭に、百合・BLレンジャーの七人の戦士が武器を構えて突進する。対する大魔王も、杖から破壊光線を放って迎え撃った。
閃光が乱れ飛び、荒れた大地のあちこちが爆発して土煙を巻き上げる。勝負の行方はいかに?
逃げちゃダメだ、百合レンジャー! 戦えばいいと思うよ、BLレンジャー!
滅びのときを免れ、未来を与えられる生命体は一つしか選ばれない。すなわち、性癖の違いによる対立を乗り越え、手を取り合う道を選んだ人類だ!
行くんだ、百合&BLレンジャー! 誰かのために、そして君たち自身の願いのために!
今回、ご迷惑をおかけした作品
・仮面ライダー電王
・ドンブラザーズ