「問題なのは、原典のイメージ付与が、僕らの意志を無視してほとんど強制的に行われたことなんや。空に浮かぶ雲みたいに、決まった形を持たずにのんびり生きとった僕らが、ある日いきなり固定されたイメージに縛りつけられてしもた。お偉いさんは『環境汚染の影響で、もうこの世界に住める土地はない』『生き延びるためには原典に触れて戦闘用の姿に変わり、別次元への侵略戦争を仕掛けるしかない』と説明したんやけど、反発は根強かった」
「……市民が徴兵に反発すれば、侵略戦争を行うのは難しい。だから、代わりに高次元生命体を傀儡として利用し、そいつらでもダメだったから仕方なく自ら戦いに来たってわけか」
「ご明察」
糸のように細い目を、原典無しがほんの僅かに見開く。
「そして、僕もイメージ付与に反発したうちの一人や。原典を拒んで逃げてきた結果、今では超次元中のお尋ね者。僕はヒーローの力なんか持ってへんから、追手に見つかれば確実に殺されてまうやろなあ。ははは」
「ははは、じゃねえよ。よくもまあ呑気に身の上話できるよな」
「原典無し」というのは文字通り、原典のイメージを与えられていないということか。彼は彼で、色々と大変な人生を送っているようだ。嘘をついているようには見えなかったし、裕介は少し同情していた。
「……てことは、今お前が化けている人間の姿は、原典のイメージではなく本来の姿なのか? それとも、お前自身のイメージした姿か?」
「どちらでもないんや」
青年は自嘲気味に応じた。
「原典の付与を拒んでも、結局、種族全体へのイメージ付与の呪縛からは逃れられんかった。今の僕には、ステレオタイプな関西弁キャラのイメージが骨の髄まで染み込んどる」
考えてみれば当たり前のことだが、原典無しの故郷の人々は誰も日本語なんか話していないだろうし、ましてや関西弁で喋る者は皆無だろう。ガードノイド・マッシュを思い出させる髪形も、和服や草履も、彼らにとっては全く馴染みがないものに違いない。
見たことも聞いたこともない、興味もない。そんなものを強制的に押しつけられるのは、なるほど、確かに苦痛だと思えた。原典を拒んでもなお影響を受け続けてしまうとは、何と恐ろしいことか。
「高次元生命体、そして超次元生命体は、君らの世界に長いこと干渉しすぎた。今では人間たちにも原典の影響が出とる。このままでは、いつかとんでもない事態が引き起こされかねん」
「俺たちにも……?」
「そうや。君が変身するオメガ珈琲シルバーにも、原典となるイメージは存在する。僕の調査が正しければ、百合・BLレンジャー、ロリーニンジャー、アメリカのヒーローたちにも、それぞれ原典があるはずなんや。高次元生命体による洗脳から始まった戦いのせいで、人類も徐々に原典に似た姿になっていきよる」
出し抜けに、原典無しはすっくと立ち上がった。彼の表情は真剣だった。
「……頼む、オメガ珈琲シルバー。このことを他のヒーローたちにも伝えてくれ。そして彼らと力を合わせて、超次元生命体の指導者を倒してくれ。戦いが終わらない限り、人間も超次元生命体も、原典の呪縛で永遠に苦しむことになる。僕はもういい加減に、この地獄を終わらせたいんや」
にわかには信じられない話だった。出会い頭に殴られたような衝撃を受けた。
オメガ珈琲シルバーへ変身できるようになって以来、裕介は「俺にもオリジナリティーができた」と誇りに思っていた。しかし、その変身能力さえも原典による影響だったとしたら。共に戦ったロリーニンジャー、彼が憧れている大勢のヒーローたちも、結局は原典の産物だったのなら。
「ハッ」
だが、彼は動揺を悟られないよう、クールに笑ってみせた。
「面白いじゃねえか。オリジナリティーを手に入れるための道のりは、まだまだ長いってことか」
裕介も腰を上げ、原典無しの肩を軽く叩く。
「俺に任せろ、『原典無し』。ヒーローの力を持たないお前の分まで、俺が戦ってやる。超次元生命体の指導者とやらをぶん殴って、原典の影響なんざかき消してやるぜ!」
「いやあ、頼もしいわあ」
安堵した様子で、青年は胸を撫で下ろした。
「オメガ珈琲シルバーが味方してくれたら、百人力や。それじゃさっそく、僕らの友情を記念して一杯やろか」
原典無しの手の中に、何の前触れもなく、ビール缶が二つ現れた。
「どこから出したんだよ」
「今のはな、僕の髪の毛を缶の姿に変えたんや。超次元生命体はこういうこともできるんやで? ほれ、早う飲まんかい」
「いらねえよ! 原材料が髪の毛だと分かってて飲む奴があるかっ!」
「ノリ悪いなあ。味は普通のビールと同じやのに」
表情を曇らせ、青年は缶のプルタブを開けた。ぷしゅっ、と小気味いい音がする。
「ほんなら、僕はお先にいただくで」
「勝手にしろよ」
髪の毛からできたという情報を抜きにしても、早朝の、しかもランニング中にビールを飲むという習慣は裕介にはなかった。一体、原典無しの生活リズムはどうなっているのだろうか。
「朝っぱらから酒を飲むとは、いいご身分になったものだな」
刹那、背後の空間がぐにゃりと歪み、恐竜モチーフの赤と金の鎧を身に纏った戦士が現れた。
「安心しろ。ほろ酔い気分でいるうちに、一思いに殺してやる」
剣と盾が一体化したような形状の専用武器・バブライザーを左手に構え、超次元からの刺客は言い放つ。敵の登場に裕介と「原典無し」は驚き、後ずさった。
「おい、こいつも超次元生命体か?」
「せやで。いやー、しかし運が悪かったなあ。まさか、超次元三武神が直々にお出ましとは」
「……え?」
裕介の首筋を、冷や汗が流れ落ちる。
「お前がさっき言っていた、超次元生命体の指導者ってやつか?」
「いかにも」
原典無しの台詞を奪うかたちで、恐竜の戦士が言った。
「俺は超次元三武神の一人、バブみ戦隊アマエンジャーの『アマエマックス』。原典無し、貴様を地獄に送るのはこの俺だ!」
アマエマックスを構成するのは、恐竜系ヒーローの最強フォームのイメージと、いわゆる赤ちゃんプレイの性癖。「でちゅね遊び」に代表される、母親役の女性(もしくは少女)に甘えてバブみを感じることを至高とする。
「噂をすれば何とやらだ。ちょうどいいぜ」
下がってろ、と原典無しを背中に庇い、裕介が前に出る。携帯電話型の変身デバイスを操作し、「インストール!」と発声。オメガ珈琲シルバーへと変身を遂げた。
「お前をぶっ倒して、人間界も超次元界も救ってやる!」
一方、アマエマックスは余裕を見せつけ、バブライザーを振り上げて攻撃してきた。
「……あまり強い言葉を使うな。弱く見えるぞ」
今回、ご迷惑をおかけした作品
・BLEACH