「お待たせしました、味噌カツバーガーです」
ウエイトレスが男性客へ料理を提供しに行った直後、事件は起きた。また妙な客がやって来たのである。さっきのウエスタンハットの若者よりも、はるかに奇抜で危険な奴が。
「いらっしゃいます、何名様で……」
と言いかけて、裕介の同僚のウエイターは固まってしまった。
来店したのは、真っ黒な装甲に全身を覆われたロボット。右腕が銃と一体化している。それと、なぜかは分からないが、頭に金髪マッシュのかつらを載せていた。
「見て分かるだろう。俺一人だ」
ロボットは左手でウエイターを制し、ずかずかと店内へ押し入った。一歩歩くたびに「ガシャリ」と小気味いい機械音が響く。
「機械の体にコーヒーは不要。代わりに、機械油でもいただこうか」
「ふざけるな。そんなもん置いてねえよ!」
こういうトラブルに対応するのも、オメガ珈琲シルバーである俺の役目だ。裕介は他のスタッフを庇うように前に出た。
「ていうか、コーヒーを飲む気がないなら喫茶店に来るな。ガソリンスタンドに行け、ガソリンスタンドに!」
「黙れ、人間。貴様にはジョークも通じないのか」
そう言って、ロボットは右腕の銃身で裕介を殴った。不意を突かれた裕介がよろめく。
「痛えな。何しやがる」
「油を置いていないというなら、代わりに命をいただくまで。……超モモタロウやキレールを屠ったという戦士とは、貴様のことだな。俺と戦え、オメガ珈琲シルバー!」
「何っ⁉」
まずいことになった。このロボット、俺の正体を知っていやがる。
しかも、俺がシルバーだと知ってるのは久保社長だけのはずだったのに、皆の前でめちゃくちゃ雑に正体バレしちゃったぞ。正体バレって、普通は何話もかけて丁寧にドラマ作りしていくものだろ、おい。
「ええっ!」
「早川さんが、オメガ珈琲シルバー……?」
ほら、言わんこっちゃない。スタッフの皆、めっちゃ動揺してるし。
「な、何のことかなー? そういうお前は何者なんだよ⁉」
こうなったら、質問を質問で返してやる。逆質問ってやつかな。ちなみに、就活の面接において逆質問は超重要だ。俺は「特に質問はありません」と答えたら落とされたぞ。
「俺はガードノイド・マッシュ、超次元三武神を守護する者だ」
名前を尋ねたら、馬鹿正直に答えてくれるタイプの敵で助かった。たちまち皆の注意はロボットへ惹きつけられ、「やっぱり超次元生命体だ!」「また来たの?」「もしかして名古屋、超次元生命体に狙われてる?」「名古屋ってか、この店だけじゃね?」「サイン下さい」などと、口々に勝手なことを言い合って店から逃げていった。誰だよ、どさくさに紛れてサイン貰おうとした奴。
何はともあれ、客が退散してくれたのは好都合だ。あとは、スタッフを巻き込まないようにするだけだな。
「ガードノイド・マッシュと言ったな。俺と戦いたいのは分かるが、無関係な人間を巻き込むな。表に出ろ!」
「フン、いいだろう!」
俺たちはオメガ珈琲本店の駐車場で対峙していた。こんなところで戦ったらまた久保社長に怒られそうだが、街中で派手にやり合うよりは幾分ましだ。駐車場の修理費は、俺の給料から天引きしてもらおう。
「行くぞ!」
隠し持っていた携帯電話型のデバイスを取り出し、俺はオメガ珈琲シルバーへ変身しようとした。が、そこにさっきの男性客が乱入してきた。
「ちょっと待って下さいやし!」
俺の隣に並び立ち、出来立てほやほやの味噌カツバーガーを一口、美味そうに齧る。
「名古屋といえば、やっぱりこいつでございやすねえ~」
同時に全身が金色のパワードスーツに包まれ、星型のアイレンズとウエスタンハット型の頭部を持つヒーローに変わった。
「お、お前は一体⁉」
予想だにしていない敵の登場に、ガードノイド・マッシュがたじろぐ。
「――ロリーニンジャー。お前を狩る、ハンターの名でございやさあ!」
いまだ見つかっていないロリーソードガンの代わりに忍者激推し刀を構え、キンジ・オネガワは華麗に名乗りを上げた。
ソードガン探しの旅の途中、彼は東京だけでなく名古屋にも立ち寄っていた。お目当ての武器が眠る西アジアとはまるで見当違いの方向を探していることになるが、まあ、本人が旅行を楽しんでいるならいいだろう。
「ここからは、おねロリのビートで行きやしょう!」
「お前、ロリーニンジャーだったのか⁉」
裕介は驚きのあまり、声を上げた。
変身後の姿はテレビ中継で見たことがあったが、生身の姿がどんなものかは知らなかった。パッと見は日本人にしか見えないけれど、喋り方のクセの強さと独特なファッションセンスは日本人離れしている。
「そういうお前さんも、日本のニューヒーローのようでございやすね」
星型のアイレンズがこちらを向き、裕介が手にしたデバイスを見た。
「ここで会ったのも何かの縁。あっしら二人で力を合わせて、あのロボットを倒しやしょう!」
「言われなくても、そのつもりだぜ。――インストール! 『オメガ珈琲シルバー』!」
裕介も銀と白のアーマーを装着し、金銀の戦士が超次元生命体を迎え撃たんとする。
「まさか、ロリーニンジャーにも会えるとはな」
ガードノイド・マッシュは右腕の銃を構え、油断なく二人を見据えた。
「あまり手間取らせないでもらおうか。貴様らを倒した後の予定が詰まっているんだ」
「捕らぬ狸の皮算用かよ」
裕介は鼻で笑ったが、黒のロボットは意に介さない。
「俺の右腕の『マッシュガン』からは、命中した男性の髪形をマッシュヘアへ強制的に変えるビームが出せる。女性に当たった場合は、前髪がシースルーバングになる。このビームで人間社会のあり方を変え、社会に混乱を引き起こしてやるのだ! ハッハッハ!」
「お、おう。バトルでは全然役に立たなさそうな能力だな」
先に客を逃がしておいてよかった。もしもマッシュが店内でビームを撃ちまくっていたら、大変な騒ぎになっていただろう。