救世主の濡ラジラには、世界再創造のための計画があった。しかし、「一般市民がヒーローを助けに来る」という予想外の出来事が決定打となり、計画は破綻した。それと同じだ。こういう風に生きたいな、と思っていても、案外そうはいかないものである。
「その言い方だと、あんたはあたしに多少妥協してるみたいだけど?」
「強いて言うなら、バストサイズ詐称をやめてほしいかな~とは」
「してないわよ!! 正真正銘のBだって言ってるでしょうが⁉」
またコントを始めてしまったバカップルを落ち着かせようと、裕介も「そうそう」と口を挟んだ。
「カイリ先輩の言う通りだぜ、少年。スタイルの良さだとか、外見ばかりに気を取られていると大切なものを見逃しちまうぞ?」
すると、地獄耳の美明日がそれを聞きつける。
「早川君。それはつまり、私のスタイルに対して不満があるということかしら」
「いえ、別に」
きっぱりと即答。大教授は、怒らせるとものすごくめんどくさいのだ。
(――はいはい。どうせ彼、大きさよりも感度が大事だって言うんでしょ? 箱根のときに聞いたわよ)
そのとき、自身の中にいる相棒が語りかけてきたので、美明日はちょっと席を外した。追及から逃れられて、裕介はほっとしている。
(いや、あれはネトルを嵌めるために、早川君がわざと言ったの。……ていうか、あなたはもう少し休んでなさい。箱根の一件と触手プレイ性癖のせいで、あなた、無駄に感じやすくなってるもの。一体化している私にまで影響が出かねないから、勘弁してほしいわ)
美明日とネトルは、感覚を一部共有している。
たとえば、美明日が誰かに肩を叩かれたとしよう。本人は「肩を叩かれた」という行為に何も反応しなかったとしても、もしネトルが「んっ⁉♡」なんて感じようものなら、連鎖的に美明日も感じてしまう可能性がある。こんな感じなので、ひどい場合は戦闘時にも支障が出るのだ。
(分かったわ。けど、私からも一つお願いがある)
ネトルはこう返した。
(あなた、しばらくは早川裕介とエッチなことしないで)
(……え?)
(本当にお願い!! 今の私、連鎖的にすごく感じちゃうから! この間なんか、感じすぎて死にそうだったから! お願いしますどうか許して下さい)
(わ、分かったわよ)
勢いに押され、承諾してしまった美明日。我ながら、こんなのに一時期は精神支配されていたのかと思うと情けなくなってくる。
以上のような諸先輩方からのご意見をいただいて、コウ少年は顎に手を当て、もっともらしくコメントした。
「ふむ。道のりは険しそうですね!」
歓談の合間に料理に舌鼓を打っているうちに、バイキングの中華料理も残り僅かとなった。宴もたけなわといった折、どこからか奇妙な音声が聞こえてくる。
『コマンド承認!』
水の呼吸とか使っていそうな感じの声が、だんだんと会場へ近づいてきた。
『ビュン!』
「……なあ、美明日。どことなく聞いたことがあるような音声だな」
「奇遇ね、早川君。私も同じことを考えていたわ」
『ビュン、ビュン!』
「具体的に言うと、湘南へ引っ越そうとして分譲賃貸の物件を探そうとしていた頃に聞いたような……」
「そうね」
『ビュン、ビュン、ビューン!』
「もしかして、分譲ブラックのお仲間か?」
「だとしても、何で八王子にいるのよ」
「いや俺に聞かれても……」
『トリガーを引いて、エンター!』
「『ビュンビュンチェンジ』!」
颯爽と会場へ駆け込んできたのは、長身瘦躯の青年。コントローラー型のアイテムを手にした彼の体が光に包まれ、顔に大きなタイヤ状のパーツを配した紫色の戦士に変わった。
『爆上げ家賃! ビュン、ビュン、ビューン!!』
「やっぱりか」と頭を抱えている裕介と美明日。他の面々は「タイヤ人間⁉」と驚いていた。
「何者だ!」
ケイイチロウ、サクヤ、ナオヤが市民の皆さんを会場奥へと下がらせ、VSチューナーとBLディフェンダーを構える。レーシングスーツのようなアーマーを纏った紫の戦士は、腰を少し落として名乗った。
「――俺は元・無貌支持派メンバーにして、超次元界一の始末屋。ブ~ン、ジョウ、バイオレット!」
「てめえ、分譲ブラックの仲間だな。何でまた八王子なんかに来やがった!」
「俺が八王子に来たんじゃない。お前らが勝手に来ただけだ!」
裕介に問われ、分譲バイオレットは吠えるがごとく言い返す。
「俺は元々、西東京エリアの分譲賃貸の物件を支配しようと企み、この辺に住み着いてたんだよ。で、ブラックの仇を討つため、戦隊どもが自分のテリトリーへ足を踏み入れるときを待ってたんだ。この始末、高くつくぜ!」
つまり百合・BLレンジャーは、知らなかったとはいえ、敵が待ち構えているエリアにわざわざ突撃してしまったことになる。
「あんたが八王子のでかいハードオンに行こうとなんかするから、厄介ごとに巻き込まれたじゃない⁉」
「いやいや。むしろこれは、悪を根絶するチャンスと捉えるべきだぜ。物は言いようだ!」
夫婦漫才をしている二名は放っておいて、美明日は「あなた一人で、これだけの人数を相手にできると思っているのかしら」と言った。
「分譲ブラックは、私と早川君の二人を相手にして全く歯が立たなかったわよ。あなたの無貌支持派内での序列が彼と同程度なのだとしたら、瞬殺も良いところだわ」
「……なら、教えてやる。俺の序列は第四十七位。ブラックよりも一つ上だ」
コントローラーをボウガン形態へ変形させながら、分譲バイオレットがニヤリと笑う。
「序列の差は、すなわち力の差。分譲ブラックと俺の使用する原典の性能差はないに等しいが、性癖には大きな違いがある。ブラックがこれといって性癖を持たなかった一方で、俺には特殊性癖があるのさ。多対一の状況を覆すことも可能な、強力なやつがな!」
「へえ。もったいぶらずに教えなさいよ。まさかとは思うけれど、クロードと同じ『年下好き』じゃないでしょうね」
もしそうなら、ヒョウガの「年上好き」で相殺してゴリ押せば勝てるのだが。
「違うな。俺の性癖は……」
一呼吸置いて、紫のタイヤ人間は、常人には理解しがたい性癖の名を告げた。
「『乱交』だ」