「アマエマックスに追われる中で、私と原典無しは離れ離れになってしまった。やっと再会できたときには、あの人は無残な姿に変わっていた。私は、三武神を許さない!」
普通の人間が変身すれば体に負担のかかるリボンズドライバーだが、超次元生命体である松本・オリジン・お菊はその限りではない。リボンズの全能力を遺憾なく発揮できる。
「雑魚が一匹増えたところで、結果は同じよ」
ネトルは余裕を崩さない。
「我々に反逆する者には、死あるのみ!」
「独裁者にも程があるだろ」
はあ、と裕介はため息をついた。そして、隣に立つ仲間を見やった。
「力を合わせよう。一気に……いや、一緒に行くぜ!」
「さっきは油断したが、本気で行かせてもらう。『BANG・解』、『喫茶斬月』!」
召喚した珈琲サイブレードの刀身が、黒く染まる。剣を大上段に振り上げ、シルバーはネトルへと斬りかかった。それをNTRブレードで受けとめ、嘲笑するネトル。
「忘れたの? 来部美明日の肉体は、まだ私の支配下にある。人質を取られていると知りながら攻撃するなんて、愚の骨頂だわ」
「ンなことは分かってる。だけど、あいつを救うためには俺の全力をぶつけなきゃダメだ。さっきお前と戦って、それが分かった」
裕介の作戦はシンプルだった。ネトルをぶった斬って、弱らせて、その隙に力技で美明日をネトルから分離させる。
「仮にあなたが美明日を救出できたとして、彼女、あなたに自分の肉体を攻撃されたのだと知ったらどう思うかしら。少なくとも、以前のように仲良くお喋りするのは難しいんじゃない?」
「舐めるなよ。あいつは、お前が思ってるほど弱い女じゃない!」
シルバーが珈琲サイブレードを勢いよく振り抜き、ネトルを後退させた。
「美明日はきっと、今も自分の心の中で戦ってる。心と体を支配しようとするお前に、抗い続けてる。俺とあいつの絆は、これしきで壊れるほど脆くねえんだよ!」
裕介が「珈珈弾」を発動し、サイブレードから珈琲豆状のエネルギー弾が連射された。かわし切れず、ネトルの全身が爆発に包まれる。
「――『BANG・解』。『大紅蓮NTR丸』!」
しかし、爆炎を内側から凍てつかせ、薙ぐようにして、冷気が溢れ出た。現れたネトルは傷一つ負っておらず、背中からは氷でできた竜の翼が生えていた。
「お前も『BANG・解』を……⁉」
「あら。同じ原典の力を使えるのが一人だけだと、誰が決めたのかしら?」
事実、超モモタロウと超ブラゴクウも、同一の原典によるイメージ付与を受けている。彼らの共通点は、「アバターチューン」によって自由なフォームチェンジが可能なことだ。
「風の噂で、オメガ珈琲シルバーが『BANG・解』を会得したと聞いたの。で、念のために私もそのイメージを付与していただいた。これであなたと互角以上に戦えるわ」
剣を天へ掲げ、ネトルは凛とした声で言った。
「終わりよ。『NTR氷牢』」
虚空に幾本もの氷柱が出現し、それらが集まってオメガ珈琲シルバーとリボンズを押しつぶさんとする。たちまち氷の中に閉じ込められた二人を見て、ネトルはほくそ笑んだ。
「ずいぶん呆気ないわね。まるで瞬殺じゃない」
「……誰が呆気ないって?」
バリィィン、と内から氷の牢獄が弾け飛ぶ。
四方八方に氷の結晶が飛び散り、ネトルは思わず顔を覆った。視界が晴れた頃には、氷牢に閉じ込められる前と変わらぬ姿の、二人の戦士がそこにいた。
「あ、あり得ない。一体、どうやって私の技を⁉」
「氷に包まれる寸前に必殺技を発動して、ぶっ壊しただけだ」
珈琲サイブレードの切っ先を動揺しているネトルへと向け、裕介は吠えた。
「必死に修行して『BANG・解』を会得した俺に、原典をパクっただけのお前が勝てるわけがねえ。――氷の破片が飛び散るのが邪魔で、さっきはよく見えなかっただろ。もう一度見せてやるぜ、俺の技をな!」
「オメガ天衝!」と叫び、シルバーが漆黒のサイブレードを振り下ろす。
「私のことも忘れないでくれる?」
同時に、お菊もスタンプ型のアイテムをリボンズドライバーに押印した。先刻「リボンダー」と音声を発したのとは、また別のスタンプのようであった。
『トカゲ! リボンミックス!』
リボンズの臀部に、トカゲの尾の形をした武装が合体する。リボンダーマンの力を引き出すほかにも、このドライバーは様々な動物の能力を引き出すことができるのだ――なお、その動物たちがとある「原典」の敵キャラに由来することを、お菊は知らない。
地面を一蹴りしてネトルに接近したリボンズは、ドライバー側面のボタンを軽く押した後、トカゲの尾を思い切り振り抜いた。
『リボンズ・レクイエム!』
あまりの速度に、ネトルは防御できなかった。渾身の打撃を受け、体は衝撃で宙を舞う。そこに、シルバーの放った巨大な斬撃が命中する。
「くっ……」
「まだまだ行くわよ!」
地上に落下したネトルへ、お菊は追撃を仕掛けた。トカゲの尾を装着解除するやいなや、次なるスタンプを押印してパワーを引き出す。
『オクトパス! リボンミックス!』
背中から伸びた四本の機械のアームが、ネトルの四肢を掴む。手足を地面に縫い付けたかのように、凄まじい力で固定して逃がさない。
『電気ウナギ! リボンミックス!』
リボンズドライバーは、最大で同時に三種類の動物の力を発動できる。二種類目の電気ウナギのパワーで、アームから電流がほとばしった。
アームによる拘束に加え、電流による麻痺。ネトルの身動きは、これで完全に封じられた。
「今よ、オメガ珈琲シルバー。あなたの大切な人を助けなさい!」
お菊が裕介へ振り向く。裕介は頷き、ネトルの元へ駆け寄った。
これだけ弱らせた状態なら、美明日とネトルの精神的な結合は緩くなっているのではないだろうか。その可能性に賭け、彼は懸命に呼びかけた。
「目を覚ませ。戻ってこい、美明日!」
刹那、ネトルの変身が解けた。来部美明日の肉体の輪郭がぼやけ、体がネトルと美明日の二つに分離しようとしている。一つはネトル変身体と同じ闇の色に、もう一つは眩しい光に包まれた肉体だった。
「美明日!」
裕介は迷わず、光を選んだ。彼が手を伸ばしたのと同じタイミングで、光の中の彼女が目を覚ます。
「……早川くん?」
泣き笑いのような表情で、美明日は裕介の胸に飛び込んできた。間違いなく、裕介の知っている美明日だった。
「早川くんだよね?」
「悪い、驚かせちゃったよな。今の仕事、これがスーツ代わりみたいなもんでさ」
「仕事って……いわゆる、ヒーローってやつ?」
「まだ新人だけどな。俺なんかよりすごい先輩方はたくさんいる」
変身を解いてはいなかったが、彼女にはオメガ珈琲シルバーが裕介だと分かったようだった。おそらく、彼の声で判別したのではないだろう。
心で悟ったのだ。
「ごめんな」
裕介が彼女の背に手を回す。彼の腕の中で、美明日は小首をかしげた。
「どうして早川くんが謝るの」
「美明日が三武神に憑依されてるって、もっと早い段階で気づけていたらなって。それに、助けるためとはいえ、君のことを攻撃してしまった。苦しい思いをさせて、本当にごめん」
「何言ってるのよ。私のこと、助けてくれてありがとう」
二人の間に、それ以上の言葉は不要だった。裕介は美明日と固く抱き合った。