「無貌様ですって?」
お菊がぎょっとしたような声を上げた。
「ちょっと待って。じゃあ、私たちが今戦っていたあなたは、一体何者だったっていうのよ⁉」
「――私の補佐官だ」
空から声が響く。見上げれば、無貌は空中を歩いていた。横たわっている無貌が一人、無傷で宙に浮いている無貌がもう一人。一体、これはどういうことだろう。
「超次元界から人間界へ逃げ込んでいた貴様らは知らなかったかもしれぬが、私には補佐官が二人いた。一人は、敵対勢力の殲滅を任務とするウルフ・J・ギンブリー。そしてもう一人には、主に事務仕事を任せていた。彼にはこれといった戦闘能力はなかったが、私自らがとっておきの原典のイメージを付与してある。すなわち、『変身能力』だ」
悠然と千人の敵を見回し、無貌は続けた。
「姿形以外に、彼は相手の記憶と精神のすべてを模倣できる。BLファイヤー、及び百合&BLレンジャーと交戦し、今しがたレジスタンスどもの攻撃を喰らったのは、私をコピーしたこの補佐官だったのだ。まんまと騙されてくれたようで、実に嬉しい」
「……あなた、本当にいい性格してるわね」
お菊が皮肉った。
「言ったはずだ。私は、自ら前線に出るのを嫌うと。万が一の事態を想定し、影武者を用意しておいて正解だった」
「影武者を身代わりにできたからといって、状況が好転したわけじゃないことを忘れないで」
天を仰ぎ、千人の戦士は刀を掲げた。お菊も再び、雷撃を放とうとする。
「私たちは今、あなたと同等の力量を持つ影武者を撃破した。それはつまり、あなたを倒すことも不可能ではないということよ!」
「貴様らは一つ、思い違いをしている。貴様らが屠った補佐官の実力は、私の足元にも及ばぬ。私が彼に与えておいた能力は、『無貌通行』をはじめとする十種類のみだ。無限に等しい原典の力を使える私とは、比較にすらならぬ」
そう言い放ち、無貌は全身に力をみなぎらせた。何か能力を使おうとする気配を察知し、お菊たちは慌てた。
「今よ。奴が攻撃してくるよりも先に、もう一度総攻撃を!」
「遅い」
千本の刀から技が放たれるよりも僅かに早く、無貌が力を解放した。
「『無貌色の覇気』」
目には見えない衝撃波のようなものが、地上に吹き荒れる。それを浴びたレジスタンスたちは、お菊一人を除き、たちまち気絶してバタバタと転倒した。
「この原典の効果は、私の全身から発せられる威圧感や殺気により、圧倒的な力量差がある者を失神させるというもの。貴様らがいくら数を揃えようとも、私には無意味だ」
「そ……そんな」
わなわなと震えるリボンズ。無貌は徐々に高度を下げ、彼女から一メートルほど離れた位置に降り立った。
「先刻、貴様は『千対一』だと言ったな。その認識は誤りだと知れ」
「ムボムボのジェットピストル」と呟き、無貌はお菊に超高速の掌底を見舞った。
「正しくは、『一対一』だ」
一撃を喰らったリボンズが、ビルの外壁に叩きつけられる。変身解除されてしまったお菊は、痛みと悔しさに呻き、涙した。
「嘘よ。私たちの渾身の攻撃を浴びせても、勝てないなんて。嘘に決まってるわ」
「現実逃避か。哀れなものだな」
お菊にとどめを刺そうと近づいた無貌を、百合&BLレンジャーの七人が遮った。VSチューナーを構え、果敢に立ち向かおうとしている。
「私がレジスタンスどもと交戦している間に、逃げ延びるという選択肢もあっただろうに。そこをどけ。死にたいのか、貴様ら」
「うるせえ! うぬぼれるなよ、邪悪な願い!」
「最後の力が枯れるまで、ここから一歩も下がらないわよ!」
どんなにピンチの連続だって、彼らは絶対に諦めない。ギリギリまで頑張って、ギリギリまで踏ん張る。戦えない人たちを守って戦うのが、彼らに与えられた使命だからだ。
「私に勝てる策があるわけでもないのに、刃向かうか。どこまでも愚かな奴らだ」
呆れたように、肩をすくめる無貌。
ヒーローたちを地獄に送るべく、彼は新たな原典の力を発動しようとした。が、後方からバイクのエンジン音が近づいてくるのに気づき、攻撃を止めた。
キキッ、と急ブレーキを踏み、バイクが静止する。銀色の大型自動二輪に跨っていたのは、一組の男女だった。
「悪い、遅くなった。これでも全力で飛ばしてきたんだけど、名古屋から東京は近いようで遠かったぜ」
「君は、確か……」
彼らとは名古屋の事件のときに面識がある。ケイイチロウが息を吞んだ。
前に座るのは、オメガ珈琲シルバーこと早川裕介。そして彼の背にぎゅっとしがみついているのは、超次元ライダー来部こと来部美明日である。
「助けに来たぜ、先輩方」
ゆっくりとバイクから降り、裕介は堂々と言い放った。そして、無貌を睨みつけた。
今回、ご迷惑をおかけした作品
・ウルトラマンガイア