「ならば、あなたが死ぬまで続けましょう。『J・ウルフバイト』」
J・ハスラーロッドが消滅し、代わりに曲線的な刀身を持った剣がバイオレットの手に収まった。続けて「J・ハウリングスラッシュ!」と発声する。どういう仕掛けなのか不明だが、途端に空が暗くなり、満月が煌々と輝いた。
剣を口に咥えたバイオレットが空高くジャンプし、満月をバックに回転しながら急降下。強烈な斬撃を放った。
『トカゲ! リボンミックス!』
今度は、お菊がトカゲの尾を装備して対抗する。が、尾は狼の剣に切断され、盾としての役目を果たせなかった。まともに攻撃を喰らってしまい、リボンズはよろめいた。装甲からスパークが散る。
「しぶといですね。そろそろ、バイオレット本来の力を使ってみましょうか」
ギンブリーは剣を捨てた。今の彼は徒手空拳。といっても、ムエタイに似た戦闘スタイルで敵を追い込む、殺意に満ちたバトルスタイルだった。
以前、お菊らレジスタンスと交戦したときのギンブリーは、この格闘技しか使えなかったはずだ。無貌に認められたことによって、使える原典の幅が大きく広がったのだろう。
「私の最強の技を受けてみなさい。――激獣ウルフ拳、ゲキワザ! 『J・厳拳(ゴンケン)』!」
紫のオーラを纏った渾身のパンチを、リボンズに叩き込む。反撃の隙を与えず、とどめとばかりアッパーカットを放った。
「『J・昇拳(ショウケン)』!」
バイオレットの技がクリーンヒットしていれば、今ごろリボンズは遥か彼方まで吹っ飛ばされ、戦闘不能に陥っていたはずだ。あの日、レジスタンス組織が壊滅寸前まで追い詰められ、多くの仲間が亡くなったのと同じように。
『電気ウナギ! リボンミックス!』
だが、お菊は粘った。ウナギの能力でアーマーの表面をぬめぬめと滑らせ、バイオレットのパンチの軌道を僅かに逸らしたのだ。おかげで、命中こそすれ致命傷にはならなかった。
「小賢しい真似を」
ぬめったアーマーに触れたとき、ウナギのスタンプの効果で軽い電撃を受けてしまった。痺れた右手を左手で押さえ、ギンブリーが忌々しげに呟く。
「もう諦めたらどうです。その妙なスタンプの能力で粘り強く戦っているようですが、あなたは攻撃を防いだりダメージを軽減したりすることはできても、ダメージそのものをゼロにすることはできないらしい。その上、私の攻撃に押され、反撃もできないときている。ジリ貧なんですよ、あなたは」
「『J・蛮肘(バンチュウ)』!」と叫び、バイオレットはジャンプした。その勢いのまま、肘打ちを見舞う。
「今度こそ終わりです。狼の原典すべてを扱える私に、あなたごときが敵うと思うな!」
「……調子に乗らないで」
絶体絶命かと思われた矢先、お菊は不敵に笑った。彼女の手には、三種類のスタンプがある。
「確かにあなたは、色々な原典の力を使えるんだと思う。でも、決定的な弱点がある。最大でも一種類の原典の武器や必殺技しか、あなたは同時に使えないのよ」
ここまでどうにか凌いできて、ようやく分かった。一見するとギンブリーは多彩な技を使っているようだが、一度に召喚できる武器は一つまでのようだし、二種類以上の原典のパワーを同時使用することもできない。
お菊が弱点に気づいたのは、ギンブリーが「私の最強の技」と口を滑らせたことが原因だ。もしも原典の同時使用ができるなら、「レーザープール」で身動きを封じた段階で、最強の技である「J・厳拳(ゴンケン)」を使えば良かったはず。その戦法が最も効率的である。あのとき、最強の技よりも威力の劣る「破邪無貌球」をあえて使ったのは、あくまで「J・厳拳(ゴンケン)」の代用品としてだろう。そう、「閃烈の銀狼」と「アイアン・ウィル」の力は、同時には使えなかったのだ。
それに「そろそろ、バイオレット本来の力を使ってみましょうか」との台詞も引っかかった。言い換えれば、「これまではバイオレット本来の力は一切使っていませんでした」ということだからだ。
ただ、バイオレットの姿のままで他の技を出してくるから、分かりづらい。まるで初見殺しのような能力である。
『オクトパス! リボンミックス!』『トカゲ! リボンミックス!』『電気ウナギ! リボンミックス!』
三連続でスタンプをドライバーに押印し、リボンズは使える装備をすべて展開した。背からは四本の機械アーム、腰にはトカゲの尾が伸びる。そして、それら二つの装備は電撃を纏っており、また全身のアーマーはウナギの体表のようにぬめって打撃を受け流す。
「な、何だ、その禍々しい姿は⁉」
「リボンズドライバーは、最大三種類のスタンプの能力と技を同時に使えるように設計されているのよ。一種類しか使えない、誰かさんとは違ってね!」
動揺を隠せないバイオレットに、リボンズはベルト側面のボタンを押し、三種の肥薩技を同時に発動させた。
『リボンズ・レクイエム!』
蛸足のように伸びたアームが、ギンブリーの四肢を掴んで空中で拘束。電撃を流し込んで痺れさせ、抵抗できなくしたところに、トカゲの尾を一振りして大ダメージを与える連続技を放った。
「ば、馬鹿な。無貌様から狼にまつわる原典すべてを与えられたこの私が、圧倒されているだと……⁉」
さすがのバイオレットも、これには太刀打ちできない。一方的にやられてしまい、皇居外苑を無様に転がった。
「何かないのか。何か、あの連続攻撃に対抗できるような原典は。狼の群れを束ねる王の物語はどうだろう。いや、この状況で使うには不適か? だったら、敵をぶっ潰そうとする脳筋ゴリラっぽい狼の物語ならば?」
ああでもない、こうでもないと独り言ちるギンブリー。マスクの下の顔は青ざめていた。
「あなたにお似合いの言葉を教えてあげる。多芸は無芸、ってね」
一旦装備を解除し、リボンズは再びドライバー側面を押した。今から放つのはスタンプの技ではなく、リボンズが本来持つ、純粋にリボンダーマンの能力を拡張した必殺技である。
「こんなところで立ち止まってるわけにはいかないのよ。あんたをぶっ倒して、私は無貌を討たなきゃいけないんだから!」
「リボンズ・フィニッシュ!」と音声が響く。リボン状の赤い破壊エネルギーがリボンズの片足に絡みつき、跳び蹴りを発動。バイオレットの胴にキックが命中すると同時、エネルギーが蜘蛛の脚のように伸びて紫の装甲を穿った。
「……参りましたね。私としたことが、美しくない」
捨て台詞を吐き、J・バイオレットの体は爆発四散した。彼の最期を見届け、お菊が踵を返す。
強敵ギンブリーは撃破した。少々手間取ったが、これでようやく無貌と戦える。
だが、決戦に臨む前に、同志たちと連絡を取っておかねばなるまい。変身解除したお菊は、胸元から取り出したスマートフォンで仲間たちに指示を出した。
(いよいよね)
機は熟した。彼女の計画通りに事が運べば、今日、無貌はレジスタンスの手で倒される。
※作者が仕事の都合で出張に行くため、しばらく更新をお休みします。できれば1週間ほどで戻ってきたいですが、場合によってはもう少しかかるかもしれません。
申し訳ないですが、よろしくお願いします。