「どうなっているんだ? 大丈夫なのか、キンジ?」
目の悪いバーガー屋の親父が、心配そうに声を掛けてくる。
「任せて下さいやし。このゲーム、あっしは絶対に負けやせん!」
キースはキンジのことを一度も「ロリーニンジャー」と呼んでいない。今のところ、親父に正体がバレてはいないはずだ。
バレる前に決着をつけてしまおう。キンジは密かに決意した。
「何をごちゃごちゃ話し合っている。決闘を始めるぞ!」
苛立ったようにキースが言った。彼は既にデッキをシャッフルし、自分の手札五枚を引き終えている。
「急かさないで下さいやし」
彼を真似て、キンジも決闘の準備を整えた。いざ、勝負である。
コイントスの結果、先行はキース。さっそくモンスターを召喚してきた。
「俺のターン! まず繰り出すのはこいつだ。『吼神星ショタレンジャー』!」
場にモンスターカードを置くと、その上に白虎の戦士の立体映像が浮かび上がった。どういう仕組みかはよく分からないが、すごい技術だ。まるで本物のようで、迫力満点である。
ゲームのルール上、一ターンにモンスターの召喚は通常一回のみ。ただし、カードの効果による特殊召喚はその限りではなく、何回でも可能だ。このターン、キースは特殊召喚は行わず、通常召喚を一回行っただけだった。
「ショタレンジャー……確か、日本に最初に現れた次元四天王だとか」
「クックッ。正解だ、ロリーニンジャー。俺のデッキは、今までに散っていった戦士たちの怨念のパワーを注入して強化されている。元々のデッキの倍以上の強さだぜ!」
「やっぱりイカサマでございやしたか⁉」
さっきの手の込んだプレゼンは何だったのだ。元々の構築済みデッキの強さは互角でも、キース側がデッキを強化していたのなら、対戦条件は平等でも何でもない。
「俺はカードを二枚セットしてターン終了だ。お前のターンだぜ、キンジ!」
セットとは、マジックやトラップカードをこのターンは使わず、任意のタイミングで発動できるように場に裏向きで伏せることを指す。キンジが何かしてもカウンターを決められるよう、罠を仕掛けたというわけだ。
「そっちが怨念の力を使うというのなら、あっしは絆の力で対抗しやしょう!」
負けじと、キンジがデッキからドローする。彼が共闘したヒーローたちの力がカードに込められ、絵柄や能力が変化した。
「あっしは『百合エックス』を召喚。さらにカードを三枚伏せ、百合エックスでヤンデレ坊ちゃんのショタレンジャーに攻撃しやす!」
百合エックスの攻撃力は一八〇〇。対して、ショタレンジャーは一五〇〇。本物そっくりの立体映像がぶつかり合い、百合エックスがショタレンジャーに光弾を撃ち込む。攻撃力の低い後者は破壊され、攻撃力の差分、すなわち三〇〇ポイントのダメージをキースは受けた。
互いのライフポイントは、ゲーム開始時点で八〇〇〇ずつ。キースは残り七七〇〇ポイントとなり、やられたショタレンジャーのカードは墓地に送られた。なお墓地とは、使い終わったカードが置かれるエリアである。
「フッ、かかったな!」
しかし、金髪の大男は余裕の表情だ。ライフポイントを削られるのは作戦のうちだったということか。
「この瞬間、ショタレンジャーの能力を発動。名前に『ショタ』とあるモンスターが倒されたとき、俺はデッキからカードを二枚引き、手札を二枚捨てることができる!」
カードの効果により、キースは手札の内容を入れ替えたようだ。どうやら、何か引き当てたい切り札があるらしい。
自分自身をカード化したものは他よりも強いと、本人は語っていた。目当てのカードは彼自身なのだろうか。
(……違いやすか)
キースには他の狙いがある。何の根拠もなかったが、キンジは直感的にそう思った。
百合エックスによる攻撃を終えて、キンジのターンは終了。続いてキースの番になった。
「俺は『ツンデレキラー』を召喚。ツンデレキラーの能力により、一〇〇〇ライフポイントを支払うことでデッキの上から五枚を確認し、その中から一枚を手札に加えることができるぜ!」
またしても、山札から何かを引き当てようとしている。ライフポイントを削ってまで必死で探す価値のあるカードとは、相当強そうである。
「さらに、マジックカードも一枚使わせてもらうぜ。『卍帝国よ永遠に』の効果で、デッキから『卍レッド』一体を特殊召喚だ!」
赤いパワードスーツを装着した、金髪の不良が立体映像で登場した。さすがに次元四天王のカードに比べると攻撃力は劣るが、こうモンスターを並べて壁にされると、なかなかダイレクトアタックできそうにない。
各プレイヤーは、相手の場にモンスターがいないときに限り、相手プレイヤーにモンスターで直接攻撃することができる。先ほどの百合エックスとショタレンジャーのバトルのような場合では攻撃力の差分だけしか相手にダメージを与えられないが、ダイレクトアタックした場合は、攻撃力分のダメージをそのまま与えて大ダメージを狙えるのだ。
「あっしのターンでございやすね。『BLエックス』を召喚。そして、マジックカード『推し推し砲』を発動。百合エックスとBLエックスが場に出て入れば、相手のモンスターをすべて破壊しやす!」
「ほう」
二人の戦士がバズーカ砲を構え、発射。一瞬でツンデレキラーと卍レッドが爆発してしまった。これで、キースの場にモンスターは一体もいない。
「今でございやす。百合エックスとBLエックスの二体で、ヤンデレ坊ちゃんにダイレクトアタック!」
「おっと、待ちな。俺はセットしておいたトラップカードを発動するぜ。トラップカード『エンダーの謀略』!」
だが、キースもそう簡単にやられはしなかった。トラップの効果で、デッキから『ゴークイーンズ』一体を特殊召喚してきたのだ。モンスターがいては、ダイレクトアタックは成立しない。
「仕方ありやせん。百合エックスの攻撃対象を、プレイヤーからゴークイーンズに変更。撃破させていただきやす!」
SMプレイの女王様のような格好をした三人組が、呆気なく吹き飛ばされた。これで再びキースのモンスターはゼロである。
「そして、BLエックスでダイレクトアタック!」
今度は、キースも伏せたカードを使わなかった。一八〇〇ポイントのダメージを受け、残り五九〇〇ポイント。現状、キンジが二〇〇〇ポイント以上リードしていることになる。
「そんなものでございやすか?」
何かあると感じつつも、キンジは問うた。
「フン。せいぜい、俺のライフを削って無邪気に喜んでいるがいいぜ」
一方、キースは不敵な笑みを浮かべている。
「俺の戦略においては、ライフポイントなんかどうだっていいんだからよ」