「ここでしか食べられない、限定スイーツがあるらしい。休憩がてら食べてみたいと思ってな」
「そ、そっかー。休憩ってそういう意味だったのねー。アハハ」
「何を言っているんだ?」
ぎくしゃくした微笑を浮かべたツカサと、「休憩」の深い意味など全く考えていなかったナオヤ。二人は対照的だった。
経緯はともあれ、彼らは二人掛けの席へ通された。ナオヤはコーヒーと限定商品のオメガクロネージュを、ツカサはカフェ・オーレとオメガシロネージュを注文する。なお、今回は六億年前のコーヒー豆が使われてはいなかったし、「オーレ!」と叫んで超力変身することもなかった。まあ、それが当たり前なのだけれども。
オメガクロネージュ、シロネージュというのは、アイスクリームの周りをバウムクーヘンで囲んだようなデザートだった。バウムクーヘンの色がそれぞれ黒と白で異なる。
「甘~い!」
健全な休憩だったことを確認して気を取り直したのか。いや、それもあるだろうが、単純にスイーツが美味だったのだろう。ツカサはすっかりご機嫌で、眩しい笑顔を見せている。
「あたし、これ気に入っちゃった。ナオヤくん、連れてきてくれてありがとう! 定時連絡のときに、課長にもおすすめしておくわね!」
「一応言っておくが、定時連絡は食レポじゃないぞ」
キラキラした目をしたツカサを前に、ナオヤは困り顔だ。それから、不意に居住まいを正した。
「……ツカサ。この機会に、一つ相談しておきたいことがある」
「はひほ(何よ)」
バウムクーヘンを頬張りながら、彼女はもごもご喋った。
「子作り、できるか?」
「……ほへっ(ええっ)?」
ナオヤはいたって真剣である。
不意打ちでとんでもない質問が投げかけられたので、ツカサは固まってしまった。手にしたフォークがぽろりと落ちる。
油断していた。「休憩」のニュアンス以上にインパクトの強いものはなかなかないだろうと高を括っていたが、上には上がいた。とても喫茶店でする会話ではない。
「そ、それってつまり、あたしとナオヤくんが、ってこと……?」
真っ赤になった頬を手で押さえ、ツカサは乙女らしい恥じらいを見せた。
「か、勘違いしないでよねっ。ナオヤくんのことは嫌いじゃないし、何ならちょっとかっこいいな~くらいには思ってるけど、いきなりそういうのは恥ずかしいわ」
相手が見ず知らずの人間であれば、一蹴していただろう。「ここは人にものを頼むような場所じゃないわよね。ごちそうさま、美味しかったわよ」と足早に店を出ていたかもしれない。しかし、ナオヤは職場の同僚であり、共に戦った仲間であり、顔立ちがハンサムなのだ。邪険にするのはためらわれる。
「いや、俺が言いたかったのは、泥人形だった次元大魔王は子作りできたのか、ということだ。言葉足らずですまない」
「足りなさすぎるわよ⁉ せめて、主語が何なのかはっきりさせなさいよ!」
気まずそうに頭を掻くナオヤと、ギャグ漫画のワンシーンみたく椅子からズコーっとこけるツカサ。カイリと組んでいるときといい、どうも彼女はツッコみ役を担うことが多いようだ。
「本当に申し訳ない。この命、神に返そう」
「……さすがに思い詰めすぎじゃない?」
「それで、ええと、泥人形だった大魔王には生殖機能があったのかって話だったわよね」
子作りというパワーワードを避けつつ、ツカサはツッコみを止めて元の話題に戻った。
「ああ。父さんに――正確には、父さんの泥人形に生殖機能がなかったのだとすればどうだろう、と思ってな」
ナオヤは真剣な表情で言った。
「もしなかったのなら、本物の大魔王は息子の俺が誕生した後にいなくなり、泥人形と入れ替わっていたことになる」
「つまりナオヤくんは、本物のお父さんと泥人形がどのタイミングで入れ替わったのかを気にしているってこと?」
「そうだ。もっとも、泥人形にも生殖機能があったのなら、いつ入れ替わっていても不自然ではないがな」
ツカサの問いに、彼が頷く。
「最後の最後で、父さんと少しだけ心を通わせることができた。だから、自分のルーツについて知りたくなったんだ。俺は泥人形の息子なのか、それとも本物の父さんの息子なのだろうかと」
「ナオヤくん……」
BLファイヤーが「なぜ侵略にこだわる」と問い詰めた直後、次元大魔王の体は細かな泥の粒となって崩れてしまった。結局、その理由は聞けずじまいになっている。
また、大魔王(の泥人形)は自身も四天王のコピー体を作って使役していたが、彼らと魔王には大きな違いがあった。四天王の泥人形たちは自分がコピー体であることを知っている口ぶりだったのに対し、大魔王は自分の正体を知らなかったのである。
魔王を作った人物は、彼に真実を明かさなかったのだろうか。誰が、一体何のためにそんなことを?
「お母様に尋ねてみることはできないわけ? 長年夫と連れ添った妻なら、本物と偽物を区別することができたかもしれない。いつ入れ替わりが行われたのか、何となく察しているかもしれないわよ」
「母は俺を産んですぐ、病に倒れた」
「あっ。ごめんなさい……」
触れるべきでない話題に触れてしまったようだ。慌ててツカサは謝った。
「他に、次元大魔王のことをよく知っていそうな人はいないの?」
「使用人兼最強の戦士だった四天王が倒された今となっては、もうほとんどいないだろうな。仮にいたとしても、こちらの世界から高次元生命体の世界へアクセスすることは難しい」
「え、あいつら、使用人だったの……?」
どこのメイドラゴンよ、とツカサは呟いた。とてもじゃないが四天王たちは大魔王の翼になれる勇気があるようには見えなかったし、初めて出会う世界に花束を送ろうとするタイプにも見えなかった。どちらかというと、自分のことにタララッタラッタ手を焼いていそうである。
「話を聞く限りでは、大魔王の泥人形に生殖機能があったかどうかは何とも言えないわね。判断材料が少なすぎるもの」
「そうだな。食事中に変な相談をしてしまって悪かった」
「いいのよ。ナオヤくんにとって大切なことだと思うし」
と、何とはなしにオメガシロネージュの載った皿へ視線を落としたところで、ツカサは小さく悲鳴を上げた。
「わっ。ソフトクリームが溶けかかってるじゃない⁉」
「ちょっと長話をしすぎたか。急いで食ってしまおう」
真面目な話題はひとまず置いておいて、二人は限定スイーツを平らげることに専念した。フォークをせかせかと動かした。
今回、ご迷惑をおかけした作品
・小林さんちのメイドラゴン