刹那、分譲バイオレットの付近から、紫色の霧のようなものが会場全体へ広がっていく。
「『敵が三人以上いるとき、そいつらをムラムラさせて戦いづらくする』。それが『乱交』性癖の能力だ。このミストを浴びた奴は強制的に性欲をかき立てられ、無性にエッチな気分になるぜ!」
「うわーっ⁉」
「に、逃げろーっ!」
たちまち、パーティー会場は大混乱に陥った。出口へと殺到する市民たちを「慌てないで!」と戦隊メンバーが誘導しているうちに、皆、ミストを吸い込んでしまったらしい。とろんとした目つきで、近くにいた異性と良い雰囲気になりつつある。
「なあなあ、ヒョウガくん♡」
「ど、どうしたんですかサヤさん⁉」
突然肩にしなだれかかってきた恋人へどぎまぎしているヒョウガへ、狐目の美女は甘く囁いた。
「女の人には、いわゆる適齢期っていうものがあるんよ? だからそろそろ……うちと既成事実、作ろ?♡」
「ダメですよ!! 少なくとも今はまずいです!」
「お菊。貴様、よく見るとすごくスタイルが良いな。エリザベスほどではないが」
「ダレン。あなた、よくよく見ると整った顔してるわよね。原典無しほどじゃないけれど」
こちらでは、ともに愛する人を失った者同士、新たな愛が始まったり始まらなかったりしている。
「は、早川君……」
「何だよ」
「抱いて……♡」
「美明日、お前クールビューティー枠じゃなかったのかよ。語彙力が壊滅的になってるぜ。少年が見たら幻滅するぞ。おい待て、よせ。無理やりキスしようとするな⁉」
また別のところでは、「しばらく早川裕介とエッチなことをしない」とネトルに約束させられた当の本人が、さっそくおっぱじめようとしていた。
まあそんな感じで、会場はどこもかしこも地獄絵図と化したわけである。元からパートナーがいる者はその相手と、いない者はたまたま近くにいた相手と、一斉にいちゃつき始めた。
「ハッハッハーッ! いい眺めだぜ!」
敵を前にしてイチャイチャしている戦隊は、分譲バイオレットにすればさぞかし滑稽だったろう。奇襲が大成功し、彼はご満悦だった。
「よーし、そのままいちゃついてな。3Pでも4Pでも好きにやれ。お前らが楽しい夢を見ている間に、俺が一人ずつ、じっくり痛めつけて殺してや……る?」
しかし、分譲バイオレットの笑顔はそこで固まってしまった。人々の足の隙間を縫うようにして、「よいしょ」と這い出してきた小さな影を認めたからである。
「なぜだ。何でお前は、俺のミストの中で自由に動けるんだよ⁉」
「僕にもよく分かんないや」
立ち上がったコウの手首には、既にブレス型の変身アイテムが装着されていた。先輩方がまともに戦えなくなっている今、変身して戦闘を行えるのは彼のみ。キング・ショタレンジャーに、再び出番が回ってきた。
「あくまで推測だけどさ。君の『乱交』性癖って、相手の性欲をかき立てることで行動を阻害するんでしょ? てことは、未成年で性欲が少ない、僕みたいな小学生にはあんまり効かなかったんじゃない?」
「お、おのれ!」
分譲バイオレットは舌打ちし、ボウガンを少年に向けた。
「こんなガキが、百合・BLレンジャーのお仲間だとはな。殺しちまうのが忍びないぜ」
「殺す?」
へっと鼻で笑い、コウはブレスを操作した。
「やられるのは君の方だよ。『超力変身』!」
顔に「王」の文字が刻まれた、黒と金の屈強な戦士へ変身した少年。パワフルなポーズを取り、名乗る。
「覚えておけ。僕の名は、キング・ショタレンジャーだ!」
「キング・ショタレンジャーだと? その名の通り、か弱いショタというわけか。捻り潰してやるぜ!」
バイオレットは、コントローラーのボタンを素早く何回か押した。
『ガトリングモード起動! トリガーを引いて連射!』
すると、前方にガトリング砲状の破壊エネルギーが生成され、そこから無数の弾丸が撃ち出された。
「さあ、どうする。もしお前がこの弾丸を避ければ、後ろでいちゃついてる連中に当たっちまうぞ?」
「――ワタァーッ!」
嫌らしい二択を迫る、元・無貌支持派。けれどもコウは、裂帛の気合を込めた鋭い正拳突きで、瞬く間にすべての弾を粉砕してしまった。
「何っ⁉ な、ならばこれでどうだ!」
『トリガーを引いて、スナイパーモード起動! ゲージが緑になったらフィニッシュ!』
手数で押し切る作戦が失敗したためか、分譲バイオレットは一点集中に切り替えた。強力な光の矢を、一発だけ射る。
「僕の性癖は『おねショタ』。タイプのお姉さんが付近にいるとき、どのくらいタイプかによって、打撃攻撃の威力をアップさせる!」
キング・ショタレンジャーは専用の杖「ショタスティック」を召喚した。下部のブレードを先端へスライドさせることで、剣として使用する。それを素早く振るって、光の矢を両断した。背後でイチャイチャしている市民たちには、傷一つつけない。
「この会場には、素敵なお姉さんたちが大勢いる。満ち満ちた僕のパワーは、お前なんかに絶対に負けない!」
「クソガキが。相手依存の能力持ちのくせに、調子に乗るなよ。俺が本当の強さと言うものを教えてやる!」
歯ぎしりし、タイヤ人間は必殺技を発動した。
『必殺技起動! ターゲット・ロックオン! トリガーを引いてシュート!』
「『ビュンビュン乱交ドライブ』!」
濃厚なミストを纏わせた、先ほどよりも強大な光の矢を発射する。対するキング・ショタレンジャーも、ショタスティックを突き出して叫んだ。
「『ショタ・ビクトリーフラッシュ』!」
眩しく輝く破壊光弾が撃ち出され、分譲バイオレットの光の矢を吹き飛ばす。光弾は勢いを殺さぬまま、バイオレットの胸部へクリーンヒットした。
「よく言うよ。おじさんの能力だって、一対一の状況じゃ役に立たないくせに」
「……や、やるな、坊主。褒めてやる。だが俺も、やるときはやる俺なんだぜ~⁉」
偶然だろうか、分譲ブラックと似たような捨て台詞を吐いて、はた迷惑な超次元生命体は爆散したのだった。
「あれっ? うち、一体何を……」
ヒョウガを床に押し倒し、覆い被さっていたサヤが、我に返った。
「僕にもよく分からないです……」
そういえば、何となく頭が痛いような気もする。呻きながらヒョウガは言った。
正気に戻った人々を助け起こしながら、コウは「皆、ミストの影響でいちゃついていた前後の記憶がないみたいだ」と気づいた。それとなく探りを入れてみたところ、戦隊のメンバーでさえ、分譲バイオレットの存在自体を覚えていないようであった。
まあ、その方が良いのかもしれない。誰だって思い出したくはないだろう、あんな恥ずかしいシーン。
「何か大きな、爆発音みたいな音がしたような気がするけどなあ」
「ひょっとして、なぜか飛んできたキツツキが激突して、ホテルの厨房でガス爆発でもあったとか?」
「ハハッ、まさか」
やがてパーティーはお開きとなった。口々に話し合いながら、市民たちが帰路につく。
こうして、キング・ショタレンジャーことコウ少年は、初めて単独で悪を成敗した。しかし、それは誰の記憶にも残らない、少年の心の中だけに焼き付いている秘密の決闘だったのである。
戦え、キング・ショタレンジャー! 負けるな、コウ! 若い君の前には、無限の未来と可能性が広がっているぞ!