百合レンジャーvsBLレンジャー   作:クリスタルスカイ

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㉛イーシュ・バールの英雄

「愚かな。そんなことをすれば、貴様が今しがた守ろうとしたこの塔も――」

 

 巻き添えになるだろう、と口にしかけて、無貌は口をつぐんだ。いや、元より口は無いのだが、ともかく台詞を喋るのを中断した。

 低温レーザーでスカイツリー上部を凍結させたのは、塔の崩壊を防ぐためだけではない。BLレックスロボが激しい攻撃を行っても、氷が壁となって、中にいる人々に被害が及ばないようにするためでもあったのだ。

 無貌としばらく問答していたのは、単に個人的な復讐心からだけではない。仇と言葉を交わしながら、ナオヤは電波塔を覆う氷に脆そうな箇所がないか、それとなくチェックしていた。強度に問題なし、と判断してはじめて、猛攻に踏み切ったのである。すべては、周囲に被害を出さずに無貌を撃滅するため。

 

 

「なるほど。どうやら貴様は頭脳派らしい」

 

 迫りくるミサイルを見やり、無貌は言った。

 

「だが、頭脳だけで私を倒すことはできぬ。……『無貌通行』」

 

 のっぺらぼうの侵略者が、とある科学の原典を発動する。すると、全弾命中したかに見えたビームとミサイルが進行方向を変え、刹那、BLレックスロボ目がけて真っ直ぐに突っ込んできた。

 

「何を……⁉」

 

 予想外の反撃を受け、ナオヤは防御が間に合わなかった。恐竜型ロボの胸部に光線やミサイルが次々に叩き込まれ、その巨体が大きく揺れる。反動で投げ出されたBLファイヤーの体が、宙を舞った。

 

 

「私が今使用した原典は、『反射』の能力を司る。自身の肉体に触れた物質のベクトルを、私は自在にコントロールすることができる。このように、受けた攻撃をそっくりそのまま跳ね返すことも可能だ」

 

 ロボットの肩から落下したBLファイヤーは、地面に激突した。自分が繰り出した最大火力の攻撃をカウンターされただけでなく、落下の衝撃によるダメージも重なり、そのアーマーはとうに耐久値の限界を超えている。すぐに変身が解除された。

 

「がはっ」

 

 吐血し、ぜいぜいと喘ぐナオヤ。

 

「――諦めろ。貴様では私には勝てぬ」

 

 その傍らに降り立ち、無貌はさっと手を振った。彼がベクトル操作した風の動きによってかまいたちが発生し、BLレックスロボは全身を切り刻まれて転倒する。BLファイヤーの使える戦力のすべては、完璧に叩き潰されてしまった。

 

 

「人間よ。なぜ私がこれほどの強さを持つか、貴様に理解できるか?」

 

 破壊された恐竜型ロボを背景に、のっぺらぼうは尋ねる。

 

「……さあな」

 

 口元の血を拭い、苦しそうに応じるナオヤ。彼はいつ殺されてもおかしくなく、無貌の気まぐれで生かされているだけだった。

 

「超次元生命体は、与えられたイメージに応じて姿を変えられる。何にでもなれる。だが私は、何者にもならなかった。この姿は、かろうじて人型を保っているのみの虚無。何者にもならぬことで、すべてを手に入れたのだ。この体は常に、『何にでもなれる』という可能性に満たされている」

「話が抽象的すぎるな。もう少し具体的に説明してもらおうか」

「貴様たちが今までに戦った高次元生命体、及び超次元生命体は、ごく限られた種類の原典の力しか使うことができなかったはずだ。彼らは最初に与えられたイメージに縛られており、他のイメージを宿すことが叶わぬ」

 

「お前にはできるっていうのか」

「そうだ。私は、存在するすべての原典の力を引き出すことができる。私自身は常時何の原典も宿してはいないが、自らが空っぽな器として存在し続けることにより、任意の原典の力を任意のタイミングで発動することが可能となる」

「……無茶苦茶だ」

 

 

 血の混じった唾を、ナオヤは吐き捨てた。こういうのを「チート」と呼ぶのではないだろうか。

 

「さらに、私はすべての原典を知り尽くしている。ゆえに、敵がどの原典の力で対抗してこようとも、それに対して最も有効な原典によるカウンターを瞬時に行える。私が長きにわたって数多の世界を支配し、あらゆる戦いに勝利し続けてきたのはこういうわけだ。理解できたか?」

「おかげさまで」

 

 オメガ珈琲シルバーの報告によれば、人間界も原典の影響を受けており、この世界のヒーローたちも例外ではないという。おそらく、無貌は「BLファイヤーの原典」を知っていた。だからこそ、BLレックスロボによるミサイル攻撃にも動揺せず、一瞬で逆転勝ちしてみせたのだろう。

 

 

「さて、そろそろ殺してくれようか」

 

 無貌の右手が、ナオヤの喉元へ伸びる。力を込め、絞め殺そうとする。

 

「貴様たちはこれまで、戦いの中で無意識的に原典の力を借りてきた。だが、私はその力をすべて掌握している。原典を利用している限り、貴様らが私に勝つことは絶対にできぬ」

 

 

 東京スカイツリー付近で、無貌が目撃された。

 その知らせを聞くやいなや、松本・オリジン・お菊は名古屋から新幹線に飛び乗った。彼女の場合、これといって巨大メカを持っていないため、移動手段が公共交通機関しかないのである。

 席に着いて駅弁を食べながら、お菊はそわそわしていた。こんなときに駅弁食べてる場合か、というツッコミは置いておくとして、彼女が闘志に燃えているのは確かである。

 

(とうとう親玉のお出ましってわけね。見てなさい。既に仲間たちには連絡してある。東京で皆と合流して、無貌を討つ!)

 

 仲間とは、お菊が所属していたレジスタンス組織の同志のことだ。原典無しとともに抗戦していた組織のメンバーは、超次元界から人間界へ逃げてくる途中、各地に散り散りになっていた。そのメンバーたちとどうにか連絡がついたため、今一度力を合わせて無貌を倒し、原典無しの仇を取ろうということになっている。

 

 

 新幹線が東京駅に到着し、押上駅を目指して乗り換えようとしたところだった。ホーム上に、白いコートを羽織った男が立ち、こちらを凝視している。コートだけでなく、スーツの上下とズボンも真っ白だ。長い髪をポニーテールにまとめ、風に揺らしている。

 

「お久しぶりです」

「あなたは……!」

 

 人間態で人混みに紛れようとしているが、間違いない。彼の名は、超次元生命体「ウルフ・J・ギンブリー」。かつて、レジスタンス組織「イーシュ・バール」を単身で壊滅寸前まで追い詰め、人間界へと撤退を余儀なくさせた因縁の相手だった。当時は敵対勢力への切り込み隊長ポジションに収まっていたが、イーシュ・バールをほぼ壊滅させた功績を認められたのか、現在では無貌の補佐官へと大出世を果たしている。

 

「無貌様を補佐する者として、あなたを行かせるわけにはいきません」

 

 ギンブリーは腕を伸ばし、コキ、と肩を鳴らした。

 

「あのお方には、日米のヒーローどもを根絶やしにするという崇高な仕事がある。あなた方のようなレジスタンスは、無貌様の手を煩わせるまでもない。私がこの手で皆殺しにして差し上げましょう」

「あなたもしつこいわね。言っておくけど、この前のようにいくと思ったら大間違いよ」

 

 

 いつの間にか、お菊の細い腰にはリボンズドライバーが装着されていた。胸元からスタンプ型のアイテムを取り出し、上部を押すと「リボンダー!」と音声が流れる。それをベルトに押印することで、変身が完了する。

 今の彼女には、アメリカのヒーローから借り受けた変身能力がある。この力で無貌と、彼を補佐するギンブリーを屠るのだ。

 

『DEEP! DROP! DANGER! アメリカン・ファイター! リボンズ!』

 

 リボンが蜘蛛の糸のように絡み合ったデザインの、赤と黒の戦士。変身したお菊を見て、駅にいた通行人たちは驚きの声を上げた。

 

「……ここはギャラリーが多すぎるわ。場所を変えましょう」

「いい考えですね」

 

 ギンブリーとお菊は頷き合い、前者は跳躍して、後者は手首から伸ばしたリボンで振り子のように移動して、東京駅の外へ出た。

 改札を通るのを忘れた気がするが、仕方ない。すべてが終わったら、駅員さんに事情を説明しよう。お菊はそう思った。 

 




今回、ご迷惑をおかけした作品
・鋼の錬金術師
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