「諦めろだと? ふざけんじゃねえぞ」
怯まず、カイリが言い返した。
「次元大魔王をも倒した俺たちの最大の武器は、絆だ。互いを信じて戦えば、きっと勝機はある。俺たちの本当の力は、まだまだこんなもんじゃないぜ!」
「そうよね、カイリ! あたしたちにはまだ、ブラックとホワイトという切り札が……」
「ば、馬鹿、ラスボスの目の前でネタバレしてどうするんだよ⁉」
うっかり口を滑らせそうになり、慌てふためく二人。
「ちなみに、私たちは次元大魔王との戦いの間もずっと刑務所の中にいましたから、そのときの詳しい状況は一切知りませんわ~!」
「お前ら、ちょっと黙っててくれねえかな⁉ せっかく俺がかっこいい台詞を言ったのに、全然締まらねえんだよ!」
女王たちも雰囲気をぶち壊しに来たので、カイリは頭を抱えた。
彼をフォローするかのように、裕介が「絆と、あと愛の力もだな」と付け足した。視線の先には、横たわった来部美明日の姿がある。
「先輩方は知らないだろうけど、美明日とは色々あったんだよ。三武神ネトルに彼女の心を乗っ取られて、命のやり取りをしたこともある。けど、しんどいことも含めて全部乗り越えたからこそ、今の俺たちがある」
「あたしとカイリなんか、お互いの性別を入れ替えられたこともあるわよ。ここまで来たら、もう何が起きても驚かないわ!」
「……絆だの愛だの、私からすれば下らないものだ」
なかなか闘志を失わないヒーローたちを、無貌はやや呆れたように睥睨した。
「人は、他人の心を完全に理解することなどできぬ。貴様らは、互いのことを分かりもしないくせに分かった気になり、自己満足に浸っているだけだ。絆や愛というものは、その自己満足の延長線上にある虚構にすぎぬ」
確かに、他者の気持ちを百パーセント理解するのは難しいだろう。満員電車に揺られているとき、自分のすぐ側に立っている人が何を考えているか、分かるわけがない。仮にその人が友人、あるいは恋人だったとして、一緒に出かけているのだとしても、自分と同じように「お出かけ楽しみだな~」と考えているとは限らない。「電車がこんなに混んでいるのなら車で行きたかった」という不満があるかもしれないし、「てか、この人との会話つまらないな」と辛辣な感想を抱かれているかもしれない。もっとも、そういうすれ違いがあり得るからこそ、人間ドラマは面白いわけなのだが。
いずれにせよ、無貌の主張は全くの間違いとは言い切れない。が、少し極論じみたところがある。
「愛に何の意味がある。いずれは老いて醜い姿と成り果てると分かっていて、特定の相手と添い遂げることを愛と呼ぶのか? 馬鹿馬鹿しい。経年劣化していくだけのパートナーなど、無価値だ」
「……老いて醜くなるだけだと? 何を言ってやがる。お前は、俺たち人間の上っ面しか見ていないじゃねえか」
無貌の暴論に、オメガ珈琲シルバーが吠える。
「俺はまだ若いからよく分かんねえけどよ、歳をとって色んな経験を積めば、見える景色も変わってくるんじゃないのか。たとえ見た目は老けても、人の心は劣化したりなんかしねえぞ!」
「そうだぜ! 俺のパートナーなんか元からAカップだから、歳をとってもさすがにこれ以上は劣化しないしな!」
「Bカップだって言ってるでしょうが⁉ てか、このネタいつまで引っ張るのよ!」
「実際に揉んで、Bカップ以上あるって俺が判断したらやめる。コウ少年の判断だけに任せるのはソース不十分かもしれないからな。てなわけで、早いところデートしようぜ」
「無駄に生々しい回答するのやめなさいよ⁉ ……ま、まあデートくらい、戦いが終わったらいっぱいしてあげてもいいけど? も、揉まれると大きくなるって言うし?」
もし変身を解いた状態だったら、ツカサは照れ隠しに指で髪をくるくる回していただろう。紅潮した頬が、白日の下に晒されていただろう。けれども、ゴークイーンズ登場以前のネタをいつまでもやっているわけにもいかないので、「コホン」と大きく咳払いする。
「無貌。あんたはたくさんの原典を知っているのかもしれないけど、あたしたち人間のことはちっとも分かってないわ!」
「ああ。お前みたいな奴に、絆だとか愛だとか語る資格はない!」
威勢よく言い放ったバカップルを、無貌は小馬鹿にしたように眺めている。
「愚かな。今さら、貴様らに何ができる。どんな技を出そうが私には効かないと、まだ分からないのか。貴様らの使う武器や技はすべて、何らかの原典に影響を受けている。あらゆる原典を司る私に、原典から借りた力は通用せぬ」
「いや、お前に通用する力が一つだけあるぜ」
不敵な笑みを浮かべ、裕介が言った。
「お前はあらゆる原典を司っていると言ったが、厳密には違う。『現時点で存在している原典』のパワーしか、お前は使えないんじゃないのか? だったら、攻略法はシンプルだ」
「つまり、現時点で存在しない原典――これから先に生まれる、未来の原典の力を借りるつもりか」
無貌は首を振った。
「たとえば、来週から放送開始されるアニメ。まだ出版されていない小説。別次元に存在するそういったもののパワーを身に宿そうと試みた者は、かつて私と刃を交えたレジスタンス組織のメンバーの中にもいた。しかし、皆失敗した。未知の原典を使えば敵の意表を突くことは可能だが、その反面、自分自身にもその力の詳細が分からない。自らが振るう武器の形状すら分かっていないような状態では、戦いに勝利することなど夢のまた夢だ」
リボンズの同志の中に詳細不明の原典の力を使った者がいたのは、無貌との戦いに散った同胞の意志を継いだ結果だったのかもしれない。未来の原典を扱うのは難易度が高いので、一応存在しているが情報量の少ない原典で代用してみたのだ。
補佐官が化けていた無貌をリボンズトルーパーが屠ることができたのは、単純に、補佐官の実力がオリジナルより大きく劣っていたから。本物には、そんな小細工は通用しない。
「……そうか。なら、問題はないな」
「ええ」
カイリとツカサはなぜか、自信満々に頷き合った。
「俺たちは、その原典の詳細をよく知ってる」