1 無とチェンソー
「――やめろーっ!」
ナオヤを絞殺しようとしていた無貌の肩を、幾筋ものビームが撃ち抜いた。
「むっ」
無貌は振り返った。弾丸で抉られたように見えた肩が瞬時に再生しているのは、再生能力を持った原典のパワーを行使したからだろうか。
「来たか。百合レンジャー、BLレンジャー」
新たな敵を確認したのっぺらぼうは、もはやBLファイヤーから興味を失ったらしい。彼から手を離し、突き飛ばした。
百合エックス、ブルー、イエロー、BLエックス、1号、2号の計六人が、仲間を助けるために馳せ参じたのである。
「ナオヤの奴、先行しやがって。お前だけにかっこつけさせてたまるかよ!」
「行くわよ、カイリ。あたしたちの全ての力をぶつけて、無貌を倒す!」
カイリとツカサが素早く指示を出し、六人は無貌を包囲。それぞれに武器を取り出し、必殺技を放った。
「推し推しカノン、チャージ完了!」
「スペリオル・受け攻めショット!」
「エクセレント・ネコタチエックス!」
バズーカやVSチューナーから、一斉に光の奔流が繰り出される。六人がいきなり大技をぶっ放してしまったので、ナオヤは「まずい」と青ざめた。
「皆、むやみに攻撃しては駄目だ。奴は全ての原典のパワーを使える。普通の攻撃は効かない!」
「えっ?」
ツカサがきょとんとした直後、無貌は「『無貌通行』」と静かに告げた。彼の皮膚に触れた瞬間、あらゆる攻撃はそのベクトルを狂わされ、無貌の任意の方向へ跳ね返すことが可能となるのだ。
「どわあああーっ⁉」
一斉攻撃を撃ち返され、六人は衝撃で吹っ飛ばされてしまった。
「大丈夫か、皆!」
仲間たちの元へ駆け寄ったナオヤが、「実はかくかくしかじかで」と無貌の能力を解説し始める。話を聞いたカイリは、憤慨した。
「何でそれを先に言わねえんだよ! もう攻撃しちゃったじゃねえか!」
「俺が説明する前に、お前たちが必殺技を使ったんだろう」
「二人とも、そんなことで言い争ってる場合じゃないでしょ⁉」
ツカサが彼らをなだめ、「とにかく」と話題を変えた。今話し合うべきは責任の所在ではなく、これからの戦術だ。
「遠距離攻撃をぶつけても、跳ね返されるだけだってことは分かったわ。それなら、接近戦で無貌を倒せる可能性に賭けてみるしかなさそうね」
そして相棒を、カイリを見やる。
「百合ブラックとBLホワイトに変身した状態なら、ものすごい格闘技が使えたはずよ。もう一度、あれを試してみましょ」
「……いや、まだだ」
しかし、カイリは首を縦に振らなかった。
「ナオヤの説明通りなら、無貌は自分の体に触れた攻撃すべてを反射できる。ということは、遠距離攻撃だろうが近距離攻撃だろうが跳ね返されちまうし、奴にダメージは与えられないんだろ。確かに跳ね返されたときの反動は小さくなるだろうけど、根本的な解決にはならねえよ」
「す、すごい。あんたにしては珍しく、冷静な分析ね」
「おう。何としてでもあいつをぶっ倒して、お前と毎日デートしなきゃならねえからな。下手に攻撃して自滅するわけにはいかないんだよ!」
彼が「毎日デート」と発言した瞬間、ナオヤやケイイチロウたち五人の視線が集中した。ツカサが恥ずかしそうに目を伏せる。
「そうか。お前たち、とうとう……」
「めでたいな。実にめでたい」
最近のツカサとカイリが何だかいい雰囲気なことには、皆薄々感づいていた。幸い、この戦隊のメンバーには、人の幸せを素直に祝福できないようなひねくれものはいない。素直すぎる皆が口々にお祝いしたので、ツカサは真っ赤になってしまった。
「う、ううっ。何も、皆の前でデートとか言わなくてもいいじゃない。こんなの、公開処刑よ」
「で、式はいつ挙げるんだ?」
「結婚式には私も呼んでほしいな~」
トウマとウミカも便乗してきた。若いカップルのライフはもうゼロである――もっとも、カイリはほとんど気にしておらず「お祝い金として一人五千万円くらい欲しいっすね」なんて調子に乗ったことを抜かしているが。
「……いやいや、今、戦ってる最中ですからね⁉ 頼むからあとにして下さいよ!」
BL2号・サクヤの一声で、一同はようやく「そういえばそうだった」と我に返った。はあ、と無貌がため息をつく。
「敵の目の前で結婚祝いを始めるとは、とんでもない愚か者どもだな。貴様ら、私を舐めているのか」
「舐めてるわけじゃねえよ。ただ、現状ではお前にダメージを与える方法が分からないから、とりあえず惚気話でもして時間を稼ごうかと思っただけだ!」
「自分ではかっこいいこと言ってるつもりかもしれないけど、あんた、それ実質的には敗北宣言だからね⁉」
相変わらず、二人のボケツッコミは健在である。健在なのだが、漫才で無貌を倒せるわけもない。百合&BLレンジャーは、ピンチに陥っていた。
攻撃すれば、跳ね返される。かといって攻撃しなければ、無貌はきっと「無貌通行」以外の原典で攻撃してくるだろう。状況を打開する方法が、今の彼らにはない。
「そちらから仕掛けてこないのならば、こちらから行かせてもらうぞ」
無貌が一歩踏み出すと、両腕と頭部からチェンソーのような武器が生えてきた。
「私は貴様らと違い、色恋沙汰に興味はない。だが、もし人間風情と同様の感情を持っていたならば、『胸を揉みたい』程度のことは思ったのだろうか。……まあ、どうでも良い。私の邪魔をするのなら、死ね」
今回、ご迷惑をおかけした作品
・チェンソーマン