百合レンジャーvsBLレンジャー   作:クリスタルスカイ

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第4話 おねショタだァァッ

 激戦の末に、東京卍帝国は百合レンジャーとBLレンジャーに敗れた。マイティーやドラゲン、パージンをはじめとする主要メンバーが逮捕され、組織は事実上壊滅した。

 ウルザード稀咲の足取りはいまだ掴めていないものの、人々の記憶を操作した悪質な百合・BLビジネスは終わりを告げ、平和な時代が戻ってきた――かと思われた。

 東京卍帝国の残した爪痕は、新たな戦乱の火種を生む。

 

 マイティーらが使用していた特殊な機械――これによって皆の記憶を書き換え、百合やBLへの興味を異常なほど掻き立てていた――を百合・BLレンジャーが押収し、然るべき措置を取ってから数ヶ月。

 無事に記憶を取り戻してもなお、一度湧いた興味を急になくすことは難しい。全盛期ほどではないが、今でもそこそこの数の百合やBLの同人誌が世に出回っていた。

 

 

「オラオラァ! 逃げろ逃げろ、命が惜しけりゃな!」

 

 強盗犯はよほどせっかちだったらしい。

 大型書店の自動ドアが開くのを待たずに、渾身の力で蹴り破った。たちまち店内にガラスが飛び散り、客たちは「何事か」とドアの方へ目を向ける。

 

「クソ野郎ども、百合やBLの本なんか読んでんじゃねえ! そんなもんは時代遅れなンだよ!」

 

 押し入ってきたのは、白虎を思わせる鎧を纏った戦士。白と黒、金のアーマーに、虎の毛並みのような紋様が刻まれている。

 その男が野太い声で叫び、柄に虎の顔が彫られた剣を振り回した。

 

「な、何だあいつは⁉︎」

「東京卍帝国は潰れたんじゃなかったのかよ⁉︎」

「何を言ってやがる。俺をあんな不良どもと一緒にするな!」

 

 ムッとしたように白虎の戦士が言う。そして、両手の人差し指と小指を立てて奇妙な決めポーズを取った。

 

「いいか? 一度しか言わねえから、てめえらのちっぽけな脳みそにしかと刻み込め。俺の名は……吼神星・ショタレンジャーだ!」

 

 

 どこからか取り出した大きな布袋を、書店の床へどさりと下ろす。中からは大量のおねショタ本が溢れ出てきた。

 

「百合やBLばかりがちやほやされやがって、もう我慢できねえ! 俺がおねショタの時代を到来させてやるぜ!」

 

 言うが早いか、ショタレンジャーは目にも止まらぬ速さで動いた。客を突き飛ばして、本棚へ向かってずんずん進む。そこへ陳列されている百合・BLの薄い本を、剣で次々に斬り捨ててズタズタにしていく。

 

「やめて下さい。それは一冊数千円もする貴重な商品で……」

「ンなもん知るか。おねショタの価値はその数千倍だぜ!」

 

 泣きついてきた店員をも意に介さず、白虎の戦士は破壊行為を続けた。百合とBLの関連書籍を完膚なきまでに叩き潰し、代わりにおねショタ本を棚に並べていく。

 

「ガハハハハッ! この本屋も俺色に染め上げてやる!」

 

 もはや、普通の人間にショタレンジャーは止められない。店員も客も抵抗することを諦め、必死の形相で出口へ走った。

 

 

「通報を聞いて駆けつけてみれば、ひどい有り様ね」

「また随分と暴れてくれたものだな」

 

 我先にと逃げ惑う人々。その流れに逆らい、悪党の元へゆっくりと歩み寄るヒーローたち。ベタといえばベタだが、王道で熱い展開である。

 

「誰だっ」

 

 飄々とした声が聞こえ、ショタレンジャーは剣を振り回すのをやめて振り向いた。

 

「金と銀のジャケット……てめえら、まさか!」

「そのまさかさ」

 

 二人の男女が不敵に笑い、銃型アイテムのエックスチューナーを構える。

 

「怪盗チェンジ!」

「警察チェンジ!」

 

 眩しい光に包まれたのち、カイリとツカサは百合エックス・BLエックスに変身を遂げた。金と銀の戦士を目の当たりにし、ショタレンジャーが怯む。

 

「孤高に煌めく怪盗。百合エックス!」

「気高く輝く警察官。BLエックス! BL警察の権限により、実力を行使する!」

「ははあ。てめえらが噂の百合・BLレンジャーか」

 

 マスクの下で、白虎の戦士はにやにやと笑っていた。

 

「一度手合わせしてみたかったンだ。サクッと倒されてくれよ?」

「あいにく、そういうわけにもいかないんでね」

 

 百合エックスが首をすくめる。そしてBLエックスと頷き合い、床を蹴り飛ばしてショタレンジャーへ迫った。

 

「こっちは遊びじゃないんだ。全身全霊で市民を守る!」

 

 

 エックスチューナーを連射し、カイリとツカサは白虎の戦士を寄せつけない。隙を見て背後へ回り込み、必殺技を放った。

 

「スペリオル・受け攻めショット!」

「エクセレント・ネコタチエックス!」

 

 金と銀のエネルギー弾が発射され、ショタレンジャーの胸部に命中。そのまま勢いよく吹き飛ばし、白のアーマーを書店の壁にめり込ませた。

 意外とあっさり決着してしまった。銃を下ろしたカイリは、肩透かしを喰ったような気持ちだった。

 

「何だか、あまり戦い慣れていないような感じだったな」

「そうね。一体、どんな人が変身していたのかしら」

「いずれにせよ、無力化したのを確認してから警察に引き渡そう」

 

 そんなことをツカサと話し合っていると、壁に叩きつけられていたショタレンジャーは力なく崩れ落ちた。体が淡い光に包まれ、変身が解除される。

 アーマーが消えると、彼の体が一回り縮んだように見えた。

 

「あいたたた……」

 

 耳に届いた声は、ソプラノに近い。先刻まで威勢よく啖呵を切っていた面影はどこにもない。

 

「えっ?」

「嘘でしょ?」

 

 カイリとツカサは、思わず声を上げていた。

 変身が解けた犯人の姿は、どう見ても小学生男子そのものだったからだ。

 

 

「本当に君がショタレンジャーなのか? さっきまで変身して、俺たちと戦っていたのか?」

 

 少年を助け起こし、カイリは尋ねた。

 

「君、名前は? 歳はいくつ?」

「僕、コウって言います。十歳で、小学四年生です。僕がショタレンジャーで間違いありません」

「まさか、本物のショタがショタレンジャーに変身していたなんて……」

 

 ツカサが呆れたように呟く。

 

「コウくん、どうしてこんなひどいことをしたの? 未成年だからあまり重い刑罰が下ることはないだろうし、幸い死傷者も出なかったけど、君のしたことは決して許されることではないわ」

「それは……」

 

 コウは、ばつが悪そうにうつむいた。

 

「悔しかったんです。東京卍帝国が潰れても、皆は百合やBLばかりをちやほやして、おねショタの素晴らしさに気づいてくれない。おねショタだけじゃありません。卍帝国の影響で不人気になってしまったジャンルが、他にもたくさんあるんです。だから僕が、この世界のあり方を変えたかった。おねショタを馬鹿にする人たちを、見返してやりたかったんです」

「……なるほどね」

 

 静かにツカサが頷く。屈み込み、目線をコウの高さに合わせる。

 

 

「私はね、卍帝国が人々を洗脳する前からBLを読んでいたの。その頃は周りから変な目で見られることもあったから、コウくんの気持ちも分からなくはないわ」

 

 でもね、と言い、ツカサは人差し指をビシッと立てた。

 

「どんな理由があろうとも、自分の好きなものを他人に押しつけたり、強制したりしてはダメよ。卍帝国に操られるがまま、百合派とBL派に分かれて互いを憎しみ合った日々の虚しさを、コウくんも知っているでしょう?」

「うん。わかったよ、お姉ちゃん。ごめんなさい」

 

 コウはしゅんとして頭を下げた。

 

「僕、おねショタの良さを分かってもらいたい一心で、悪いことをしちゃった。これからは、もっと平和に布教活動をするよ!」

「そうね。それはとても良いことだわ」

 

 ツカサが笑顔でうんうんと頷く。そんな彼女を横目に、カイリは「普段はツンツンしてて真面目だけど、意外と子供に懐かれやすいタイプなんだな」と考えていた。

 

 

「きゃあーっ!」

 

 少年の相手をツカサに任せ、カイリは警察へ連絡して事情を説明している。これで一件落着かと思われたとき、彼女の悲鳴が響いた。

 

「どうした⁉︎」

 

 慌てて電話を切り、振り向くカイリ。もしや、コウがまた何か騒ぎを起こしたのだろうか。

 

「お姉ちゃん、おっぱい小さいね」

 

 見れば、少年はツカサの胸を揉んでニコニコ笑っていた。それも、正面から思いっきり、堂々と揉みまくっていた。一方のツカサは顔を真っ赤にしている。

 

「なっ……何してんのよ、あんたは!」

 

 ようやくショックから立ち直ったらしい彼女が、コウを乱暴に引き剥がす。

 

「何って、お姉ちゃんのカップ数を計測してただけだよ。うーん、これはA寄りのBくらいかな? もうちょっと大きい方が、おねショタ的にはお得なんだけどなあ〜」

「悪かったわね、お得じゃなくて! 言っておくけど、あたしは微乳じゃなくて美乳だから。あんたみたいなお子様には、良さが分からないだけよ!」

 

 動揺のあまり、ツカサは赤面したまま、ぎゃあぎゃあとまくし立てた。そこまで言って初めて、カイリに見られていることに気がついた。

 仕事上のパートナーにカップ数を知られた。しかも、さっき自分で「お子様には良さが分からない」と発言してしまった。これでは、暗に「大人なら良さが分かる」とアピールしているようなものではないか。

 

 

「カ、カイリ! 違うの、ええと、これは」

「……あー。俺、胸よりも尻派だから」

「フォローになってなくない⁉︎」

 

 何も見なかったことにして、電話の続きをするカイリ。「お嫁に行けない」と嘆くツカサ。「性に無知なショタをリードするのは、やっぱりグラマーなお姉さんでなくちゃダメだよねえ〜」と一人でブツブツ言っているコウ。

 

 三者三様のリアクションを見せる中、ようやく警察への連絡を終えたカイリが「あっ」と漏らした。

 

「そういえば、コウに一つ聞き忘れていたな。変身前と後で声が変わっていたような気がしたけど、あれは頑張って声を作ってたのか? それとも、ボイスチェンジャーか何かを使っていたのか? 場合によっては、それも押収しなくちゃいけないかもしれない」

「いや、どっちでもないです」

 

 コウは首を振った。そして、書店の床に転がっていた剣を指さした。

 

「この剣が、僕の代わりに喋ってくれていたんです。子供の体格のままじゃ戦いにくいだろうからって、一時的に体を大きくしてくれました」

 




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・ダイレンジャー
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