「勝ったのね」
バスターに合体させていた武器を取り外すと、全身から力が抜けてしまった。ぺたんと地面に尻餅をつき、ツカサは「信じられない」と首を振った。
「あたしたち、本当に高次元生命体のボスを倒したのね。これでもう、人々が洗脳されることも、変なヒーローが街で暴れることもないのね」
「ようやく平和が戻ってきたんだな」
しみじみとカイリが言う。が、ナオヤは爆発の向こうに目を凝らし、「安心するのはまだ早いかもしれないぞ」と二人に忠告した。
爆炎が晴れてくると、大地に膝を突いた魔王の姿が見えた。満身創痍だが、まだ生きている。どこまでもしぶとい奴である。
「お前たち、絶対に許さん」
焦点の合っていない目で、次元大魔王はぼんやりとナオヤたちの方を見た。
「今までいくつもの世界を植民地化してきたが、ここまで手こずったのは初めてだ。俺のプライドにかけても、必ずお前たちを倒して……」
「もうやめてくれ、父さん」
ナオヤが父の言葉を遮った。彼の目は悲しみをたたえていた。
「どうして父さんは、そこまでして他の世界の侵略にこだわるんだ? 植民地をこれ以上増やして、何がしたいんだよ」
「おい待てよ、敵に同情するつもりか? あいつ、お前のことを息子だと思ったことはないとか抜かしてたけど」
カイリがナオヤに小声で言う。
「俺は侵略戦争を続ける父さんのことが許せなくて、暗殺まで企てた。だが、父親としての父さんまでも百パーセント嫌いだったわけじゃない。事実、俺には幼い頃、父さんに頭を撫でてもらった記憶が残っている。息子だと思ったことがないなんて、嘘だ」
「トランガ……俺の、息子よ」
焦点が合っていなかった目が、ようやくナオヤを捉えた。魔王はそのとき初めて、憑き物が落ちたような清々しい笑顔を見せたのだった。
「そうだ。俺は嘘をついた。侵略計画のことしか頭になかった俺は、計画を進めることで息子から恨まれるのも当然だと思っていた。計画の障害になるのなら、息子を斬り捨てても構わないと思っていた。否、自分自身の心に嘘をついてきた」
弱々しく、にっこり微笑む。
「ハハッ、さすがは俺の息子だ。力のほとんどすべてを奪われた状態から這い上がり、ついにはこの俺を倒したか。俺は以前、お前のことを役立たずの出来損ないだと言った気がするが、少なくともこの不屈の精神は有用なようだな」
二人の間を、冷たい風が吹き抜けた。大魔王の命の灯は、今にも風に吹き消されてしまいそうだった。
「今までに父さんがしたことを許すつもりはない。だけど、最後に教えてくれ。なぜ父さんは、他の世界の侵略にこだわっていたんだ」
「それはな、トランガ……」
言いかけた直後、次元大魔王は目をみはった。自分の手を見て、恐怖と驚愕に顔をひきつらせている。
魔王の体は、指先から順に泥になって、少しずつ崩壊を始めていた。
「馬鹿な。この俺が」
手首から先が、次は肘から先が泥となり、崩れて落ちる。その次は腕全体が崩れ、顔も足もぽろぽろと欠け始めていた。
「この俺までもが、泥人形だっただと⁉」
ものの一分もしないうちに、次元大魔王の体は細かな泥の粒となって完全に崩壊していた。それが、この世界の人々を散々苦しめた諸悪の根源の最期だった。
戦いが終わってから、元いた街へ戻るのは大変だった。大魔王の術によって西アジアの僻地に飛ばされていた七人は、現地住民に事情を説明して空港まで連れて行ってもらった。言葉がなかなか通じずに苦労したが、一瞬だけ変身して「こういう者です」と名乗ると、「オー、百合&BLレンジャー、イエーイ。マイブラザー、ユーたちに憧れてロリーニンジャーになりました」と片言の英語で返ってきた。
まさか、こんなところでロリーニンジャーの親戚に会えるとは思わなかった。次元大魔王に専用武器ロリーソードガンを奪われたはずだが、彼は今元気にやっているだろうか。
やっとのことで日本へ戻ると、皆お腹ペコペコだった。空港の中華料理屋に入り、思い思いのメニューを注文する。
話題は一つ。「これからどうするか」である。
「高次元生命体の出現がなくなれば、BL警察は解散になる。俺たちは警察内の別の部署へ異動になるかもしれないな。まあ先のことは分からないが、少なくとも無職になることはないんじゃないか」
警察所属のケイイチロウは、事態をあまり悲観していなかった。彼の将来が割と安泰ということは、すなわち、サクヤとツカサとナオヤも安泰ということになる。
「俺たち三人は怪盗戦隊・百合レンジャーを辞め、普通の生活に戻ることになるだろう。……といっても、そんなには変わらない。裏の顔は怪盗でも、俺の表の顔はレストランのシェフ。ウミカもウエイトレスをやっていた。飲食業を極めるだけさ」
トウマも同様である。その口ぶりだと、カイリはここのところあまりレストランを手伝っていなかったのかもしれない。食いっぱぐれそうになれば、彼もまた真面目に働くのだろうか。
「俺はこれからもこの世界で、人々の中で生きていく。改めてよろしく頼む」
ぺこりと頭を下げたナオヤ。彼にはきっと、高次元生命体としてでも戦士としてでもない、まったく新しい人生が待っていることだろう。
「たとえ遠く離れていても、俺たちの心はいつも一つだ。もしまた地球に危機が迫れば、一致団結して戦うぞ」
「もちろんよ」
カイリの言葉に、ツカサが頷く。
大魔王との最後の戦いを終えた今、七人のヒーローには新たな未来が開けていた。
「……それにしても、あれ、どういうことだったのかしら」
空港から移動するとき、たまたまツカサとカイリは方面が同じだった。ゆえに、割と自然な流れで同じ電車の車両に乗り、隣の席に座った。
一般人に聞かれると少々まずいかもしれないので、声量は落としてある。
「あれって?」
「次元大魔王の最期よ」
ツカサは物憂げな表情だった。
「超新星ピュアッシュマンの幻や次元四天王のコピー体を、魔王は泥人形をベースにして作っていた。でも、魔王自身も泥人形だったわよね」
「素直に考えれば、『次元大魔王を作った何者かが存在する』ってことだよな」
「そんな、明日の天気の話をするみたいに言わないでよ」
あまり深刻そうではないカイリに、ツカサはぷんすか腹を立てた。
「大問題じゃない。つまり、あたしたちの戦いはまだまだ終わりそうにないってことでしょ?」
「まあ、大丈夫だって」
怒ったツカサをなだめるように、カイリは「まあまあ」と肩を叩いた。
「俺とお前がいれば、どんな悪にも負けねえからさ」
「そうね……」
首を縦に振りかけたが、直後、ツカサはほんのり赤くなった。以前、二人で焼き鳥屋で飲んだときのことを思い出したからである。
「い、今のって、変な意味じゃないわよね⁉」
「当たり前だろ。ツカサは意識しすぎなんだよ」
「あんたはもうちょっと意識しなさいよ! このバカっ!」
相変わらずのやり取りが、いつまでも続く。それはある意味、とても平和で優しい結末だと思う。
束の間訪れた休息の中で、二人は幸せそうなカップルみたいに笑い合っていた。
次元大魔王が倒され、高次元生命体の侵略計画は終わった。しかし、高次元生命体のボス・次元大魔王も、何者かに作られた存在だったようだ。はたして、黒幕は他にいるのだろうか?
そして、ツカサとカイリの微妙な距離感は、今後どうなっていくのだろうか?
ありがとう、百合レンジャー! これからもよろしく、BLレンジャー! これがニチアサなら「一年間応援ありがとうございました」と字幕が流れるところだが、ニチアサではないので流せない! ともかく、今までありがとう!
※もう少し続きます。