社長直々に仕事を引き受けてから数日間、俺はバイクで名古屋中を走り回った。
超次元の戦士・超モモタロウが現れたという観光名所を巡り、さらに市街地をも巡った。しかし、怪しい奴は全然見かけなかった。
もちろん、平和であるに越したことはないし、ただバイクを走らせるだけでお金を稼げるのだから、ある意味楽な仕事かもしれない。だが、これでは閑職に追いやられたようにも感じられる。
バイクで風を切っている間だけは。失恋の痛みを忘れることができた。中途半端な自分自身から目を逸らすことができた。
『おいコラ裕介、話を逸らすんじゃねえ! 追い込まれると話題を変えようとするのが、てめえの悪い癖だぜ』
赤信号で停まったときに、ふと志穂怜奈の言葉を思い出してしまう。現実逃避が俺の悪い癖なのは事実だ。今だって、仕事に集中することで嫌なことを忘れようとしている。本当は、なりたくてヒーローになったわけじゃないし、戦う覚悟だって決まっちゃいない。
俺みたいに、他人の真似しかできない人間がヒーローをやってていいのだろうか。もっと他に適した人材がいるんじゃないか。
と、そのとき、遠くで爆発音が聞こえた。見れば、高層ビルの一部から火と黒煙が出ている。
白昼堂々とテロまがいの行為をするのは、俺たちがいるのとは別次元の奴らのやり口に違いない。直感的にそう判断した俺は、バイクのスピードを上げた。車の隙間を縫って爆走し、現場に急行する。
仕事の時間だ。
「青い空、白い雲。ええい、何もかも腹立たしい!」
オレンジ色の皮膚を持つ金属生命体が、右手に構えた剣を怒りに任せて振り回す。
「我らの世界はとっくの昔に汚染されたというのに、下等生物どもの住むこの世界は何と美しいことよ! 羨ましすぎて虫唾が走るわ!」
剣から放たれたビームがビルを破壊し、街に瓦礫を降り注がせる。通行人たちの悲鳴が響いた。
「……ひでえな」
駆けつけた俺は、惨状を目の当たりにして言葉を失いそうになった。
「ママ、どこなの? 怖いよー、痛いよー!」
この混乱の中で、親とはぐれたのだろう。泣き叫んでいる少年の姿があった。
「誰か……誰か、助けて下さい!」
瓦礫に両足を挟まれ、身動きが取れなくなっている若い女性がいた。必死に助けを求めている。
見たところ、少年に怪我はなさそうだ。まずは女性を、次に子供を救助しよう。俺は何をやっても中途半端な人間だが、与えられた仕事はきっちりこなす男だ。ヒーローとして、やれるだけのことをやってやる。
いや、それ以前に、苦しんでいる人が目の前にいて無視するなんてできない。
「待ってろ、今助ける!」
バイクから降り、俺は彼女の元へ駆け寄った。瓦礫を持ち上げて助け出そうとしたが、想像以上の重さだった。鉄の臭いに耐えて筋トレに励んできたというのに、瓦礫はびくともしない。おおよそ、人間の力では持ち上げるのは不可能に思えた。
(人間の力なら、な……)
バイクの後部、そこにロープで縛りつけてあるアタッシュケースに目をやる。あれを使って変身すれば、あるいは女性を救助することもできるかもしれない。強化スーツを着れば、常人の何倍ものパワーを出せると聞く。
(でも、本当に俺が変身していいのか)
俺の中には、まだ迷いがあった。アタッシュケースまでの距離がやけに遠く感じた。
怜奈に指摘された通り、俺は他人の真似しかできない、オリジナリティーの欠片もない人間だ。だから彼女に愛想を尽かされた。勉強も就活も何もかも、今までの人生で上手くいったと思えることなんて全くなかった。
こんな俺がヒーローの真似事をしたら、いつかとんでもない失敗をやらかすのではないだろうか。俺には、ヒーローになる資格なんてないんじゃないか。
『早川くんの音声パターンは既に登録済み。したがって、これを使って変身できるのは早川くんのみということになるね。もし君がこの仕事を断れば、プロトタイプは誰も使用できず、無用の長物になってしまう』
変身をためらった俺の脳裏を、社長から仕事を任されたときの記憶が不意によぎった。それで覚悟が決まった。
「……よし。やってやる!」
この力は俺にしか使えない。二番煎じではない、唯一俺だけの力だ。だったら、他人の真似なんかじゃなく、オンリーワンのヒーローになってみせる。俺が戦わなくて、誰が皆を守るんだ。
バイクの方へ駆け戻り、アタッシュケースから携帯電話型の変身アイテムを取り出す。そして俺は、社長に教えられた変身コードを叫んだ。
俺にしかできないことをやり遂げる力。俺はそいつを引き受ける。
ようやく分かったよ、怜奈。これが俺の「オリジナリティー」。生まれて初めて探し当てた、俺だけのオリジナルだ!
「インストール! 『オメガ珈琲シルバー』!」
刹那、俺の体は光に包まれ、銀と白のアーマーを装着完了した。頭部には黒いアイレンズが、各部には金のラインが入っている。
再び女性の元へ向かい、瓦礫を持ち上げた。さっきまでは大苦戦していたのが嘘のように、軽々と持ち上がる。
「この人をお願いします!」
女性に肩を貸して歩き、救急隊員のいるところまで送り届けた。
「ありがとうございます。あの、お名前は……」
踵を返した俺に、担架に乗せられた女性は遠慮がちに尋ねてきた。
「名乗るほどのものじゃない。たった今ヒーローになったばかりなんでね」
そう言って、俺は大きくジャンプした。一跳びで少年の元へ参上し、彼の手を引いて歩く。
「ここは危ないぞ。さあ、早く避難するんだ!」
「でも、ママが」
「ママはきっと、この近くの避難所にいるはずだ。俺がそこまで連れて行ってやるから、もう泣くな」
オメガ珈琲シルバーとなった俺は、少年を抱きかかえたままジャンプし、付近の小学校の体育館まで連れて行った。少年の姿を認めるやいなや、母親らしき人物が涙ながらに駆け寄ってくる。
「良かった。無事だったのね!」
「ママ、ママー!」
抱き合って再会を喜ぶ親子の姿を見届けてから、俺は仕事に戻ることにした。すなわち、こんな罪のない人々を苦しめている諸悪の根源を倒すと決めた。
今回、ご迷惑をおかけした作品
・仮面ライダー鎧武