百合レンジャーvsBLレンジャー   作:クリスタルスカイ

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第6話 推し推し…ひたすら推し推し

 コウを連れて撤退するのが精一杯だった。

 彼を警察の元で保護してもらい、署を後にすると、急に体から力が抜けてしまう。カイリとツカサはふらふらと街を歩いた。

 

「……負けたな、俺たち」

「ええ。こてんぱんに負けたわ」

 

 肩をがっくりと落とした二人は、ひどく元気をなくしている。

 

「どうにかして奴を倒す方法を考えよう。このままじゃ、世界はショタレンジャーに支配されてしまう。コウのような操り人形がさらに生まれる可能性は、決して低くない」 

「どこかで休憩しながら考えましょ。もうヘトヘトよ」

 

 そんなことを話し合いながら歩いていたが、不意にカイリが足を止めた。何かが妙だった。

 周囲を見回し、違和感の正体に気づく。不自然なほど人気が少ないのだ。商業ビルの立ち並んだ繁華街だというのに、人っこ一人いない。

 

 

「おかしい。まるで人払いをしてあるみたいだ」

「――さすがは世間を騒がせる怪盗と警察。察しがいいじゃないか」

 

 カイリが独り言ちたのも束の間、裏路地からぞろぞろと人影が溢れ出てくる。皆カラフルなパワードスーツを装着し、敵意を剥き出しにしていた。

 

「お前たち、東京卍帝国の残党か⁉︎」

「そんな! どうして待ち伏せなんか……」

 

 ハッとして、ツカサが口元に手を当てた。卍帝国を裏で操っていたのがショタレンジャーなら、その残党へ情報を流すのも容易いはずだ。ツカサとカイリが逃げた方向を突き止め、卍帝国を使って倒させようとしたに違いない。

 自らは滅多に表舞台に姿を見せず、他の人間を操ってターゲットを消す。高次元生命体は実に狡猾な手口を取ってくる。

 敵の数は三十人をゆうに超えている。対してこちらは二人だけ。しかも、ショタレンジャーとの戦いで消耗しているというおまけ付きだ。

 

「この間は、うちのマイティーやドラゲンが世話になったな。あいつらをムショにぶちこんだお前たちだけは、絶対に許さないぜ」

 

 リーダー格と思しき、長身の男が前に進み出てくる。両手の甲に「罪」「罰」の文字が彫られているのが特徴的だ。「ダリィ」とぼやきつつもその目は冷たく真剣で、復讐に燃えていた。

 

 

(やるしかないのか)

 

 百合ブルー、BL2号たちの仲間は今、ショタレンジャーを追跡して交戦中だ。自分たち二人が抜けた穴を埋めるように、高次元生命体を倒すために死力を尽くしている。彼らに助けを求めることはできない。自分たちだけで、このピンチを乗り越えるしかない。

 

「泣きっ面に蜂だな」

 

 隣に立つツカサへ、カイリは弱々しく笑った。

 

「俺たち、ここで死ぬかも」

「短い人生だったわね。満喫できた?」

 

 軽口を叩いてはみたが、エックスチューナーを構えるツカサの手は震えている。

 三十人超の武装集団が、二人を取り囲む。殺戮が行われようとしたその時だった。

 どこからか飛んできた赤いリボンが、卍帝国の構成員たちの体へ絡みつき、きつく締め上げる。中にワイヤーが仕込まれたリボンは非常に硬く、パワードスーツの力を持ってしても拘束を解くことができない。

 

 

「な、何だこれは!」

「新手の敵か⁉︎」

「どこだ。どこから攻撃している。姿を現せ!」

 

 リボンに縛られ、身動きの取れなくなった不良たちが口々に叫ぶ。彼らを嘲笑うかのように、その頭上を一つの影がひらりと舞った。

 現れたのは、目元以外の全身をリボンで覆った、奇妙ないでたちの男。包帯の代わりにリボンを纏ったミイラ男みたいだ。

 どういう原理なのかは分からないが、彼は自分の手首からリボンを放つことができるようだった。伸ばしたリボンをビルの一部に結びつけて空中を振り子のように移動し、また別のビルへリボンを結ぶことで、都会の空を自由自在に舞っていく。

 

「やあ、悪党さんたち」

 

 やがて彼は空中移動をやめ、ゆっくりと地上へ降りてきた。おどけたように不良たちへ手を振ってみせる。

 

「気分はどうだい?」

「貴様、一体何者だ!」

 

「罪」と「罰」の刺青の男が、吠えるように問うた。対して謎の男は前傾姿勢を取り、片手を地につけて堂々と名乗った。

 

「……あるときは、推しと推しを結ぶ赤い糸。またあるときは、悪を縛る赤い罠。僕は天国からの使者、リボンダーマンだ!」

 

 

「助けて下さってありがとうございます」

 

 カイリとツカサは深々と頭を下げた。リボンダーマンと名乗る男は、自分たちの命の恩人である。

 

「どういたしまして」

 

 爽やかにそう言って、リボンダーマンは顔を覆っているリボンを解いた。たちまちハンサムな顔立ちが現れたが、どうも日本人のようには見えない。

「僕はピーター・バーガー。アメリカから来た」

 

「アメリカから?」

「どうしてそんな超能力を持っているの?」

 

 二人が口々に尋ねる。何となく既視感のあるヒーローだな、アメコミに出てきそうだな、とは思ったが、黙っておいた。

 

 

「高校の社会見学に行く途中で、偶然にもエッチな同人誌を拾ってしまったんだ。僕の推しと推しがファックなことをする、とんでもなくセクシーな本で……それで、気づいたときには手首からリボンを出せるようになっていた。あと、常人離れしたパワーもね」

「なるほど。全然分からねえ」

 

 カイリは首を振った。

 

「で、なぜわざわざ日本まで来て人助けをしてるんだ?」

「大いなる力には、大いなる責任が伴う――死んだ叔父が残した言葉さ」

 

 刹那、ピーターが暗い目をする。

 

「僕だって、最初からヒーローだったわけじゃない。むしろ自分のためだけに力を使っていた。けど、僕が悪人を見逃したせいで、そいつが起こした事件に巻き込まれて叔父さんが亡くなった。だから僕は戦うことに決めた。叔父さんの言葉に従って、人々を悪の手から守るために」

 

 それに、と彼は照れくさそうに笑った。

 

「僕は君たちのファンだ。憧れの百合レンジャー・BLレンジャーが苦戦していると聞いて、いてもたってもいられなくなって来日した」

「本当? 嬉しい」

 

 ツカサは満更でもなさそうである。

 

 

「改めてお礼を言わせてもらうわ。でも、一般人のあなたをこれ以上巻き込むわけにはいかないし、ショタレンジャーは私たちで倒すつもりよ。カイリ、行こう」

「おう」

 

 捕縛した卍帝国の構成員たちは、駆けつけた警察官によって既に連行されつつある。ここでやるべきことは終わった。そう判断して、二人は立ち去ろうとしたのだが。

 

「待って」

 

 厳しい顔つきで、ピーターが憧れのヒーローを呼び止める。

 

「今の君たちじゃ、ショタレンジャーには勝てない。修行を積んでから再戦を挑むべきだ」

 

 

 数日後。

 

「さて、次は誰を操り人形にしてやろうか」

 

 高層ビルの屋上から街を見下ろし、ショタレンジャー強化体は呟いた。

 百合・BLエックスは返り討ちにした。その後しつこく追ってきた百合ブルー、イエロー、BL2号、3号たちも、皆病院送りにしてやった。今の彼を止められる者は誰もいないはずだった。

 

「今度はどんな性癖を流行らせよう。……SMプレイなんかどうだ? 百合レンジャーやBLレンジャーへの対抗勢力として、Sレンジャー・Mレンジャーを結成させてみるのは」

 

 しかし、SはともかくMレンジャーはいかにも弱そうだ。ダメージを受けて喜んでいるのでは戦力にならない。攻撃されればされるほど能力がアップするような仕組みをスーツに入れてやろうか。

 

「他には『ツンデレンジャー』などはどうだろう。語呂が良くて流行りそうだ」

 

 などと策略を巡らせていたが、不意に気配を感じて振り返る。

 

「誰だ!」

 

 見れば、金と銀のジャケットを纏った男女と、全身をリボンに包んだ変質者のような男がこちらを睨んでいる。

 

「何だ、あのときの死に損ないか。そっちのリボン男は知らんが……まあ良い。せっかく拾った命をむざむざ捨てに来るとは、愚かな奴よ」

「俺たちが来たのは倒されるためじゃない。お前を倒すためだ!」

「暮らしの中に修行あり。私たちの特訓の成果、見せてやるわ!」

 

 

 強敵を前にしても、カイリとツカサは怯まなかった。リボンダーマンと共に励んだ修行を思い出せば、どんどん勇気が湧いてくるからだ。

 奇妙で厳しい修行だった。あるときは金属製の重りを入れた雑巾で掃除をして筋力をつけたり、またあるときは釣りを通して武器の扱い方を学んだり。日常生活と結びついた鍛錬の中で、二人は確実に力をつけていた。ショタレンジャーを倒すために必要な力を。

 

「リボンをつけて返すぜ。お前に受けた屈辱をな! ーー行くぞ、ツカサ!」

「ええ!」

 

 威勢よく言い、二人の戦士がエックスチューナーを構える。

 

「滾れ、百合とBLの力! ビースト・オン!」

 

 変身時の口上が「怪盗チェンジ」や「警察チェンジ」ではない。装着した強化服の形状こそ変わっていないが、彼らの肉体は間違いなく進化を遂げている。

 リボンダーマンもポーズを取り、カイリ、ツカサ、ピーターの順で名乗りを上げた。

 

「体にみなぎる無限の力。アンブレイカブル・ボディ! 百合エックス!」

「日々これ精進、心を磨く。オネスト・ハート! BLエックス!」

「技が彩る大輪の花。ファンタスティック・テクニック! リボンダーマン!」

「「「燃え立つ激気は、正義の証。獣拳戦隊! 百合・BLレンジャー!!!」」」 

 

 

 国籍を超えて並び立った三人の戦士を、ショタレンジャーは「フン」と鼻で笑った。

 

「ちょっとばかりセリフを変えて、かっこつけおって。それが遺言になるかもしれんというのに。仲良くあの世へ送ってやる!」

 

 高次元生命体が片手を突き出し、強い衝撃波を放つ。

 

「吼新星・乱れおねショタ!」

 

 たちまち、三人の立っていた位置は大爆発に包まれた。

 

「口ほどにもない……」

 

 嘲笑を浮かべて立ち去ろうとしたショタレンジャーだったが、ぎくりとして爆発の煙の中へ目を凝らす。

 

「馬鹿な。無傷だと⁉︎」

 

 軽い防御姿勢を取っただけで、戦士たちはほとんどダメージを受けずに立っていた。さらによく見ると、バズーカ型の新武器を構えているではないか。

 

「どうだ。これが俺たちの修行の成果だ!」

「推し推し砲、チャージ完了よ!」

「喰らえ! 豚の角煮〜!」

 

 発射されたエネルギー弾が、ショタレンジャーの胴を貫く。全身の鎧からスパークを飛び散らせながら、高次元生命体は苦悶の叫びを上げた。

 

「おのれ、百合・BLレンジャー……だが、高次元からの侵略者は俺だけではない。俺の同胞たちが、いずれ必ずお前たちを倒す!」

 

 膝を突き、ぐったりと倒れ込む。

 

「というか、豚の角煮とは何だ。必殺技を打つときに緊張感のないセリフを言うな!」

「僕が日本に来たら食べたいと思っていた食べ物だよ」

 

 サラッとリボンダーマンが答えたのとほぼ同時にショタレンジャーの鎧が爆発し、粉々に砕け散った。

 

「やったぜ!」

 

 変身を解き、三人のヒーローは笑顔でハイタッチした。

 

 

 かくして、卍帝国やコウを操っていた黒幕・高次元生命体は倒された。

 しかし、ショタレンジャーの言葉が本当なら、異次元からの刺客は他にもいるらしい。彼らの戦いはもう少し続きそうだ。

 頑張れ、百合レンジャー! 戦え、BLレンジャー!

 百合とBLを愛する、すべての人たちのために!

 




今回、ご迷惑をおかけした作品
・スパイダーマン
・ゲキレンジャー
・ジェットマン
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