「ハハハ、そうだよな。ツカサの胸がまな板なのはいつものこと……って、今回は俺がまな板だったんだっけ。TSライジャーとやら、人の胸の大きさを馬鹿にするとは言語道断だぜ! そんな酷いことをする奴は、この俺がぶっ飛ばす!」
「どの口が言ってるのよ⁉」
セルフツッコミを入れた後、カイリは闘志を爆発させた。彼にカップ数をネタにされまくってきたツカサが、すかさず抗議する。
「……兄者、こいつら、全然動揺しませんよ?」
「ああ。それどころか、いつもよりパワーを増大させているような気さえするな」
TビームとSビームを浴びせて連携を乱す作戦だったはずが、完全に裏目に出ている。青ざめた兄弟戦士は、口々に言った。
「なぜだ。異性の体になったというのに、なぜお前たちはいつも通り、ギャグマンガみたいな会話をしている⁉」
「その体で、どうやって平常心を保っているというのだ。いくら何でも、順応するのが早すぎる。女性になったらとりあえず胸を揉んでみるとか、もっとこう、お約束な展開があるだろう!」
「馬鹿野郎、このぺったんこな胸をどうやって揉めって言うんだ! 『黄身の名は。』じゃないんだぞ!」
負けじとカイリが叫ぶ。
「それにな、異性の体でいるのも悪いことばかりじゃないぜ。この状態なら、俺の大好きな百合マンガのキャラクターたちの心情をさらに深く理解できる気がする。女として生きることを疑似体験したからこそ、幅広い解釈が可能になるんだ!」
「あたしもよ。男性の体は本来、男性同士で交わるようにはできていない。でも、だからこそ、痛みに耐えて愛を確かめ合うBLが尊いの。男の人の気持ちが分かるようになった今、あたしのBL熱は今、最高潮に高まってるわ!」
ツカサに指を突きつけられ、TSライジャーはたじろいだ。
「お、おのれ~。俺としたことが、こいつらが百合とBLのオタクであることを忘れていた。性転換さえもポジティブに解釈してしまうとは、何という強者よ!」
「怯むな、兄者。俺たちの合体技を見せてやろう」
TブレイカーとSブレイカーを連結させ、二人はバズーカ型武器「ダブルTSガジェット」を完成させた。
「ダブルTSガジェットには、性転換の機能はない。純粋に破壊力に特化させた一撃で、跡形もなく吹き飛ばしてやる!」
「吹っ飛ぶのはお前らの方だ!」
今日のカイリは一段と威勢がいい。こちらも「推し推し砲」を召喚し、エネルギー弾を発射した。
双方が弾丸を射出し、二つのエネルギー弾が空中で衝突、爆風を巻き起こした。採石場の砂が巻き上げられて四方へ散り、思わずTSライジャーは手で顔を庇った。
「……やったか?」
この台詞は、大体において生存フラグである。今回もそうだった。
砂嵐が止み、視界が晴れたとき、彼らが目にしたのはエックスチューナーを構えた百合エックスとBLエックスの姿だった。
「スーパー・スペリオル・受け攻めショット!」
「スーパー・エクセレント・ネコタチエックス!」
必殺技の名前が少し変わった。そして、威力は通常の倍以上。
一時的に異性の肉体を得たことによって、カイリとツカサは百合やBLへの理解を一段と深めた。頂点に達した感情の高ぶりを力に変え、超必殺技の発動を可能にしたのである!
「ぐわあああああっ!」
金と銀の光の奔流を喰らったのち、TSライジャーの二人は大爆発に呑み込まれた。
「やったな」
「やったわね」
変身解除したカイリとツカサは、笑顔でハイタッチした。
二人の手が触れたのとほとんど同時に、肉体が元に戻る。TSライジャーがノックアウトされたため、ビームの効力も切れたのだろう。
「おっ、胸がなくなった。まあ、あってないような胸だったけどさ」
「あんたはいちいち一言多いのよ! ……ああ、胸が戻って本当に良かったわ。たとえ小さくても、あるのとないのとでは大違い。下半身の野蛮なものもなくなって、もう安心ね」
敵を撃破し、性別も元通りでめでたしめでたし。おまけに百合とBLへの理解が深まって怪我の功名、万々歳だ――とはならなかった。
「ビームの効果が切れようとも、我らは死せず!」
自由民権運動を推し進めた板垣退助みたいな台詞が聞こえた。見ると、ボロボロになりながらも、爆発の中からTSライジャーがふらふらと現れたではないか。
「こうなれば最終奥義を使うしかない。顕現せよ、『TS雷神』!」
カブトムシとクワガタムシの特性をそなえた、二機の巨大な昆虫型戦闘車両が大地を爆走してくる。それらは稲妻を放ちながら合体し、胸部にカッター、腰にキャノン砲を装備した漆黒のロボットへ変形した。
「トウッ!」
大きくジャンプし、TライジャーとSライジャーが巨大ロボ「TS雷神」の操縦席へ乗り込んでいく。
「往生際の悪い奴め」
カイリが吐き捨てる。
「俺たちもロボットで対抗だ。百合カイザーで……」
と言いかけて、彼は「あっ」と間抜けな声を上げた。
「ちょっと、どうしたのよ」
「悪い。スマートフォンの充電が切れたから、百合ブルーとイエローに連絡できない。三人揃わないと合体は無理だ!」
「もう、何やってるの! 代わりに、あたしがBLカイザーで出撃するわ」
「いや待て、まずはナオヤに連絡すべきだ。あいつのBLレックスロボは一人でも操縦可能だから、一番早く出撃させられる。三体合体のロボを出すのは、その後でいい」
「ええっ、ナオヤくんに電話するの? 名古屋での任務の後だから、色々思い出して緊張しちゃいそう……」
「名古屋で何があったんだよ、お前ら」
ツカサが妙にもじもじしたのもあって、二人はTS雷神への対処が遅れてしまった。変身を解いて隙だらけの彼女たちを、巨大ロボの大きな足が狙う。
「今だ。踏み潰してやる!」
「――そうはさせやせんよ!」
だが、どこからか放たれたビームを胸部に受け、TS雷神がよろめいた。
「お初にお目にかかりやす、百合エックス坊ちゃん、BLエックス嬢ちゃん! 大好きなヒーローに会えて光栄でございやす!」
ズシン、ズシン、と大地を揺らして現れたのは、新たなる巨大ロボ。ウエスタンハットに似た形の頭に、星型のアイレンズ。牛の頭部をかたどった胸部装甲に、ライフル型の武器。さながら西部劇に登場するガンマン、もしくは保安官のような風貌のロボの肩には、テレビ中継で見たことのあるヒーローが乗っていた。
「ロリーニンジャー⁉ 何で日本に?」
予想だにしていない助っ人の登場に、カイリが素っ頓狂な声を上げた。
「説明しやしょう。次元ライダーBLACON・RXとの激闘を制したあっしは、次元大魔王に不意打ちされ、ロリーソードガンという武器を奪われてしまいやした。それ以来、ソードガンの行方を追って、この『ロリコンキング』とともに世界各地を旅しているのでございやす!」
「ロリーソードガンって、ああ、例の……」
ツカサは複雑な表情を浮かべた。性癖補完計画の発動を狙った魔王の手で、ソードガンはロリギヌスの槍へと変形させられている。今もまだ、西アジアの亡国の地に槍はあるはずだ――元の形へ戻すのは、たぶん無理だろうけれど。
その事実を伝えれば、「ロリコンキング」とかいう酷いネーミングのロボットに乗っている、あの金色の戦士はひどく落ち込んでしまうかもしれない。
「ええい、次から次へと。我らの邪魔をするな!」
苛立たしげにTライジャーが言い、TS雷神を操縦。カッターを右手に構えてロリコンキングへ突撃させた。
「それはこっちの台詞でございやす。『ロリコン・荒くれバスター』!」
対するロリコンキングは、ガガガガガ、とライフルから怒涛の勢いで銃撃を繰り出した。
「どわあーっ⁉」
たちまちTS雷神の全身は蜂の巣にされ、木っ端微塵に吹き飛んでしまう。今度こそ、TSライジャーを倒すことに成功したらしかった。
爆発をバックに、キンジが「忍ばず、ヒーハー!」と楽しそうに呟く。
「……では、あっしは旅の途中でございやすので、これで失礼しやす。いずれまた会いやしょう!」
あっさり敵を撃破すると、ロリーニンジャーはそのまま行ってしまった。山を越え、海を渡り、巨大ロボ「ロリコンキング」に乗ってどこまでも進んでいく。
海を渡るのなら、空を飛ぶ機能を付けておいた方が良いのではないか。それに、ロリーソードガンがロリギヌスの槍に変えられ、おそらくもう元には戻らないであろうことを伝えておくべきだったろうか。ツカサには色々言いたいことがあったけれども、後の祭りだった。
「まあともかく、異性の体になるという貴重な体験をして、百合とBLへの理解が深まって、敵も無事に倒せたんだから一件落着だな。メガロポリスは日本晴れだ」
「そうね」
フフッ、とツカサは微笑した。
「もう一つ、いいこともあったし」
「何だよ、それ」
「何でもないわ」
怪訝そうな顔をした彼に、とぼけて答える。
恋を成就させるためには、まず第一に、相手に女性への関心を持たせることから始めるべきである。TSライジャーのビームのおかげで得た発見を、彼女は今後に活かしていこうと密かに決めたのだった。
いつか必ず、もう一度彼と手を繋ぐために。
どんなに人騒がせな能力でも、百合レンジャーとBLレンジャーが力を合わせれば、きっと攻略できる。今回はついでに恋愛攻略のヒントも掴み、ツカサは恋愛面で進展した。
ロリーソードガンを探す旅を続けるロリーニンジャーにも、頑張ってほしいところだ。
これからも頼むぞ、百合レンジャー、BLレンジャー! そして、ロリーニンジャー!
今回、ご迷惑をおかけした作品
・「君の名は。」