手を握っては開き、感慨にふける天使。が、すぐに「こんなことをしている場合ではない」と思い直し、天使の創造能力を行使する。仮の肉体を得た今なら、彼女は本来の力の片鱗を使えるのだ。
「まずは脱獄しないとですわ」
無から部屋の鍵を造り終えると、姫野の体を借りている天使はドアへ走り寄った。カチャリと小さな音がし、難なく扉が開く。呆然としている女性受刑者らを置き去りに、天使は裸足のまま、颯爽と廊下へ駆け出した。
「おい! 何をしているんだ、君!」
巡回していた男性の刑務官が、姫野に気づいて血相を変える。警棒を振り上げて突進してきた彼をひらりとかわし、天使はスタンガンを「創造」した。
「えいっ♪」
「ぎゃーっ⁉」
刑務官の腹部に先端を当て、ボタンを押す。たちまち高圧電流が流し込まれ、刑務官は悲鳴を上げて倒れた。スタンガンはスタンガンでも、軍用のまあまあやばいスペックのやつを造ったらしい。
行く手を阻む刑務官や警備員を、その都度創造した武器でちぎっては投げ、ちぎっては投げ。そんな風にして、姫野(in天使)は華麗なる脱獄を果たしたのだった。
屋外に出た天使は、右手を空へ掲げた。
「天使の権限によって命じます。かつてこの者に宿り、クロードによって回収され、彼の死とともに再び自由になった怪人の原典よ。今一度、私に力を貸して下さいまし!」
すると、天から一筋の光が差し込んだ。その光を浴びた姫野の肉体は、トランプのジョーカーの札に描かれたピエロを思わせる怪人態「ノン・プリシャス」へと変化する。
「素晴らしい力ですわ。これさえあれば、ちまちまと武器を創造する必要はありません」
金属質な皮膚と強靭な肉体を得て、天使はBL警察本部別館へとひた走った。怪人態のパワーに任せ、警官たちをなぎ倒して進む。
「――待て!」
だが、正面から堂々と侵入したのは悪手だったかもしれない。誰かが緊急通報したのだろう。一階フロアを半分も進まないうちに、ナオヤに行く手を遮られてしまった。
「ノン・プリシャス。どうやって脱獄したのかは知らないが、大人しくもう一度お縄についてもらうぞ。『BLファイヤー』!」
音声入力で紅の戦士に変身し、ソードモードにしたBLディフェンダーで斬りかかるナオヤ。天使はそれを、ノン・プリシャスとしてのコピー能力で作り出した長剣・ゼロライアットで受け止めた。
「今の私はノン・プリシャスでもなければ、ましてや姫野姫夏でもない。……と言ってもあなたにはちんぷんかんぷんだろうし、私もまだ人間界の言語へ慣れていないから、これで済ませるわ」
そう言って、天使はナオヤへテレパシーを繋げた。自分が何者で、何の目的でこの建物へ押し入ったのかを瞬時に理解させる。
「何……っ⁉ 濡ラジラと同じ天使だと?」
「すみませんけれど、私にはあまり時間がありませんの。この依代も、そう長くは持ちません。早期決着と行かせていただきますわ!」
模造品のゼロライアットのボタンを素早く押し、必殺技を発動。剣から伸びた長大な光の刃で、BLファイヤーのアーマーを大上段に叩き切った。
『オール性癖・コンバイン!』『マキシマム・ゼロ・タイフーン!』
ノン・プリシャスは、戦闘開始時点で相手が使える技をすべてコピーできる。原典を天使が使っているせいか、今回は「相手」の対象が「百合・BLレンジャー全員」とかなり広く設定されているらしい。
「ぐあっ⁉」
ヒョウガが発動した場合と違って「年上好き」性癖によるバフこそかかっていないものの、やはり威力は絶大。一撃で、BLファイヤーを変身解除へ追い込んだ。
「ごめんあそばせ」
怪人態のまま、早足で建物の奥へと進む天使。ついに保管庫を見つけると、パンチ一発、扉をぶち破った。
保冷カプセルの中に収まっているSUNダールとメラ・メロンパンを発見し、天使が満足げに頷く。二つのカプセルを開けると同時、大地の天使の魂を呼び寄せた。
さらに、自身も姫野の肉体から離れ、新たにメラ・メロンパンへと受肉する。大地の天使はSUNダールへ受肉した。
圧縮冷凍されていた肉体が、天使の魂が持つ熱によって内側から解凍されていく。ほどなくして、大地の天使は超次元生命体の白い光の塊のような姿へ、海の天使はギャルメイクをしたメラ・メロンパンそっくりの姿で再誕した。
「……さすがに、このままの格好では不便だ。少し作り変えよう」
「同感ですわ。こんなに肌を黒く焼いた姿、私の趣味ではありませんことよ」
何かしらの原典を使用したのだろうか。大地の天使は黒いアーマーの、海の天使は青いアーマーの戦士へと変わった。
背中から天使の羽が伸びるようなエフェクトを伴い、変身完了。建物の外へ向かうと、そこではツカサたちBL警察が待ち構えていた。既にVS・スワットモードを着用し、新年早々、戦う気満々のようである。
「ナオヤくんから話は聞いたわよ。あんたたち、天使なんだってね。肉体を得て、一体何を刷るつもり?」
「勘違いするな。行きがかり上、BLファイヤーと戦闘になってしまったのは申し訳ないが、貴殿たちと敵対するつもりはないのだ。せっかくの新年なのだから、貴殿たちも総集編回を挟んで一休みしておけ」と、大地の天使。
「濡ラジラは間違っていましたわ。今あるこの世界を創り直すのではなく、時間はかかっても、ゼロから新しい世界を創り上げるべきでしたのよ」
海の天使の口ぶりから察するに、「新たな世界を創造するためには肉体が必要だった」ということか。
ゼニスが超次元生命体の不出来にうんざりしていたように、濡ラジラがゼニスの世界創造のやり方に不満を覚えていたように、きっとこの二体の天使にも、世界の現状に思うところがあるのだろう。ただし、二体がゼニスや濡ラジラと異なるのは、新世界の創造にいあの世界を犠牲にしない点だ。「あなたたちの在り方もアリっちゃアリだけど、私たちは私たちでより良い形の世界を目指す!」という感じだろうか。
「迷惑をかけてしまい、すまなかったな。機会があれば、またどこかで会おう。我が名は大地の天使。またの名を、巌のランディックパワー、エンジェルブラック!」
「私は怒涛のシーイックパワー、エンジェルブルー。ごきげんよう、戦隊さんたち」
言うが早いか、二人は濡ラジラの使用していた新型ゲートに酷似した、虹色に輝くゲートを創造した。その扉を開けた先には、白く何もない空間がぽっかりと口を開けている。まだ何も誕生していない、完全なる無の世界のようだ。
「いつかこの空っぽな世界に、地球と同じような美しい星を誕生させてみせよう。さらばだ、百合・BLレンジャー」
エンジェルブラックが仮面の下で微笑み、ゲートをくぐる。ブルーもそれに続いたのちに扉が自動で閉まり、消滅した。
「頼むから、もう超次元生命体みたいに危険な生き物を作らないでよね!!」
たぶんもう聞こえていないだろうけれど、ツカサは精一杯訴えておいた。
原典さえあれば自在に姿を変えられるという超次元生命体のせいで、自分たちはとても苦労している。もちろん善良な個体もいるけども、「その気になれば誰でもスーパーヒーロー並みの力を振るえる」こと自体が問題なのだ。もうちょっとこう、変身能力を抑えめにデザインしてくれたら良かったのだが。
かくして、大地の天使と海の天使は受肉し、天使の役目を果たすために無の世界へと旅立った。
圧縮冷凍されていたSUNダール及びメラ・メロンパンの肉体は、実を言うと「ゆくゆくは高次元生命体や超次元生命体の体の構造を研究するための材料にしないか」という話もBL警察内部で出てはいた。今回の一件で、その話は白紙に戻った。
そして、ノン・プリシャスこと姫野姫夏も、女子刑務所へと戻った。本人は何が起きたのかよく覚えていなかった。
お疲れ様、百合レンジャー! 年始くらい休もうじゃないか、BLレンジャー! 総集編をやるかどうかはともかくとして、コタツに入ってみかんでも食べよう!