「今は大丈夫だけれど、いつかアメリカにも高次元生命体の魔の手が迫るかもしれない。彼らの攻撃に備えるため、僕は祖国に帰る」
空港の国際線出発口で、ピーター・バーガーはそう言って笑った。続いて、見送りに来ていたカイリとツカサと握手を交わす。
「憧れのヒーローに会えてよかったよ。これからも日本の平和を頼んだよ、百合んジャーズとBLんジャーズのお二人さん」
「ええ、もちろんよ……って、変な呼び方しないでもらえる⁉︎」
ツカサのツッコミは聞こえていないらしい。ガラガラと音を立ててスーツケースを引きながら、ピーターは足取りも軽く爽やかに旅立って行った。
こうしてリボンダーマンは帰国したのだった。
一方、その頃。
この世界とは異なる次元で、怪しい影が蠢いていた。
「我が弟、高次元生命体ベノムが失敗するとは。思わぬ事態ですねえ」
闇の中で一対の目が光る。
「ですが、安心して下さい。君の意志は、兄である私が受け継ぎましょう」
輝く目の正体は、ショタレンジャーが使用していたものとほぼ同型の剣の柄。そこに彫られた虎の顔が、若い男の声で歌うように言う。
彼ら高次元生命体は、姿形を自由自在に変えることができる。だからこそ剣の姿でコウ少年を騙したり、人間の姿でウルザード稀咲の心を操ったりできたのだ。
「ベノムと交戦した際、百合・BLエックス以外の戦士たちは皆戦闘不能に陥っています。助っ人として現れたリボンダーマンも、既に帰国しました。つまり、今日本の平和を守れるのは百合エックスとBLエックスの二人のみ。このチャンスを逃す手はありませんねえ」
剣の側に、ブレス型の変身アイテムが現れた。それも、六つ同時に。
「平和が訪れるのには少々早すぎます。あちらの世界に、私がもう一波乱起こしてあげましょう」
光る目が僅かに細められ、ブレスが別次元へと転送される。高次元生命体の新たな計画が始まった瞬間であった。
このところ物騒な事件もなく、ツカサとカイリは街をのんびりとパトロールしていた。
もっとも、カイリは本来警察の人間ではなく怪盗だ。しかし、BL警察特殊部隊のうち二人ーーBL1号と2号がショタレンジャーにやられて入院してしまったため人手不足を補うために駆り出されている。ツカサが運転する覆面パトカーに乗って、都市部を見て回っていた。
「ここも異常なしだな」
「そうね。……あっ、待って!」
「何だ、事件か?」
急にツカサがブレーキを踏んだので、カイリはびっくりして尋ねた。
「ううん、そういうわけじゃないんだけど」
目をキラキラさせて、彼女は左方向を指さした。「衣料品や小物類のバーゲンセール開催中! 最大五十パーセントオフ!」と書かれた看板が立っている。
「この近くの百貨店で、在庫一掃セールやってるんだって。ねえ、ちょっとだけ寄ってみてもいい?」
「今仕事中だろ。寄り道してて大丈夫なのか?」
「馬鹿ね、これも仕事のうちよ。車内からざっと街を眺めるだけじゃ、分からないこともあるはず! 絶対あるんだから!」
「分かったよ」
若干むきになっているツカサをなだめ、カイリはとうとう折れた。パトカーを停めて百貨店内を巡回し、ついでにショッピングをすることになった。
売り場へ着くやいなや、ツカサはセール品が山と積まれたワゴンを電光石火の速さで漁り始めた。なるほど、確かに寄り道するのは「ちょっとだけ」のつもりで、警官としてのプロ意識はあるらしい。目当ての品も大体決まっていたようで、すぐにレジへ向かい会計を済ませた。
「お待たせ!」
息を切らして戻ってきた彼女の手には、高級そうな財布が一つあるだけだった。
「それ一個だけか?」
「一個で十分。この財布、本当なら二万円は下らないブランドものなのよ。それが何と、半額の一万円で買えたの! あたし、一万円も得しちゃっていいのかしら」
うふふ、とツカサは微笑んで、買ってきたばかりの財布を自慢げに見せびらかしてきた。対照的に、カイリはやや冷めた表情をしている。
「一万円も得したって言うけど、事実、今お前はその財布のために一万円使ったんだぞ。どれだけ割引になったかも大事だが、どれだけ出費があったかも同じくらい大事だ」
「はっ! い、言われてみれば……」
衝動買いの興奮から冷め、ツカサは手にした財布をまじまじと見つめた。
「何てことを。あたし、いつの間に、今月分の書籍代を使い切っちゃったのかしら?」
「逆に、普段どんだけ同人誌を買いまくってるんだよ……」
そんなボケツッコミをかましている最中、突然、バーゲンセールの会場に銃声が轟いた。
「ーー静粛になさい。着飾ることしか頭にない、下劣な雌猿ども!」
何事かと視線を巡らすと、会場の中央に三人の女が陣取っている。全身を黒い革の衣装で包み、やけに肌の露出度が高い。手には拳銃と鞭を持っている。
「今から私たちはこの百貨店を占拠し、最高にエキサイティングなゲームを行います。ですが、そのゲームに女は不要。モブキャラの貴様たちには退場していただきますわ!」
「女王の判決を言い渡す。ズバリ、死あるのみですわ〜!」
言うが早いか、謎の女たちは鞭を振り回した。どういうギミックなのか、鞭は何メートルも伸び、しかも鋼のような強度を誇っている。
「オーッホッホッホ! 私たちの攻撃、もう一ついかが? 逃げ惑う姿も可愛いわね!」
三人の女王が嫌味ったらしい高笑いをする。棚という棚を、ワゴンというワゴンが薙ぎ倒され、たちまち女性客たちは悲鳴を上げて逃げ出した。
「まさか、外出先で事件現場に出くわすなんてね」
「推理小説みたいなこともあるもんだな」
軽口を叩き合い、カイリとツカサは変身アイテム・エックスチューナーを取り出した。しかしその瞬間、女たちの鞭が彼らにも迫る。
「わわっ」
反射的にツカサは片手でガードした。その手には買ったばかりの財布が握られているのも忘れて。
「あっ、しまった……」
はたして鞭の直撃を喰らった財布は、見事に真っ二つに引き裂かれてしまった。一万円をドブに捨てたツカサが、手の中の財布の亡骸を見てわなわな震える。
「よくも。よくもあたしの一万円を! 警察チェンジ!」
金のアーマーを纏ってBLエックスへと変身し、女たちに銃撃を放った。ワンテンポ遅れてカイリも百合エックスに変身し、加勢する。
対して女たちは、鞭を高速で振り回して銃弾をはたき落とした。只者ではなさそうである。
「BL警察よ。あんたたち、一体何者?」
ツカサが問い詰めると、女たちはまた「オーッホッホッホ」と高笑いをした。
「問われて名乗るも烏滸がましいが、問われなくても聞かせてやるわ。私の名はレッド・クイーン!」
「ブルー・クイーン!」
「イエロー・クイーン! そして……」
彼女たち三人の影からそれぞれ一体ずつ、真っ黒な人形が現れた。目を凝らして見ると、どうやら全身に黒タイツを纏っているらしい。なかなか変態的な格好である。
手首にブレス型の変身アイテムを付けていなければ、本当に変質者かと思っていたかもしれないーーもっとも、付けていても不審者に見えるが。
「彼ら三人はMレッド、Mブルー、Mイエロー。六人合わせて、女王戦隊スリークイーンズS & 下僕戦隊タイツマンよ!」
ドヤ顔でこちらを睨まれて、二人は反応に困った。どこからツッコむべきか、咄嗟に判断できなかったからだ。
「いや、全員黒一色だろ。どこがレッド、ブルー、イエローなんだよ」
「失礼ね。これはカラコンの色よ」
カイリの指摘にレッドクイーンが答えた。
「お、おう。めちゃくちゃ分かりづらいな……」
「色のことはどうでもいいわ。それより、今すぐに破壊活動をやめなさい。どうしてこんなことをするわけ?」
財布を失った悲しみは深く、ツカサは詰問した。
「あら、破壊活動ですって?」
「失礼ね。純愛よ」
ブルークイーンとイエロークイーンが笑った。鞭を伸ばし、逃げ遅れた男性客を一人捕まえて引き寄せる。この売り場に来ていたのは女性が主だったが、カップルや夫婦で来店していた者も中にはいたようだ。
ブルーが鞭をほどき、再び振り下ろす。今度は縛るためではなく、叩くために。あまりの痛さに、男性は悲鳴を上げた。
「や、やめてくれえっ」
しかし、女王たちの攻撃の手は激しくなる一方だ。
「オーッホッホッホ! 大丈夫、すぐに慣れるわ。痛みを超えた先に、愛があるのよ!」
「それのどこが愛なのよ。彼、痛がってるじゃない。苦しんでるじゃない!」
女たちに銃口を向けたまま、ツカサが叫ぶ。男性を人質に取られているせいで下手に発砲できず、もどかしい。
「ここを占拠してゲームをするとか言ってたな。目的は何だ!」
重ねて、カイリも問うた。
今回、ご迷惑をおかけした作品
・ジャッカー電撃隊
・呪術廻戦
・仮面ライダーキバ