トニー・スタートは、彼が社長を務める会社の応接室で、来客と会っていた。
「久しぶりだね、ピーター君」
リボンダーマンこと、青年ピーター・バーガーと向かい合って座り、トニーが微笑む。
「いつだったか、君には少しばかり稽古をつけたことがあったな。私が師であり、君が弟子。リボンダーマンの新しいスーツを考案し、与えたこともあった。懐かしいよ」
「僕がまだ、日本へ渡って百合・BLレンジャーの皆さんと会う前のことですね。その節はありがとうございました」
軽く頭を下げるピーター。今でこそ彼は稽古をつける側だが、かつて力に目覚めたばかりのときは、先輩のヒーローの指導を受けていた。ヒーローとしての心構えや戦い方は、トニー・スタートに教えてもらった。
ちなみにこの男、トニー・スタートは元スーパーヒーローの「アイロンマン」である。
自身が社長を務める企業で生産していた高出力アイロンが、実は軍事目的で悪用されていた。超高熱を発して蒸気を噴射するアイロンは、武器としても有効だったのだ。その事実を知ったトニーは「出力が高ければいいというものでもなかった」と深く反省し、償いと真の世界平和のためにパワードスーツを装着、アイロンマンとして立ち上がったのである。
赤と金のメタリックなボディー。手首から先はアイロンになっていて、触れた相手を超高熱で焼く。さらに、背中の小型アイロンから噴射する蒸気で空を飛ぶことも可能だ。
高次元生命体、並びに超次元生命体との戦いが始まる少し前くらいまで、トニーはアメリカの平和を守るため戦っていた。今は現役を引退し、後輩のリボンダーマンやハットマンに戦いを任せている。
「それで、トニーさん。頼んでいた物のことですが」
「ああ、あれのことか。大丈夫、既に完成している。昨夜、私が美女たちとパーティーに繰り出す一時間前には出来上がっていたはずだよ」
「相変わらず、私生活は奔放なんですね……」
現役でヒーローをやっていた頃から、いや、さらに遡れば社長に就任した頃からトニー・スタートはなかなかの自由人で、夜な夜な派手な遊びに出かけていた。ピーターも何度か誘われたが、遠慮している。
「付いてきなさい」
トニーの案内で、二人はオフィスビルの地下にある研究室へ向かった。ここには今までにトニーが設計・装着してきたアイロンマンのスーツが展示されており、また新しい装備の開発なども行われている。
なお、チョーカーがロリーニンジャーに与えた不思議なメダル。あれも、トニーが開発したものの一つだった。彼の秘書が間違えてネットオークションに出品してしまったメダルを、たまたまチョーカーが落札したのである。それが回り回ってキンジ・オネガワをパワーアップさせたのだから、結果オーライというべきか。
「ようやく会えるんですね。僕の新しい力、『リボンズドライバー』に!」
ピーターは目に見えてわくわくしている。
ツカサとカイリを特訓して「推し推し砲」を習得させた。裕介に稽古をつけて「BANG・解」を会得させた。最近ではすっかり師匠ポジションが安定してきたリボンダーマンだが、本人には少々気がかりなことがあった。「弟子ばかり強くなって、師匠がパワーアップしないのはまずい。師としての威厳も何もないじゃないか。僕も強くなりたい!」というのである。
そこで、かつての師にコンタクトを取り、強化アイテムを作ってくれないか頼んでいた。
「我ながら会心の出来だぞ、ピーター」
誇らしげにトニーが言った。
「以前、私が開発したメダル型のアイテム――手違いでチョーカーの元へ渡ってしまったが――は、ヒーロー同士での力の貸し借りを可能にし、多様な戦局に対応できるようにするためのものだった。しかし、今やアメリカのヒーローたちは各地に散っている。ハットマンはチョーカーとの対決に忙しいし、ロリーニンジャーは愛用していた武器を探して旅に出てしまった。だから、仲間との連携を前提にするのではなく、自分一人でも十分に力を発揮できるアイテムを作ることにしたのさ」
見なさい、とトニーが研究室奥の大金庫を指差す。あの中にリボンズドライバーが眠っているらしい。
「リボンズドライバーは、君自身の力を最大限に増幅するベルトだ。ただ、まだ試作段階でね。体への負荷が大きい可能性は否定できないから、長時間の使用はおすすめしない」
「何だか危なさそうじゃないですか⁉ 全然、会心の出来じゃないですよ!」
「短期決戦に用いる分には問題ないだろう。もし長時間これを使いたければ、死ぬほど体を鍛えるか、あるいは……根本から肉体の構造を変えるしかないな。それこそ超次元生命体のように、人間を超えた強靭な生物になるしかない」
トニーは大金庫へ近づき、ダイヤルを回した。カチリと小さな音がして、扉が開く。
「ともかく、これで君はさらに強くなれるぞ、さあ、ご覧!」
「はい! ……って、え?」
金庫の中をまじまじと覗き込み、ピーターは顔をしかめた。
「何も入ってないじゃないですか、トニーさん」
「そ、そんなはずは」
「あれですか? 『裸の王様』的なノリで、僕をからかっているんですか?」
「いや、違う」
トニーは大きく咳払いをした。
「正直に言おう。どうやら、リボンズドライバーは盗まれてしまったようだ。……ふむ。そういえば昨日のパーティーのとき、すごいボインのお姉さんにやたら絡まれたな。もしや、あのときに金庫の鍵を盗まれたのかもしれない」
「何やってるんですか⁉ 誰かにドライバーを悪用されたら、大変なことになりますよ」
「仕方ないだろう。男はな、ボインには勝てないんだ」
「なんかカッコいい台詞言ってる風ですけど、雰囲気で誤魔化さないで下さいね?」
「まあ、そう慌てるな。さっきも言ったように、普通の人間じゃリボンズドライバーを長時間使うのは不可能だ。超次元生命体なら別だが」
「いやいや、超次元生命体だったらめちゃくちゃヤバいじゃないですか⁉」
二人は、早川裕介と「原典無し」との間で起きた事件を知らない。知らないから、超次元生命体の中にも支配層へ抵抗している者たちがいると分からない。彼らにとって、超次元生命体イコール悪なのだ。
「原典無し」のように善良な生命体の手に、ドライバーが渡る。ピーターとトニーはその可能性についに思い至ることなく、ただひたすら慌てていた。