「答えろ。どうしてユウスケを狙ったんだ!」
リボンでブラゴクウの動きを封じ、ピーターが問う。二人は今、道場の外の森の中でバトルを繰り広げていた。
「八つ当たりです!」
負けじと言い返すブラゴクウ。
「超次元生命体のブラコンレンジャー、次元ライダーBLACON、BLACON・RXは、僕自身の体細胞をベースにして生み出した戦士でした。アメリカのヒーローたちを倒すべく送り込んだ僕の弟分たちを、突然現れたロリーニンジャーとかいう奴に倒され、僕は、ものすごく悔しかったんです! ……でも、いざアメリカに来てみれば、ロリーニンジャーは愛用していた武器を探して世界中を旅しているという。で、仕方がないから、他のヒーローたちを倒すことにしました!」
「ああ……うん。なるほど」
攻撃してきた理由が思ったよりしょうもなかったので、それについてピーターはほぼノーコメントだった。
「ブラコン系の戦士を送り込んでいたのは、君だったのか。迷惑な奴だな」
「彼らは役に立ちませんでしたが、僕の強さは本物です。今日こそ、アメリカのヒーローどもを駆逐してやります!」
力を振り絞ったブラゴクウが、リボンを引きちぎる。素早く矛を振るっての連続攻撃で、たちまちリボンダーマンを追い詰めた。薙ぎ、払い、突きをテンポよく繰り出され、武器を持たないピーターは劣勢に立たされている。
『ブラコン奥義!』
ブラゴクウが矛の持ち手についているトリガーを引くと、必殺技音声とともに、どこからか中国風の軽快な音楽が流れ始めた。
『溺愛之舞! ア~お兄様ァァァァァッ!』
超ブラゴクウの最強の技、「ライトニング・ブラコンフラッシュ」。胸部装甲から放った赤い龍のオーラが、リボンダーマンに連続で噛みつき攻撃を喰らわせる。とどめにブラゴクウが、矛の刀身にエネルギーを纏わせて一撃を見舞った。
「うわああっ!」
爆発に包まれ、変身解除されるリボンダーマン。倒れた彼の姿を見下ろし、超ブラゴクウは勝ち誇った。
「どうです? やっぱり、僕こそ最強ですね!」
もう一度矛を振り上げ、ピーターの喉元に狙いを定める。
「相手が高校生だからと言って、僕は容赦しませんよ。これで、一名様お終いです!」
「――させるかよ!」
「インストール!」の叫びと共に、裕介がオメガ珈琲シルバーに変身。先刻、獲得したばかりの新武器で、ブラゴクウの振り下ろした矛を受け止めてみせた。
「悪いな、ピーター師匠。遅くなったが、どうにか修行をクリアできたぜ!」
「人間ごときが、僕の邪魔をしないで下さい!」
怒りを剥き出しにしたブラゴクウに、一瞬の隙ができた。それを見逃さず、オメガ珈琲シルバーが脇腹へ蹴りを叩き込む。
怯み、後ずさる武神に、裕介は威勢よく名乗りを上げた。
「才を磨いて、己の個性を見つけ出す。アメイジング・オリジナリティー! オメガ珈琲シルバー!」
専用武器「珈琲サイブレード」――腕に装着するグローブ兼ナイフ型の武器を構え、修行を終えた戦士は吠える。
「よく見とけ、三武神。これが俺の新しい力だ。『BANG・解』、『喫茶斬月』!」
銀色に輝いていた刀身が、漆黒に染まった。
「武器が変わったところで、何だというんです。君程度では、僕に片膝つかせることすらできない。君の牙は、永遠に僕に届くことはありません!」
矛を手に、超ブラゴクウは再び突進してきた。
「珈琲サイブレード、『珈珈弾(コウコウダン)』!」
対してシルバーは、グローブの先端から、珈琲豆に似た色と形状を持ったエネルギー弾を連射した。矛で払い落そうとするブラゴクウだが、数が多すぎて対処しきれていない。
怯ませたところに、今度は珈琲シルバーの方から間合いを詰めていく。
「珈琲サイブレード、『琲琲刀(ヒイヒイトウ)』!」
近距離から強烈な斬撃技を放ち、中華デザインの武神を吹っ飛ばした。今や、形勢は完全に逆転していた。
「……調子に乗らないで下さい。『アバターチューン』!」
ブラゴクウの体が光に包まれ、虎の意匠を持った銀の戦士へと変化する。
「この姿の俺は、手加減できない。本気を出させてもらうぞ」
一人称が「僕」から「俺」へ変わり、フォームだけでなく人格まで変わってしまったようだった。気づけば、武器も斧へ変化している。
「喰らえ。『雷刃・闇駆ブラコン』!」
超ブラボルトへとチェンジした武神は、いきなり必殺技を発動した。胸部装甲から出現した白虎のオーラと自身を同化させ、さらに稲妻を纏って連続攻撃を繰り出す技である。
「『ブレイザー・珈琲インパクト』!」
しかし、裕介の方が一枚上手だった。もう一つの武器、珈琲ブレイザーを取り出し、珈琲色のエネルギー弾を連射。白虎のオーラと化したブラボルトに対抗し、引っかきや噛みつきといった攻撃をすべて相殺した。さらにカウンターだとばかり、すれ違いざまにソードモードで袈裟懸け斬りを放つ。
斬撃を繰り出した後、シルバーは振り向き、呟いた。
「――ついたな。片膝」
「お、おのれっ」
オーラから元の姿へ戻った超ブラボルトは、呻き声を上げて膝をついていた。
「……まさか、この俺が敗れるとは。弟分のブラコンレンジャーもBLACONも、俺自身さえも、なぜ下等生物である人間に勝てないのだ。何もかも気に食わん。もし弟たちがまだ生きていたら、殺してやりたいくらいだ!」
生きていたら殺してやる、というのはやや矛盾した表現のように聞こえる。けれども、裕介が反応したのはそこではなかった。
「兄貴ってのが、どうして一番最初に生まれてくるか知ってるか? 後から生まれてくる、弟や妹を守るためだ」
倒すべき敵に二刀を突きつけ、シルバーはカッと目を見開いた。
「兄貴が弟に向かって『殺してやる』なんて、死んでも言うんじゃねえ。……ケリをつけようぜ、武神。お前が敗北するのは、その傲りのためじゃねえ。ただ純粋に格の差だ!」
珈琲サイブレードを上段に構え、一気に振り下ろす。刀身から巨大な斬撃が飛び、一瞬で超ブラボルトの全身を呑み込んだ。
「――『オメガ天衝』!」
「ぐあああああっ!」
大爆発の中で絶叫し、三武神の一角はついに敗れたのだった。
変身が解け、サングラスをかけた男性の姿へ戻ったブラボルト。
力なく倒れた彼の元へ、裕介は駆け寄った。とどめを刺すつもりはなかった。なぜなら、「オメガ天衝」のダメージを殺し切れず、男の肉体は端々から灰になって消滅しようとしていたからである。
「……俺を倒した程度で、いい気になるな。パワーアップを果たして勝利したつもりかもしれないが、お前もまた無意識のうちに、『原典』の力に頼っているはずだ。オリジナリティーもクソもない」
息も絶え絶えだが、ブラボルトは捨て台詞を吐いてみせた。
「俺は一時期、他人の真似ばかりして自分自身を見失いかけていた。だから、お前の言い分も分からなくはない」
一方の裕介も変身を解除し、サングラスの男を正面から見つめた。
「でも、今はこう思う。――世の中にはたくさんの創作物が溢れてるが、そのどれとも違う、百パーセントのオリジナリティーを持つ作品なんてあるのか? ないだろ? ストーリー構成、キャラクターの特徴。どう頑張ったって、意図せずして他の作品と部分的に似てしまうことはある。大事なのは、自力で頑張って考えたアイデアなのか、他人のアイデアをパクっただけで自分では特に努力しなかったのか、どっちなのかってことだ」
「自力で頑張って考えたアイデア、か」
「お前の言うように、俺の新しい力も何かの『原典』に似ているのかもしれない。だが、それでも構わねえ。この力は紛れもなく、俺と、俺の仲間たちとの修行の成果で得たものだからだ」
「……見事だ」
震える手でサングラスを外し、男はにやりと笑った。綺麗な目をしていた。
足が灰化し、手が続き、胴体も既に半分以上が灰となっている。
「お前の牙、確かに俺に届いていたぞ。残る三武神はあと一人。せいぜい、足掻いてみせろ」
言い終わると同時に、ブラボルトの頭部も残らず灰になった。これで完全に、三武神の一角は消滅したのだろう。
消滅を見届けると、裕介はピーターを助け起こしに向かった。
(……『原典無し』。お前の無念、これで少しは晴らせたかな)
心なしか、その足取りは軽かった。
「大丈夫か、師匠⁉」
「浅く斬られただけだから、心配ないよ。このリボンは見かけよりも頑丈なんだ」
「なら良かった。ところで、一つ聞かせてくれよ」
「ん? 何かな」
弟子の肩を借りて立ち上がり、師匠は無邪気に首をかしげた。
「結局、修行の三日間のタイムリミットって何だったんだ?」
「いや、特に深い意味はないよ?」
『お前たちの始末に成功すれば。大魔王様は俺を次元四天王へ昇格して下さる。だが、万が一失敗した場合――タイムリミットの三十時間以内に貴様らを倒せなかった場合、俺は大魔王様自らの手で処刑されることとなる』
『俺は自らの命を賭して戦っている。貴様らのような生温い奴らとは、覚悟が違うのだ!』
「ブラコンレンジャーがこう言っていたのを思い出してね。期限を設けて取り組んだ方が、何事も結果を出しやすいだろうと考えたのさ」
「えっ、そんな単純なことだったの……?」
「まあ、良いじゃないか。おかげで君も『BANG・解』の力を得られたわけだし」
「お、おう」
運命を砕く力はきっと、振り下ろされる刃に似ている。
珈琲サイブレード、珈珈弾、琲琲弾。「BANG・解」、「喫茶斬月」、「オメガ天衝」。新たな武装と技を得て、オメガ珈琲シルバーは本物のオリジナリティーを手にしかけている。原典に似てこそいるが、裕介が自分自身の力で得た強さだ。
残る三武神は一人。自分らしい強さで戦え、オメガ珈琲シルバー!
※次回の更新は一週間後になります。