「お、おのれ……」
一方、闇のオーラを纏っていた方の美明日は、もはや美明日ではない。彼女の姿をコピーしただけの、超次元生命体だ。宿主を持たない分、パワーはやや落ちている。
裕介と美明日が感動の再会を果たしたのも束の間、武神はもう一度超次元ライダー・ネトルへと変身した。
「絶対に許さない。あんたたち全員、殺してやる!」
仮面の奥で目を血走らせ、ネトルは三人を睨みつけた。
「しぶとい奴だな、お前も」
ゆっくり立ち上がり、オメガ珈琲シルバーは美明日を背中に庇った。
「下がってろ。俺が片を付ける」
「……早川くん。気持ちは嬉しいけど、私にも戦わせて」
制止を振り切り、美明日は戦場に立った。いつの間にか、彼女の細い腰には、ネトルのものとほぼ同じドライバーが装着されている。ただし、ドライバーと一体化されているのは剣ではなく銃だった。
「馬鹿な。なぜ、私と同じドライバーを⁉」
「あなたと私は元々、二人で一人だった。あなたの力の一部が私に宿っていたのだとしても、おかしくはないわ」
どうやら、美明日の肉体から無理やり分離させられた影響で、ネトルの能力の一部は美明日の中に残ってしまったらしい。今や、美明日にも戦士としての力が与えられていた。
しかし、いくら彼女に戦力になるのだとしても、危険な戦いに巻き込みたくはない。ここは俺とお菊さんで何とかするから、と裕介は説得を試みた。
「私がネトルに心を支配されたのは、私自身の心の弱さのせいでもある。だから、私には戦う理由があるわ」
だが、来部美明日の覚悟は揺るがない。
「幼い頃から、私は勉強や研究が大好きだった。新しいことを学ぶのが、純粋に楽しくて仕方なかったの。でも、勉強熱心でない人や成績が良くない人を見ると、ほんの僅かに優越感を覚える自分がいたのも本当よ。自分が好きで勉強してたはずなのに、変な話よね」
自嘲気味に、彼女は告白した。
「ネトル。あなたは私の体を使い、他の人たちのことを馬鹿呼ばわりしていたわね。でも、たぶんその人格も本当の私の一部だったの。私自身が憎み、恐れている、内なる自分。その弱さゆえに、あなたにつけ込まれてしまったのかもしれない」
「だったら、何だって言うのよ。人の心の中は、百パーセントの善じゃない。あなたなんかはまだ全然マシな方。黒い部分ばっかりの人間なんて、いくらでもいるわ」
「……私は、私自身の弱さと戦い続ける。そのために、今ここであなたを倒す!」
スタンプをベルトに押し、美明日は「変身!」と唱えた。
『HUMBLE(謙虚)! SINCERE(誠実)! ORIGINAL(本来)! 超次元ライダー・来部!』
専用武器の「来部ガン」を構え、蝙蝠の意匠を持つ白き戦士は啖呵を切った。
「――白黒つけましょう。ネトル」
「ふざけんじゃないわよ。人間ごときが、この私に!」
怒り狂ったネトルが、必殺技を発動する。「ネトル・ダークネスフィニッシュ!」の音声とともに、NTRブレードから青緑の斬撃が飛んだ。
横へ跳び、美明日はそれを華麗に回避してみせた。斬撃による爆発をバックに、超次元ライダー・来部も技を放つ。
『来部・ジャスティスフィニッシュ!』
銃から放たれた輝く弾丸が、ネトルの胸部を直撃。怯んだところにお菊も接近し、手首から伸ばしたリボンで敵を絡めとった。動物の力を引き出すだけでなく、リボンズはリボンダーマン本来の力を使用することもできる――リボンダーマン用に開発された装備なのだから、当たり前といえば当たり前だが。
むしろ、ほぼ初見でリボンズドライバーの性能を理解し、使いこなしているお菊の方がどうかしている。超次元生命体だからこそなせる業だろうか。
「決めるよ、早川くん!」
「お、おう」
女性陣二人がめちゃくちゃ強かったので、裕介はやや押され気味に応じた。「もう俺の出番なくてもいけるんじゃないか?」とさえ思ったが、美明日の頼みは断れない。
「一気に行くぜ!」とオメガ珈琲シルバー。
「大事に……決めるわよ!」と超次元ライダー・来部。
「私の命を賭けて、あなたを潰す!」とリボンズ。
続いて、三人の必殺技が放たれた。
「珈琲サイブレード、『琲琲刀』!」
まず、シルバーが斬り込む。近距離から強烈な斬撃を叩き込み、ネトルを吹っ飛ばした。
『来部・ジャスティスフィニッシュ!』
『リボンズ・フィニッシュ!』
よろめきながら、なおも立ち上がろうとするネトルに、ダブルライダーキックが炸裂する。
蝙蝠の形状をした白い破壊エネルギー、リボン状の赤いエネルギー体をそれぞれ足に纏わせ、絡みつかせ、来部とデモンズが跳び蹴りを放った。蝙蝠の牙が、ネトルの装甲を抉る。蜘蛛の脚のように伸びたリボンが一点に収束し、装甲を穿たんとする。
「……こ、こんなところで死んだら、私の大好きなカレーが食べられないじゃないの~⁉」
二人の必殺技を喰らったネトルは、なぜか最後に食べ物への執着を口にして、大爆発の中に消えた。
変身を解いてすぐ、美明日は裕介の元に駆け寄った。
「それにしても、早川くんがオメガ珈琲シルバーだったなんて。びっくりしちゃったわ」
「美明日が超次元ライダーになったのもびっくりだけどな。ま、お互い様だ」
戦いが終わると、戦闘中は気にする余裕のなかったことが色々と気になってくるものだ。もっとも、二人の場合は心で通じ合っている部分が多かったので、その必要はあまりなかったのだが。
「早川くん」
きりっとした表情で、美明日は言った。
「今回、私がネトルにつけ込まれてしまったのは自分の弱さも原因だと思うの。だから、これからも私のことを見ていてくれないかしら。私が、私自身に自惚れないように」
「えっ? それって……」
「鈍いわね」
一転、美明日は頬を赤く染めた。
「私の側にいてほしいということよ」
大学院をやめてしまった裕介のことを、美明日は心配していた。久しぶりに会った彼は、駆け出しのヒーローとして立派に戦っていた。何より、ネトルに支配されていた自分を助けてくれた。
学生時代は「仲の良い友達」程度の距離感だったのが、ここにきて一気に縮まった。彼女にとって裕介は、自分の心を預けられる、かけがえのないパートナーになったのだ。
「喜んで」
内心ガッツポーズしたいのを堪えながら、裕介は「へへっ」と照れくさそうに笑った。