オメガ珈琲シルバー、超次元ライダー・来部、アメリカンファイター・リボンズの三人によって、最後の武神ネトルが撃破されてから二週間ほどが過ぎた。
名古屋のヒーローたちの快挙が記憶に新しい折、別次元からの新たな刺客の手が伸びる。その日の正午ちょうど、どんなテクノロジーを用いたのかは不明だが、ともかく世界中のテレビ電波がジャックされたのである。
『――はじめまして、人間界の諸君。私は超次元生命体の王。名は「無貌」だ』
画面に映った生命体は、のっぺらぼうだった。顔だけでなく体にもほとんど凹凸がなく、平坦な形状をしている。体毛さえ一本も生えていない。皮膚は真っ白で、声は男性のようにも女性のようにも聞こえた。
のっぺらぼうの背後には、荒れ果てた大地が映っている。ほぼ完全に砂漠化し、緑はどこにも見当たらない。おそらく、あれが環境汚染されてしまった超次元界の現状なのだろう。
『私は自ら前線に出るのを嫌う。ゆえに、これまでは高次元生命体を操ったり、部下や三武神を出撃させたりしていた。しかし、そのことごとくが貴様ら人間に倒されてしまったため、やむを得ず前線で戦う決意をした』
渋谷や新宿の街頭ビジョンも、無貌の電波ジャックの対象となっていた。道行く人々は足を止め、眉をひそめて異次元からの侵略者を見つめた。
「何だ、あいつ? 超次元生命体の王って言う割には、あんまり強そうに見えないな」
「わかるー。ラスボスのオーラが足りてないよね」
こんな会話がちらほら漏れ聞こえてくる程度には、無貌のビジュアルは不評だったようである。もっとも、無貌の真の力を知ってもなお人々が彼の見た目を笑えるのかは、また別の話だ。
『手始めに、人間界を騒がせているヒーローどもを始末してくれよう』
そう言って、無貌は笑い声のような音を立てた。しかし、口がないのに一体どこから声を出しているのか、不可解である。
『日米両国へ、私のとっておきの泥人形を贈呈した。楽しんでくれたまえ』
唐突に映像が途切れ、電波ジャックが終了する。お昼のニュースの時間が戻ってきて、テレビを見ていた人々の表情は少し和んだ。
「泥人形? 何だよ、それ」
「わけ分かんないよ」
「超次元流のジョークだったりして?」
事情を知らない一般市民からすれば、無貌の残した台詞は意味不明なものだった。
けれども、ヒーローたちからすればたまったものではない。
「ええーっ、泥人形⁉」
BL警察本部のロビーでテレビを見ていたツカサは、素っ頓狂な声を上げた。
「冗談じゃないわよ。超次元生命体って、やろうと思えば次元大魔王くらい強い人形も作れちゃうわけでしょ? そんなのが一気に二体も送り込まれてきたら、地球は終わりよ!」
「うるせーな。そうならないために、俺たちがいるんだろうが」
隣でテレビを眺めていたカイリが、ふああ、と欠伸をした。緊張感のない奴だ。
「ま、近頃は超次元生命体も名古屋にばかり出やがるし、この様子じゃ無貌とやらの刺客も名古屋に来るんじゃないか? オメガ珈琲シルバーに任せておけば、どうにかなるだろ」
「あんたは逆に気を緩めすぎよ⁉ あたしたちが関東の平和を守るっていう自覚が足りないのよ、自覚が!」
「自覚したら給料が上がるんならしてやるけど、サービス残業で自覚するのはごめんだぜ」
「あーもう、あんたって奴はどうしてこうなのよ……」
ツカサがこめかみを押さえたのは、単にカイリのヒーローとしての立ち居振る舞いにがっかりしたからではない。彼があまりにも、彼女の気持ちに鈍感すぎるからだ。
TSライジャーと戦って、カイリが異性にあまり興味関心がないことが判明してからしばらく経った。その間、ツカサはあの手この手でカイリに女性への興味を持たせようとしてみた。例えば、巻頭グラビア付きの少年漫画誌(えっちな漫画も連載している)をさりげなく差し入れしてみたり、恋愛映画を一緒に見に行ってみたり。だが、いずれの場合も特に進展はなかった。
だから今日もいつものように、ボケツッコミめいたやり取りを繰り返している。
(この距離感が、ずっと続いていくのかしら)
ツカサの表情が曇る。
(私は、この先ずっと片想いのままなの……?)
物思いに耽っていた彼女の思考を現実へ引き戻したのは、「ヨホホーイ!」という元気な叫び声だった。
「な、何なの⁉」
「俺にも分かんねえよ!」
二人は顔を見合わせ、建物の外へ飛び出した。声がした上方を見やると、巨大な飛行船のようなものがこちらへ接近している。
その飛行船からは一本のロープが垂れ下がり、ロープに掴まっている一人の戦士がいた。海賊をイメージした派手なデザインの、金色の鎧を装着している。おそらく、先ほどの叫び声の主は彼だろう。
「……誰かしら、あれ?」
「こんな変てこな登場の仕方をする奴といえば、超次元生命体に決まってるぜ!」
ロープを伝ってするすると降下しながら、海賊っぽい戦士は歌うように言った。
「ヨホホイ、ヨホホイ、ヨホホイホ~イ♪ 俺は海賊、お宝求めて海から海へ~♪ 俺は海賊、自由求めて世界から世界へ~♪」
かっこよく着地し、黄金の刺客は踊るような動きをしたのち、腕を組んでポーズを取った。
「俺の名は……TSのパワー! 『TSカイザー』だ! 無貌様の命を受けて、日本のヒーローどもを抹殺しに来たぜ! ヨホホ~イ!」
「またしても濃いキャラが来たわね⁉」
ぶつくさ言いつつも、ツカサたちは警察本部付近にいた市民を避難誘導することを忘れなかった。百合・BLレンジャーを潰すためには作戦本部的な場所を破壊するのが一番だと、TSカイザーは考えたに違いない。無関係な人たちを巻き込むわけにはいかないのだ。
「てっきり、名古屋に来るものだと思ってたぜ」
避難誘導を終えたカイリはツカサの横に並び立ち、呟いた。
「俺は、お前たちに倒されたTSライジャーの従弟だからな! 仇討ちも兼ねて、東京に来たぜ! ヨホホ~イ!」
銃に舵輪を合体させたような形状の武器、TSダリンガーを取り出し、TSカイザーは応じる。
「TSライジャーの能力で性別を逆転させられても、お前たちにはあまり効果がなかったようだからな。むしろ逆効果で、パワーアップさせてしまった。だから俺は、同じ『TS』の名を冠してはいても、相手の性別を変える能力は使わないぜ! ヨホホ~イ!」
「お前の能力はどうでもいいけどさ、いちいち語尾に『ヨホホ~イ』ってつけるのやめろよ。やかましいんだよ。締め切りに追われてる作家の字数稼ぎかっつーの」
カイリに指摘されると、TSカイザーは落ち込んだ様子で「分かりました……」と一言。急に素になったので、逆にカイリたちの方が慌ててしまった。
「なんか、ごめんな?」
「……と、とにかく、TS流の俺の能力を見せてやるぜ! 『TSチェンジ・ツーカイ』!」
超モモタロウが使用したものと似ているメダル型のアイテムを取り出し、TSダリンガーに装填。舵輪を回転させ、TSカイザーが叫んだ。
「超力にレボリューション☆ 熱血超力、『オーレ・T・フォーム』だ!」
鎧に古代エジプト風の青い装飾が加わり、何やらフォームチェンジをしたらしい。こっちも応戦しようと、ツカサとカイリはVSチューナーを構えた。
今回、ご迷惑をおかけした作品
・ゼンカイジャー