「怪盗チェンジ!」
「警察チェンジ!」
戦闘機型マシンから飛び降りると同時に変身し、ツカサとカイリは無傷での着地に成功した。
現場は異常だった。ドーム状の黒いエネルギー体が河川敷に鎮座し、その側には若い男性が一人、泣き崩れている。
「BL警察特殊部隊、BLエックスよ」
「俺は百合エックスだ」
男に駆け寄り、ツカサたちはごく簡潔に名乗った。
「同僚のナオヤくんから、話は聞いているわ。あなたがオメガ珈琲シルバーね? 状況を説明してもらえないかしら」
「ああ、そうだ。アマエマックスと名乗る超次元生命体が、俺の仲間を『バブみフィールド』とかいう空間内へ閉じ込めてしまったんだ」
裕介は涙ぐみながら答えた。
「バブみフィールドって、あの真っ黒なドームみたいな?」
ツカサが聞いたのも束の間、そのドームが破裂するように消え、中から恐竜の戦士と原典無しが姿を見せた。
アマエマックスが、青年の体を地面へ無造作に放り投げる。和服の胸の部分が血でどす黒く染まっていた。おそらく、バブライザーで胸部を貫かれたのだろう。絶望に見開いた目と、血の気のない顔は、彼が既に絶命していることを示していた。
「弱すぎる。まるで手応えがなかったぞ」
赤と金の戦士は、つまらなさそうに吐き捨てた。
その言葉に感情を逆撫でされ、制御不能の熱い炎が戸惑いを焼き払う。昨日までの感覚を忘れさせる。
「お前だけは……お前だけは、絶対に許さない!」
もう一度オメガ珈琲シルバーに変身し、裕介は怒りを爆発させて向かっていった。ソードモードにした珈琲ブレイザーをがむしゃらに振り回し、攻撃の手を緩めない。
けれども、アマエマックスはその全てを盾で、あるいは腕で防いだ。
「諦めろ。貴様ごときの力では、俺を倒すのは不可能だ!」
フィールドを展開するまでもない、と言いたげに、バブライザー上部の刃でシルバーを滅多切りにする。銀の装甲はたちまち破損し、また変身が解けてしまった。
「とどめだ」
膝を突いた裕介に、アマエマックスが剣を振り上げる。
「させるか!」
「あたしたちが相手よ!」
そこにカイリとツカサが割って入り、戦いは第二ラウンドへ突入した。左右に回り込んで、VSチューナーで光弾を撃ちまくる。長い間コンビを組んでいるだけあって、二人の息はぴったりだった。
「スーパー・スペリオル・受け攻めショット!」
「スーパー・エクセレント・ネコタチエックス!」
もはや出し惜しみはなしだ。TSライジャーとの戦いで習得した技を、二方向から同時に放つ。
「くっ」
さすがのアマエマックスも、別々の方向から飛んでくる金と銀の光の奔流を完全にガードすることはできなかった。バブライザーでも威力を殺し切れず、装甲からスパークを飛ばして後退する。
「ならば、これでどうだ。『大気爆裂・バブみフィールド』!」
「おわっ⁉」
「ええっ⁉」
暗黒空間に取り込まれると、カイリもツカサも全身から力が抜けてしまったようだった。
「や、やべえ。よく分からないけど、めっちゃバブバブしたくなってきた……」
「でちゅね遊びがやりたくてたまらないわ!」
「フハハハハ! 隙だらけだぞ!」
勝ち誇ったアマエマックスが、必殺技「スラッシュバブシマム」を発動する。光の刃が二人を薙ぎ払い、かなりのダメージを与えた。
(畜生、どうすればいいんだ。このままじゃ原典無しも俺も、助けに来てくれた百合・BLレンジャーの皆も、あの恐竜野郎に倒されちまうじゃないか)
二度の変身、二度の敗北。裕介には、もう立ち上がる気力すら残っていなかった。目の前で原典無しが殺されるのを、なすすべもなく眺めているしかできなかった無力感も相まって、涙も枯れ果てた。
「大丈夫か⁉」
そこにもう一機、ヘリコプター型の巨大マシンが到着する。飛び降りてきたのはBL1号、2号、百合イエロー、ブルー。BLファイヤーを除く、百合・BLレンジャーの全メンバーが揃い踏みした。
ちなみに、ナオヤは不測の事態に備えて東京に残っている。今回の名古屋襲撃が陽動ではないとは言い切れない。
「実は、かくかくしかじかで……」
聞かれるがまま、早川裕介は再び状況説明を行った。ただし、先刻ツカサたちにした説明と異なるのは、今や百合エックスとBLエックスの二人もフィールド内に取り込まれ、絶体絶命だという点だ。
「やばやば! えー、どうするの~?」と百合イエロー・ウミカ。
「できることなら、今すぐにフィールド内へ突入し、二人を救出したいところだが……」
百合ブルー・トウマがためらう。
「バブみフィールド内では『赤ちゃんプレイをしたい』という欲求に襲われ、まともに思考できなくなる。しかも、敵の戦闘能力が倍増する。今回の敵は超次元三武神の一人の実力者だということだし、仮に総力を挙げて挑んでも、勝てるかどうかはかなり怪しいな」とBL1号・ケイイチロウ。
「それじゃあ、打つ手なしってことですか⁉」
BL2号・サクヤが悲鳴を上げる。
問題は、バブみフィールドから脱出する方法がないことだ。ゴークイーンズの三人にそれぞれウィークポイントが存在したように、どんな敵にも何かしらの弱点があるのが常である。それが、アマエマックスには見当たらない。
いや、どこかに必ずあるはずだ。考えろ、と裕介は自分の心に鞭を入れた。今までのアマエマックスの言動を順番に思い出し、敵を攻略するヒントがないか、死に物狂いで探す。
『俺以外の存在がバブみフィールドに入ったら最後、『赤ちゃんプレイをしたい』という強烈な欲求に襲われ、まともな思考ができなくなる。そして、俺の戦闘力はこの空間内で倍増する。もはや勝負は決したも同然だ!』
『無駄だ。内側から俺のフィールドを破壊することは不可能。貴様はまんまと俺の術にはまったのだ』
(……「内側から」?)
体に電流が走ったかのような錯覚を覚えた。恐竜の戦士はなぜ、わざわざ「内側から」と情報を付け加えたのだろうか。
「外からだ。外側から、バブみフィールドを破壊するんだ!」
四人のヒーローを見回し、裕介は指示を出した。
「あいつは、内側からの破壊が不可能だと言った。けど、外側からも破壊できないとは言っていない。もしかしたら、中にいる二人を助け出せるかもしれない」
「可能性はあるな」と百合ブルー。
「そもそも、『内側から破壊できない』というのも曖昧な表現だ。強度が高すぎて物理的に破壊できないのかもしれないが、バブバブしたくて仕方なくなるから、精神的に破壊不可になのかもしれない」
「俺たちは大切なポイントを見落としていた。ありがとう、オメガ珈琲シルバー。行くぞ、皆!」
「おうッ!」
ケイイチロウの指揮で、四人はドーム型のエネルギー体へVSチューナーの銃口を向けた。
「BL・一撃ストライク!」
「百合・イタダキストライク!」
各々が全力で必殺技を放ち、バブみフィールドの障壁に光弾が激突する。均衡が保たれたのはせいぜい数秒で、漆黒のフィールドはあっけなく崩壊した。
「何っ⁉」
今まさに百合・BLエックスへとどめを刺そうとしていたアマエマックスだったが、暗黒空間から投げ出されたことで目を白黒させていた。
「馬鹿な。まさか貴様ら、俺のフィールドの弱点を見破ったのか。一体、どうやって⁉」
「自分の心に聞いてみるんだな」
皮肉っぽくケイイチロウが言った。
ぐったりしているツカサとカイリの手から「借りるぞ」とVSチューナーを取り、そのうち一丁は自分で使い、もう一丁は百合ブルーに手渡す。人数的には二人がダウンしているため四人だけだが、これで銃は六丁、心は六人分だ。
「アマエマックス! お前たち超次元生命体は、何かにつけてツカサとカイリを狙ってきた。この間のTSライジャー事件のときだって、挑戦状を出したのはあの二人に対してだけだった。だが忘れるな。戦隊とは、全員揃っているからこそ戦隊なんだ。俺たち四人の仲間をマークしていなかったことが、お前の敗因だ!」
BL1号と百合ブルーがVSチューナーを二丁拳銃で使用し、四人が六人分の必殺技を発動した。
「スーパー・スペリオル・受け攻めショット!」
「スーパー・エクセレント・ネコタチエックス!」
「BL・一撃ストライク!」
「百合・イタダキストライク!」
怒涛の六連撃を見舞われ、アマエマックスの装甲から立て続けに火花が散り、亀裂が走った。
「お、おのれ、百合・BLレンジャー!」
典型的な悪役の台詞を口走ったのちに仰向けに倒れ、大爆発に包まれる。
裕介がバブみフィールドの弱点を見破ったことで、ケイイチロウたちは無事に勝利を収めることができたのだった。
「そうか。この青年も超次元生命体だったのか」
原典無しの遺体を見下ろして、ケイイチロウが数秒間目を閉じ、手を合わせる。
「遺体には、我々BL警察が適切な処置を行おう。ここから先は任せてほしい」
「ありがとう。でも、最後に少しだけ、こいつと話をさせてくれ」
無理を言っているのは分かっていたが、裕介はそう申し出た。変わり果てた姿になった原典無しの側に屈み込み、そっと手を取る。
「……すまねえ。俺一人の力じゃ、アマエマックスには勝てなかった。その結果、お前をこんな目に遭わせてしまった。悔やんでも悔やみきれねえよ」
枯れたと思っていた涙が、再びこみ上げてきた。ぐいっと乱暴に目尻を拭い、自らを奮い立たせるかのように続ける。
「俺、もっと強くなるよ。大切な人の命が目の前で奪われるようなことが、二度とないように。そして、お前に託された夢を実現させるために」
原典無しの口から語られた、恐るべき真実。人間界と超次元界、二つの世界を救うため、早川裕介はさらに強くなることを誓うのだった。