やがて二人の戦士は、皇居外苑まで移動した。皇居で戦うのも大いに問題ありだと思われるけれども、ともかくギャラリーの数は格段に少ない。たまにランニングをしている人々も見かけたが、何やらバトルしているようだと悟ってすぐに逃げていった。
数メートルの距離を挟んで向かい合い、全身白一色の男はリボンズをじろじろと見た。
「……あなたは原典のイメージ付与を拒んでいるが、そのくせ人から借りたリボンズドライバーで無貌様へ対抗しようとしている。毒を以て毒を制す、といえば聞こえはいいですけれど、あなたは自らが最も憎む存在と近しいことを知らず知らずのうちにしているのです。自己矛盾も甚だしい。私は、意志を貫き通す人が好きです」
アイロンマンがリボンダーマンのために制作したベルトを、お菊がこっそり拝借した。その辺りの事情は、ギンブリーも把握しているらしい。
「どのみち、無駄な足掻きですよ。偉大なる無貌様の前には、すべてが無力なのですから」
「分からないわ。どうしてあなたは、そこまで無貌のことを尊敬しているの?」
仮面の下で、お菊は怪訝そうな表情になった。
「あいつは血も涙もない独裁者よ。あなたのことだって、用済みとみなせば躊躇わず殺すわ」
「私からすれば、あなたがたの方が理解できない」
近くにあったベンチへゆっくり腰を下ろし、ギンブリーは語った。
「命あるものは皆、生きている限り、周囲の影響を受け続ける。たとえば人間の場合、自分の行動や信念、価値観が絶対的に正しいと信じることはできない。なぜなら自分の周りには、自分と違う生き方や考え方をする別個体が無数に存在するからです」
ニヤリ、とギンブリーは笑みを浮かべた。
「しかし、無貌様だけはそんな俗物と異なる。他者と隔絶した、超然たる自己を確立しておられる。だからこそ無貌様は誰よりも強く、聡明で、この世で最も神に近い存在なのです。……幼い頃から変わり者扱いされてきた私は、あるとき、自分の在り方は正しくないのではないかと疑った。無貌様はそんな私に目をかけ、正しい道を示して下さった。私のすべては、あのお方のためにある!」
「他人の影響を受けないのは、決してすごいことじゃないわ。そうやって視野を狭めて、自分の可能性を限定していったって、あとには何も残らないわよ」
お菊も言い返した。
「無貌が他人を拒絶し、自分を空虚で満たしたのは、原典の力を束ねて操るため。力を得るという単純明快な目的があったからこそ選んだ生き方だろうし、今さら他の生き方を選んで力を捨てることもできないのよ。無貌の人生には、力はあっても他のものは何もない。孤独で悲しい生き方よね」
「無貌様を馬鹿にするのか」
「別に。ちょっと憐れんだだけよ」
リボンズは肩をすくめた。
「正しい道を示して下さった? いいえ、正しくなんかないわ。無貌はただ、自分と同じ寂しくて厳しい宿命をあなたに与えただけ。しかも、無貌はその修羅の道によって原典の絶大な力を得られるのに対して、イメージを付与される側であるあなたは、無貌のおこぼれにあずかるだけ。……結局、あなたは都合よく利用されているのよ。無貌の期待に応えられなければ、きっと泥人形たちのように消されちゃうわ」
「あなたが無貌様の素晴らしさを感じようが感じまいが、そんなことはどうでもいい」
ギンブリーは吠え、弾かれたようにベンチから立ち上がった。
「私は、世界が変わる様を見てみたい。覚悟と覚悟、意思と意思、命と命、信念と信念のぶつかり合い。人間とレジスタンスの連合軍と、無貌様率いる超次元生命体、どちらが勝つのか見てみたい。――もっとも、この戦争で勝利するのはあのお方に決まっていますがね!」
両手を前に突き出すギンブリー。右腕に、虚空から現れたブレス型の変身アイテムが装着された。
「……響け、獣の叫び。ビースト・オン!」
掛け声とともにアイテムを操作し、ギンブリーは狼をモチーフとした紫色のアーマースーツを纏った。
「ご存知の通り、私の名はウルフ・J・ギンブリー。その名に冠する『ウルフ』、すなわち狼に関する原典の力を、私はすべて行使することができる。これこそが、無貌様より授かった大いなる力。あなたのような俗物では一生かかっても到達しえない領域に、私はいるのですよ」
おっと、変身したはいいが名乗りがまだでしたね、とでも言いたげに咳払いし、ギンブリーはポーズを取った。
「紫激気、無貌流、我が意を尽くす。アイアン・ウィル! 『J・バイオレット』!」
「あら。無貌の部下にしては珍しく、特に何の性癖の要素も含んでいなさそうな感じね」
「舐めないでいただきたい。あれはいわば、下級戦闘員に押される服従の印のようなもの。私ほどの忠誠心があれば、わざわざ恥ずかしい性癖のイメージを付与していただかなくても問題ないですよ」
「あなたの理屈でいくと、三武神さえも『下級戦闘員』にカテゴライズされちゃうけど。……ていうか、あれ恥ずかしいっていう自覚はあったのね⁉」
自分の恋人を殺した奴が下級戦闘員に過ぎなかった、と言われて、お菊は苛立った。同時に性癖イメージの付与についての感想を聞かされ、少々戸惑った。
「さあ、無駄話はこのくらいにして、仕事をしましょうか。召喚、『J・ハスラーロッド』。さらに、『レーザープール』を発動です!」
気を取り直して、ギンブリーことJ・バイオレットが攻撃を仕掛けた。いや、この武器と技のときは「閃烈の銀狼! J・シルバー!」と呼んだ方がいいのだろうか。色は紫だけども。
ビリヤードのキューを模した武器を振るい、緑色の光のボードを展開。その中にリボンズを閉じ込めて身動きを取れなくし、ハスラーロッドで三つの宝珠を突いて必殺技を繰り出した。
「J・バイオレット」に変身した状態で、バイオレット以外の原典のパワーをも引き出している。少しややこしいが、そういうことになる。
「――『破邪無貌球』!」
三色に輝く宝珠が弾け、リボンズに勢いよくぶつからんとする。レーザープールで動きを取りづらい中、お菊は手首だけを僅かに動かし、スタンプによる技で対抗しようと試みた。
『オクトパス! リボンミックス!』
背中から機械のアームが伸び、宝珠をガード。だが衝撃は殺し切れず、リボンズは爆発に包まれた。
「邪気、玉砕!」
ギンブリーが宣言した直後、爆風が吹き荒れた。バイオレットのマスクの下で、彼は恍惚とした表情を浮かべている。
「ああ、いい音だ。身体の底に響く、実にいい音だ。脊髄が哀しく踊り、鼓膜が歓喜に震える。そして、それを死と隣り合わせのこの戦場で感じることができる喜び。何と充実した仕事か……!」
「お生憎様。あなたの仕事、まだ完了してないみたいよ」
やがて視界が晴れると、リボンズが立っていた。ただし、無傷ではない。先ほどの攻撃で機械のアームはほとんど破壊され、アーマーもやや損傷している。