百合レンジャーvsBLレンジャー   作:クリスタルスカイ

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番外編in名古屋
帰ってきた百合レンジャーVS BLレンジャー in名古屋


「疲れたし、この辺で休憩しないか」

 

 二人でドライブを楽しんでいると、急にナオヤからこう言われた。いつも通りの涼しい顔で、視線は前方に向けたまま、ごく軽い調子で提案された。

 

「えっ?」

 

 藪から棒に何なのだろう。助手席のツカサが、怪訝そうに彼を横目で見た――内心の動揺を、必死で隠しながら。

 

(……ちょっと待って。ナオヤくん、今「休憩」って言ったわよね? それってつまり、ラブホテルに行くという暗黙の了解かしら⁉)

 

 恋愛には縁のない人生を送ってきたツカサでも、それくらいは小耳に挟んだことがある。婉曲的に相手を誘うテクニックだ。まさか、ナオヤから技を掛けられるとは思わなかったけれども。

 

 

(こういうのは普通、女性側が誘うときに使われると聞くわよね。いや、でも、スイッチの入ったナオヤくんは何をしでかすか分かったもんじゃないわ。婚活を始めようとしていたときだって、キャラ崩壊気味だったじゃない!)

 

「ナオヤに下心がある」という仮説を否定できるだけの材料を、彼女は持ち合わせていなかった。ただ、焦る気持ちだけが募っていく。心なしか頬が熱い。

 

(冗談じゃないわ。相方のあいつのこともなぜか気になってるってのに、ナオヤくんにまでドキドキが止まらなくなっちゃったら……あたし、いよいよおかしくなっちゃうわよ⁉)

 

 もう既に十分挙動不審なのだが、ツカサ本人に自覚症状はないようだ。やたらそわそわして、「ええと」「どうしようかしら」等の台詞を棒読みで言っている。

 最近の彼女は変だ。カイリやナオヤからちょっと思わせぶりなことを言われただけで、激しく動揺する。焼き鳥屋でサシ飲みした夜以来、どうも様子がおかしい。

 

 

「きゅ、休憩って、どこに行くのよ?」

 

 精一杯平静を装って、ツカサは尋ねた。何だか恥ずかしくてナオヤの顔を直視できなかったから、窓の外の景色を眺めながら聞いた。

 いつの間にか名古屋市の中心部を外れたらしく、付近に高層ビルは見当たらない。坂が多く、ツカサの心とは裏腹にのどかな街並みが広がっている。

 

「それは着いてからのお楽しみだ」

 

 ナオヤは笑って、答えをぼかした。

 

「この近くのはずだから、もうすぐ着くぞ」

 

 お願い、ナオヤくん。あたしをどこに連れて行くつもりなのか、早く教えて。じゃないと、あたしのハートがもう持たないわよ。

 車のハンドルが左に切られ、お洒落な外観の建物が視界に入る。

 はたして、ここは天国か地獄か。ドクン、ドクン、と心臓が早鐘を打っているのが分かった。

 

 

 なぜツカサとナオヤが二人で名古屋をドライブしていたのかというと、話は二日前に遡る。

「名古屋の観光名所に怪人が出没している」との目撃情報が寄せられたため、警察上層部は高次元生命体の仕業かもしれないと考えた。そこで、元BL警察で精鋭だった二人に白羽の矢が立ち、名古屋の視察任務を与えられたのである。

 なお、大魔王が倒されて高次元生命体の襲撃がなくなってから、BL警察は一旦解散された。が、「特上課」という名前で、警察の特殊部隊として再編された。要するに名前が変わっただけで、構成員はほぼ同じである。

 

 おそらく、上層部には「百合派とBL派の抗争が収まり、ブームも落ち着いてきているから部署名を変えたい。今のままでは警察の黒歴史になりかねない」「不測の事態に備え、戦力部隊は存続させておきたい」というような思惑があったのだろう。何はともあれ、皆今まで通りに仕事をしている。

 以下に記すのは、観光名所の視察後にツカサが行った定時連絡の記録である。彼女は数時間おきに東京の特上課本部に電話をかけ、細かいことまできちんと報告していたのだ。

 

 

「お疲れ様です! 特上課のツカサです。視察一日目は、まず名古屋城と徳川園に行きました。名古屋城は写真で見るよりもずっと美しくて、鯱がキラキラしてました。天守からの眺めも最高でした。徳川園もとても趣があって、心が癒されるようで……えっ? 観光した感想はいいから、視察の結果報告をしろ? た、大変申し訳ございません! 異常はありませんでしたっ!」 

 

 

「それから名古屋市内の店で、昼食に味噌カツをいただきました。味噌カツは初めて食べましたが、とても美味しかったです。ここも異常なしでした。昼食後はナゴヤドームに行き、野球の試合を観ました。阪神と中日の試合だったんですけど、阪神があっさり負けました。応援していたので悲しかったです。特に不審な客はいませんでした。夕食には名古屋コーチンの親子丼をいただきました。こっちの店も異常ありません。では、ホテルで休みますので、課長もおやすみなさい……えっ? ナオヤくんと相部屋にしたのかって? そ、そんなわけないじゃないですかっ! 別の部屋で寝ますから! ていうか、セクハラで訴えますよ⁉」

 

 

「おはようございます、課長! 視察二日目ですね。昨日のセクハラは見逃してあげますから、課長も、あたしたちが視察兼観光を楽しむのを見逃して下さいね。さて、二日目の今日は最初に熱田神宮を見て回って、天むすを食べて、次に東山動植物園に行きました。ナオヤくんが車を借りてきてくれたのでそれで行ったんですけど、駐車場がめちゃめちゃ混んでて、入園する前から既に大変でしたね。あと、あたしはひつまぶしも食べたかったんですけど、予算の都合でナオヤくんに却下されました。……新設されたばかりの部署に、予算があるわけがないだろうって? はい、すみません」

 

 

 ツカサが定時連絡で伝えたのは、視察二日目のお昼頃までの様子だ。動植物園に入園して以降のことは、まだ報告していない。

 この東山動植物園というのが、非常に広大な敷地を有する施設なのである。動物園と植物園だけでも相当な広さだが、それ以外にも遊園地、展望台、ボートハウス、結婚式場などがあった。二人は園内を歩くだけでへとへとになってしまい、どちらからともなく「ドライブしてリフレッシュしよう」ということになったのだった。

 

 そうしてドライブしているうちに、ナオヤは「休憩しないか」と意味深(?)な発言をし、ツカサは気を揉んでいる。

任務がてら観光を楽しみ、ちょっぴり浮ついた気分の若者が二人。同僚や上司に見られていないのを良いことに、彼らは羽目を外してしまうのだろうか?

 

 

「ここ、どこなの?」

 

 少なくともラブホテルではなさそうだ。ツカサは目を瞬かせた。

 訪れた建物は、高級住宅地の中にあった。外観、内装ともに、ウッディーで昭和の香りが漂うレトロな印象を受ける。

 

「知らないのか。オメガコーヒーの本店だ」

 

 順番待ち名簿に、ナオヤが整った字で「滝沢ナオヤ」と記入した。

 

 

『滝沢ナオヤという名前は偽名だ。今のこの姿は、たまたま見かけた警備会社勤務の青年のものをコピーし、借り受けた。経歴も何もかも嘘で塗り固め、俺はただ、父さんを止めるためだけに今日まで生きてきたんだ。誰にも頼らずにな』

 

 そういえば、出会ったばかりの頃の彼はこう言っていた。次元大魔王は倒されたが、いつかナオヤが本当の名前と姿で暮らす日は来るのだろうか。

 

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