「超天空変身。フィーリ・フィリ・フィリ・フィリディーロ。」
美明日とサヤが羞恥心と戦っているのも知らず、エルフの魔法使いは携帯電話型アイテムを取り出し、魔法陣に吞み込まれるようにして変身を遂げた。
両肩に狼の頭部を模した装飾がある、盾と剣を装備した赤い騎士の姿になる。
「猛る烈火のエレメント。天空勇者、フィリーレン・ファイヤー。」
「来たか、フィリーレン。飛んで火にいる夏の虫とは、まさにこのこと」
濡ラジラは胸部へ大地の力を秘めたオーブを入れ、浮遊させた岩石をフィリーレンに向けて飛ばした。
「お前が最後の希望か。つまりお前さえ倒せば、すべての希望は潰えるということで良いのだな?」
「『スコポフィリシュート』。」
騎士の盾から放たれた光弾が、岩石をことごとく粉砕する。
「私は倒れないよ。」
淡々とそう言い、フィリーレンは剣を構えた。
現在のところ、濡ラジラとフィリーレンは互角に渡り合っている。美明日やネトル、あるいはサヤが脱衣すれば、フィリーレンの方が優勢になる可能性はあるが……。
「そうだ! いいことを思いついたぜ!」
カイリががばっと跳ね起き、仮面の下で顔を輝かせた。
「発想の転換が必要だ。何も、生身の人間が脱ぐ必要はないんじゃないのか?」
「え? どういうこと?」
腑に落ちない様子のツカサへ、得意満面になって説明する。
「たとえばAVを早送り再生し、出演者が服を脱いでいるシーンだけを普通に再生して、フィリーレンに見せるってのはどうだ? これなら誰も脱がなくて済むだろ。ハードオンかどこかでプロジェクターやスクリーンを調達すれば、遠くからでも眺められるし」
「確かに名案かも……って、いやいや色々とまずいでしょ!! どうすんのよ、私たちが後世の人々から『公共の場でAVを再生しながら戦ったヒーロー』だなんて呼ばれたら! 黒歴史オブ黒歴史じゃない!」
そもそも、この緊迫した状況で、悠長にプロジェクターやスクリーンを準備している時間はない。着眼点は面白いけども、かなり非現実的なアイデアだった。
「『フェイタル・フィリ・ブレイド』。」
もう一本の剣を召喚したフィリーレン・ファイヤーが、鋭い斬撃を繰り出す。一方の濡ラジラも黒いサーベルをどこからか取り出し、雷を帯びた一閃で迎え撃った。両者ともに、威力は互角。
「『スコポフィリ・ストームスラッシュ』。」
続けて、炎の竜巻を伴った斬撃を飛ばすフィリーレン。濡ラジラは三度翼を広げ、破壊光線を放った。度重なる攻撃で羽が生え変わったのか、「封印」のタトゥーはもう消えている。
「返り討ちにしてやろう!」
「うわーっ。」
今度は、濡ラジラの技の威力の方が上だった。衝撃で軽く吹き飛ばされてしまったフィリーレンが、ゴロゴロと地面を転がる。土がマスクについてよく見えないのか、「暗いよ~! 怖いよ~!」と悲鳴を上げていた。
どうやら、単純な攻撃力でいえば濡ラジラがフィリーレンを上回っているらしい。やはり、誰かが脱いで技の発動速度を上げさせ、フィリーレンを援護するしかないのだろうか?
どうにか立ち上がったフィリーレンは、「こうなったら奥の手だ。」と呟いた。剣を捨て、魔法の杖を濡ラジラへ向ける。すると杖は、赤い拳銃型デバイスへと変わった。
エルフの長い耳は、先刻の美明日やサヤの会話をきちんと聞き取っていたのである。
「乙女たちに恥をかかせるわけにはいかないからね。お前を倒すために習得した新魔法を使う。グロい方の『爆裂』魔法だよ。」
「ほう?」
濡ラジラは興味深そうに言い、サーベルの先端から稲妻を放った。それを横っ飛びにかわし、フィリーレンが拳銃の引き金を引く。
彼女が発動しようとしているのは、対象内部の液体を瞬時に気化させる魔法だ。対象が生物ならば体液が気化して爆発するし、機械などであれば燃料を気化させて爆破することができる。
つまり、対象が人であれば血液が気化し、その圧力に耐えられずに、肉体は内側から破裂する。筋肉と皮膚が弾け飛び、赤血球をまき散らす。一日に一発しか撃てない代わりに超強力な「爆裂魔法」は詠唱に多少手間がかかるが、このグロい方の「爆裂」には即効性があるのだ。
「『爆裂』。」
しかし、何も起こらなかった。
「無駄だ、フィリーレン」
堕天使は笑う。
「私も同系統の原典を所有しているから分かるが、その魔法は対象の構造を正確に把握して初めて、正しく発動される。超次元生命体ならともかく、天使であるこの私の肉体構造を理解しようなど、傲慢と言うものだ。これでも喰らえ!」
「そんなあ。」
またしても翼からの破壊光線を受け、フィリーレン・ファイヤーは大きく吹き飛ばされてしまった。衝撃で変身が解除される。
「……フハハハハッ! これがレジスタンス最強の戦士か、口ほどにもない。一度はダレンを倒したというから警戒していたが、完全体となった私の敵ではなかったな!」
ついにフィリーレンをも無力化し、勝ち誇る濡ラジラ。懐から複数枚のカードを取り出し、ツカサたち目がけて投げつけようとする。
「私の勝ちだ、百合・BLレンジャー。お前たちの原典は私が回収し、有意義に使ってやる。世界再創造の礎となれ!」
これまでか、と思われたそのときだった。