理解できない。無貌は心からそう思った。この弱者たちは、一体何を言っているのだ。
未来の原典で、かつ詳細を彼らが知っているものがある? 理論上は不可能なはずである。
「貴様らは何を」と言いかけて、顔を持たない侵略者の声は途切れた。突然、ヒーローたちの全身を眩しい光が包み込んだからだ。
温かく優しい光は、彼らが負ったダメージを癒していく。アーマーの傷がみるみるうちに修復され、出血はぴたりと止まった。
「どうやら、少し眠っていたみたいね」
「おかげさまで、良い夢見れたわ」
「さっきはよくも痛めつけてくれたな。俺たちの本当の力、今こそ見せてやる!」
意識を失いかけていたお菊とビアスも完全に回復し、ナオヤもダメージから立ち直り、再変身した。
見事に復活を遂げたヒーローたちが揃い踏みし、横一列に並ぶ。壮大な光景を前に、無貌は思わず後ずさった。
「何だ、これは。このような力は、私の知っている原典の中にはない。まさか本当に、未来の原典のパワーを宿したというのか?」
「違うな」
カイリがニヤリと笑う。
「他でもない、これは俺たち自身の力だ!」
振り返れば、さっきから彼らは一言も「未来の原典の力を使う」とは言っていない。「現時点で存在していない原典を使う」という風に匂わせてはいるが。
ヒーローたちの言わんとするところを察し、無貌はわなわなと手を震わせた。
「あり得ない。貴様らの能力は皆、他の原典の影響を受けているはず。パロディーだらけで二番煎じ上等の、ヒーローもどきが……『新しい原典』を名乗ったというのか⁉」
「その通りよ」
元気よく、ツカサが応じる。
「あたしたちは、自分自身を新たな原典として再定義した。今のあたしたちは、あんたも知らない新たな原典そのものってわけ。その原典の名前を名乗ってあげるから、よく聞きなさい!」
『俺を倒した程度で、いい気になるな。パワーアップを果たして勝利したつもりかもしれないが、お前もまた無意識のうちに、原典の力に頼っているはずだ。オリジナリティーもクソもない』
『世の中にはたくさんの創作物が溢れてるが、そのどれとも違う、百パーセントのオリジナリティーを持つ作品なんてあるのか? ないだろ? ストーリー構成、キャラクターの特徴。どう頑張ったって、意図せずして他の作品と部分的に似てしまうことはある。大事なのは、自力で頑張って考えたアイデアなのか、他人のアイデアをパクっただけで自分では特に努力しなかったのか、どっちなのかってことだ』
以前、超ブラゴクウとオメガ珈琲シルバーが死闘を繰り広げたとき、このようなやり取りがあった。あのときと、根本的には同じだ。
パロディーばかりでしょうもないヒーローだと、人々からは笑われるだろう。こんなのがヒーローだなんて最悪だ、と嘆く人もあるだろう。だが、それでもツカサとカイリたちは、自らを「オリジナリティーを持った新しい原典」であると再定義した。
要は、無貌さえも知らない原典のパワーを使えば攻撃が通るのだ。ゆえに、レジスタンス組織のメンバーは未知の原典をも利用しようとして上手くいかなかったわけだけれども、今のヒーローたちのやり方は異なる。自分たち自身を、まだ見ぬ原典と化したのだ。
「孤高に煌めく怪盗。百合エックス!」
「百合ブルー!」
「百合イエロー!」
「「俺たちは……怪盗戦隊・百合レンジャー!」」
スポットライトのように降り注ぐ光の中で、カイリ、トウマ、ウミカが華麗にポーズを決める。毎回のように色々な原典の影響を受け、名乗り方を変えていた彼らだが、今回はおそらく今までで一番シンプルに名乗った。
「気高く輝く警察官。BLエックス!」
「BL1号!」
「BL2号!」
「二十世紀が泣いている。BLファイヤー!」
「「あたしたちは……警察戦隊・BLレンジャー!」」
復活したナオヤも加わり、四人で名乗るツカサたち。ケイイチロウもサクヤも、皆活き活きとしている。
「才を磨いて、己の個性を見つけ出す。アメイジング・オリジナリティー! オメガ珈琲シルバー!」
「あなたには聞こえないのかしら? 激しい風の囁きが。超次元ライダー・来部!」
珈琲サイブレードと来部ガンをそれぞれ構え、オメガ珈琲シルバーとホーリー来部が名乗りを上げた。
最後に残ったゴークイーンズとロリーニンジャーは、どちらからともなく顔を見合わせた。
「あのー、もしよければ、あっしも一緒に名乗らせて下さいやし」
アメリカから一人でやってきたキンジは、一人孤独に名乗ることに疎外感を覚えたらしく、こう頼んでみた。
なお、リボンダーマンやハットマンも来日するという案もなくはなかった。が、「自在に泥人形を作って各地に送り込める敵が相手なのだから、戦力を日本に集中しすぎるのはまずい。アメリカにも最低限の人員は残しておこう」という思惑もあった。
何より、次元大魔王に嘘を吹き込まれていた頃と比べ、キンジは格段に強くなっている。「彼に任せておけば大丈夫だ」という安心感も、非常に大きかった。
「お安い御用ですわ~!」
「さっき助けてもらったお礼に、私たちと一緒に名乗る権利を与えて差し上げてもよろしくてよですわ~!」
女王たちは二つ返事で了承した。ビート・タイツとスタッグ・タイツも「女王様が許可するのならば」と、特に異議を唱えない。
はたして、ほとんどアドリブに近いかたちで結成された六名のチームも、続いて名乗りを上げていった。
「暴れて天晴れ! レッド・クイーン!」
「轟け八雲! ブルー・クイーン!」
「煌めきの凪! イエロー・クイーン!」
「ひとひら風花! ビート・タイツ!」
「揺らめく霞! スタッグ・タイツ!」
「おねロリの星! ロリーニンジャー!」
そして最後に、レッド・クイーンとロリーニンジャーが追加の口上を述べる。
「女王なれども忍ばない!」
「忍びなれどもパーリナイ!」
「「特命女王戦隊+α! ゴークイーンズ&ロリーニンジャー!」」
そして、締めくくるのは松本・オリジン・お菊。ベルトを拝借している詫びのつもりか、リボンダーマンをリスペクトしたかのような名乗りとポーズを行った。
「あるときは、推しと推しを結ぶ赤い糸。またあるときは、悪を縛る赤い罠。アメリカン・ファイター、リボンズ!」
「お、おのれ……」
次々にかっこいい名乗りを決められて腹が立ったのか、無貌は歯切りするような音を発した。
「無貌。今の俺たちは、お前さえも知らない新たな原典そのもの。既知の原典でいくら対抗しようとも、俺たちには効かない。俺たちは無敵なんだ!」
ビシッと指を突きつけ、オメガ珈琲シルバーが言い放った。
「調子に乗るな。貴様らが未知なる原典となったというのなら、私がそれを知り尽くせばいいだけのこと。いつまでも無敵状態が維持できると思ったら、大間違いだぞ」
「ンなことは分かってる」
痛いところを突かれた、という風ではなくむしろ余裕を感じさせる声音で、裕介は答えた。
「けどお前に、俺たちのことが理解できるか? お前は人間のことも、上っ面だけしか見ていない。どうせ他の原典のことだって、『無意味な情報の塊』くらいにしか認識してないんだろ」
「万が一理解できるとしても、その前に私たちがこいつをぶっ飛ばせばいいのよね。大学院で取り組んでいた研究に比べれば、嘘みたいにシンプルな攻略法だわ」
彼の隣で、ホーリー来部も「フフン」と笑みを浮かべている。
「さあ、行くわよ。一気に……いや、一緒に!」