百合レンジャーvsBLレンジャー   作:クリスタルスカイ

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2 熱血受刑者、大暴れ!

 BL警察本部別館の施設にて、圧縮冷凍された状態で保管されているSUNダール、及びメラ・メロンパン。あの二人よりも適した素材は、おそらく他にないだろう。

 SUNダールはBLファイヤーの必殺技により圧縮冷凍され、さらに濡ラジラによって原典も奪われている。本当に、ただの高次元生命体でしかない。冷凍されていることで意識もぼんやりし、戦闘能力も失っている。操るには最適だ。

 メラ・メロンパンも、戦隊たちに変身アイテムを取り上げられた状態で圧縮冷凍されている。超次元生命体本来の姿に戻ってはいないが、SUNダール同様、意識も戦闘力もないに等しい状態である。

 

 

(……だが、BL警察はセキュリティーが厳しい。我らだけでは、施設内への侵入は不可能だ。協力者を得て、手引きしてもらう必要があるな)

(それなら、Bリアン女王はどうかしら? 彼女は濡ラジラの元部下で、私たちは濡ラジラと同じ天使。言うことを聞いてくれる可能性があるわよ)

(ふむ。では、さっそく)

 

 大地の天使は、超次元界の自宅にいるBリアン女王へとテレパシーを繋げた。彼女は相変わらず、卵から孵化させた怪人たちを可愛がるのに忙しいようだった。

 

 

「いいかい、B・ハミガキラー。お前の使命は、日本中の子供たちを虫歯にすることさ! 私はね、自分よりも歯が綺麗な子供たちが大嫌いなんだ! いつか日本へゲートが繋がったら送り込んであげるから、それまで待っているんだよ。うふふふ!」

「ハハッ!」

 

 虫歯のような形の頭部を持つ怪人が、被り物をした女王の前に跪いている。そこへ、大地の天使のテレパシーが繋がる。

 

(――失礼する。私はこういう者だ)

「うわっ! 何だい、お前は!」

 

 脳へ直接情報を流すようにして、天使はBリアンへ自分の正体を明かした。

 

 

(というわけなのだが、どうかお力添えをいただけないだろうか。貴殿が人間界へ怪人を派遣し、場をかき乱してくれれば、施設への侵入はぐっと簡単になる)

「冗談じゃない。金輪際、天使に関わるのはお断りだよ! おととい来な!」

 

 物腰柔らかに頼んだつもりだったが、女王はご立腹だった。向こうから一方的にテレパシーが切断されてしまう。

 彼女自身が濡ラジラと馬が合わなかったのも一因だが、やはり、SUNダールも入墨ドウコクも濡ラジラに利用されて散ったのが大きいだろう。三英雄のうち、生き残ったのはBリアン女王だけだ。天使そのものに苦手意識を持っても、決して不思議ではない。

 

(……ダメだったか)

(落ち込むことはないですわ。他にもあてはありますもの)

 

 濡ラジラがLFO内で人望がなかったらしいことを察し、海の天使はLFOの元メンバーを使う案を取りやめた。

 

(人間界で服役中の、元虚無英雄会メンバー「ノン・プリシャス」。本名、姫野姫夏。他人や創作物の影響を受けやすく、「自分」と呼ぶべきものを持たない彼女なら、短時間であれば依代になれますわよ?)

 

 

 都内にある、女子刑務所。ノン・プリシャスこと姫野姫夏は、そこの四人部屋に入っていた。

 一日の労働を終えて部屋に戻ると、同じ部屋の受刑者たちは一斉に姿勢を正し、それから床に頭がつくくらいの勢いで頭を下げた。

 

「お嬢!」

「おかえりなさいやし!」

「お疲れ様です!」

 

 大歓迎を受け、ジャージ姿の姫野はすました顔で「待たせたな……」と一言。

 最近の彼女のマイブームは、国民的人気を誇っている某ドラマだ。実家が任侠集団である新米教師が、不良だらけのクラスの生徒たちと向き合う、熱いドラマである。

 刑務所でも、部屋にテレビが置かれていることは割とあるらしい。おかげで姫野は、すっかり任侠集団の娘の教師になりきっている。

 

「いいか、お前ら。人っていうのはな、一人では何もできないんだよ。だから、つるんでんだよ。けどな、だったらどんなことがあったって、最後まで一緒につるもう! お前らは私の大事な仲間だ!」

「お嬢!」

「姉御ーっ!」

 

 同室の受刑者たちもノリノリである。ツッコミ役が不在っぽいのが、一番致命的かもしれない。

 

 

(――へえ。じゃあ、私ともつるんで下さらない?)

 

 そのとき、開け放っていた窓から人魂が侵入してきた。海の天使の魂は姫野の前へ回り込むと、素早くテレパシーを飛ばす。大地の天使がBリアン女王にしたように、こちらの素性を手っ取り早く説明するための手段だった。

 

「そうか。つまりお前は肉体を失って、代わりになるものを探しているんだな。で、そのために私の体を少しの間借りたいと」

 

 ふむふむと頷いたのち、姫野は突然、人が変わったように怒り出した。

 

「何してんだよ。一人じゃ受肉できないのかよ!」

(えっ)

「誰かが体を貸してくれるのを待ってるんじゃねえよ。そんなんじゃな……いつまで経っても、お前は弱虫のままなんだよ! 義理人情も渡世の仁義も、てめえの足でしっかり歩いて胸張って生きてる奴にしか通用しねえんだよ。逃げてばかりの奴に体を貸してくれるほど、世の中そんなに甘くねえんだよ!」

 

 突然現れた怪異にも説教を始めてしまう胆力に、同室の女性受刑者たちは感服している様子だった。海の天使だけが、そんな姫野を冷ややかに見つめている。

 

 

(あらあら。お可愛いこと)

「はあ?」

 

 いつだったか虚無英雄会のリョウマに投げかけた言葉が、今になって自分に返ってきた。戸惑う姫野に、人魂は哀れみを込めて続ける。

 

(あなた、本当に空っぽな人間ですのね。何かを引用しなければ、私に説教することすらできないなんて。一体どういう育ち方をしたら、こんなゴミのような生き物が出来上がるのかしら。端的に言ってあなた、生きている価値ないですわよ)

「て、てめえ……」

 

 天使の台詞は、姫野の逆鱗に触れてしまったのかもしれない。ぎらついた目で人魂を睨み、彼女はまくし立てた。

 

「てめえも、私が今まで出会った奴らと同じだ。個性がないなんて変だとか、どうせそういうことを言うんだろうよ。けど、仕方ねえだろ! 私の両親は恐ろしく厳格だった。上京して一人暮らしを始めるまで、一切の娯楽を禁止されて育ってきたんだ。与えられる本は純文学だけ、漫画もゲームもテレビも禁止! 部活とかでスポーツに没頭することすら許されず、勉強漬けの毎日を送らされてきた。そんな環境で個性なんざ、『自分』なんざ育つわけねえだろうがよ!」

 

 

 大体よ、と姫野は憤りを隠さない。

 

「個性があることが、『自分』を持ってることがそんなに偉いのかよ? さっき私が仲間たちに言った通り、人ってのは一人では何もできない。群れで生きてるんだよ。その群れの中で他の個体と圧倒的に違うということが、どれだけ残酷な結果を本人にもたらすか考えたことあるのかよ⁉ 出る杭は打たれるんだ。だから私はなるべく目立たず、自分を押し殺して生きてきた。それの何が悪いって言うんだよ!」

(はいはい。あなたに可哀想な過去があるのは、十分理解しましたわ。もう結構、その辺でやめて下さいまし。けれど、まあ結局、可哀想な過去があれば自分を正当化できると思っている辺りが、あなたの限界なのではないかしら)

 

 すっ、と人魂が姫野の頭部へ接近し、その内部へと溶けるように入り込んだ。

 

(あなたが具体的においくつなのかは存じ上げませんけれど、上京してから何年か経っているのでしょう? たとえ実家暮らしが地獄だったのだとしても、一度親元を離れれば、やり方次第で一人暮らしを天国にだってできたはず。あなたはその努力を怠り、自分の運命を諦めた。だから虚無英雄会に利用され……今こうして、私の餌食にされているのです)

 

 

 刹那、ノン・プリシャスこと姫野姫夏の意識は途絶えた。海の天使が、彼女の肉体の支配権を握る。目を閉じ、また開け、天使は狡猾な笑みを浮かべた。

 

「ああ、久々の受肉。気持ちいいですわね」

 




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・ごくせん
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