「馬鹿な。すべての原典を支配し、数多の世界を侵略してきたこの私が……こんな、パロディーまみれのヒーローに敗れるというのか。許さん。断じて許さんぞ!」
「無貌。確かにお前は強かった。だが、お前は原典の力に頼るばかりで、自分自身の強さを引き出そうとしなかった」
倒れた敵を一瞥し、裕介は告げる。
「お前らが住んでいる超次元界ってところは、環境汚染に苦しんでるんだってな。だから他の世界を植民地化して、そっちに移住しようと計画してたとも聞いてる。けどよ、何で自分たちの世界の中で問題を解決しようとしなかったんだよ。俺たち人間も地球温暖化ってやつに悩んでるけど、温室効果ガスを削減したりとか、色んな対策をして頑張ってるぜ。他の世界の連中に頼るんじゃなくて、まずは自分たちで頑張れよ」
「お前の言う通り、俺たちは原典の影響を受けまくったアホみたいな戦隊かもしれない。でも、俺たちの在り方を決めてきたのは、いつだって俺たち自身だ。それだけは確かだぜ」とカイリも言った。
「あんたは自分を空っぽな器にしておくことで、あらゆる原典の力を使えるようになった。でも、他人に心を許さず、原典や他の世界に頼ってばかりいたら、本当の強さは手に入らないわ」とツカサ。
「本当の強さだと? 何だ、それは」
「あたしたち人間は、腕っぷしの強さでも頭の良さでもあんたにはたぶん及ばない。ただ、心の強さだけは勝ってる自身がある。最後の最後、土壇場でものを言うのは、心よ」
「貴様らの言う、絆と愛か……」
すべてを諦めたように、無貌は仰向けに転がった。目も鼻も口もないはずの侵略者が、三人には力なく笑ったように見えた。
「ようやく理解できた。私は、負けるべくして負けたのだな」
手足の指先から、徐々にその肉体が灰化していく。
「……貴様らの勝ちだ。さらばだ、新たな原典たちよ」
頭部までが灰になる寸前に、無貌はそう言い残した。そして、完全に消滅した。
「やったぞ」
勝利の喜びに打ち震えて、ケイイチロウが呟いた。
「これでもう、超次元生命体も高次元生命体も攻めて来ることはない。俺たちは勝ったんだ。長く苦しい戦いは、終わったんだ!」
「やりましたね!」
変身を解除し、サクヤも破顔する。
ほどなくして、素顔に戻ったヒーローたちは喜びを分かち合った。ある者たちは固く抱き合い、またある者たちはハイタッチした。他にもウキウキでスキップしている者もいれば、「勝利の凱旋ですわ~!」「私たち、あの強敵『無貌』に一撃浴びせましたわ~! 脱獄してしまったけれど、これに免じて刑期を短くしてほしいですわ~!」と声高に叫んでいる者たちもいる。
「……って、すっかり忘れてたわ! そういえばあんたたち、BL警察の刑務所から脱獄したんだったわよね⁉」
照れ気味にカイリとハイタッチして舞い上がっていたツカサだったが、やっと大切なことを思い出した。懐から手錠を取り出し、女王たちを追いかける。
「逮捕よ、逮捕! ケイイチロウとサクヤも、ナオヤくんも手伝って!」
「まずいですわ~! すたこらさっさと逃げますわ~!」
「ほら、キンジさんもご一緒に! ズバリ、愛の逃避行ですわ~!」
「は、離して下さいやし! 何であっしも巻き添えに⁉」
逃げ出そうとするゴークイーンズの五人と、なぜか一緒に連れ去られようとするキンジ。彼らを追う、BL警察の四人。百合レンジャーの三人は「手伝った方が良いんだろうか?」と困ったように顔を見合わせている。ラスボスを倒して早々に、カオスな状況になってしまった。
先の戦闘で、BL警察管理下にあった刑務所が破壊され、一部の囚人が脱獄してしまった。ゴークイーンズをはじめ、東京卍帝国の元構成員らがシャバの空気を吸っていることを考えると、まだすべての問題が解決したとは言い難いのかもしれない。
それでも、人間界を蝕む別次元の脅威がすべて取り除かれたのは事実だ。これからは原典の影響も薄れ、人々は次第に元の姿と生活を取り戻していくだろう。
「……あー、もう! 本当に退屈しないわね、この街は!」
レッド・クイーンを確保し、手錠をかちゃりとはめながら、ツカサは半ばやけくそになっている風にこぼした。
「あーあ。あたし、いつになったら落ち着いてデートできるんだろ」
「もうちょっとの辛抱じゃねえの? 知らんけど」
その隣でスタッグ・タイツを押さえつけ、カイリが彼女の愚痴に応じる。
「ま、一緒に頑張ろうぜ」
「そうね。……フフッ」
「何だよ。何がおかしいんだよ」
不意に笑みをこぼしたパートナーを、彼は不思議そうに見た。
「別に? ただ、幸せだなって思っただけ。あんたとこうして、心が通じ合ってるから」
「……俺もだよ」
カイリも照れくさそうに笑った。
駆けつけたパトカーの車内へゴークイーンズたちを押し込み、一仕事終えると、二人は物陰に移動した。仲間たちの目が届かないことを確認してから、抱き合い、ついばむような軽いキスをした。
情緒も何もないシチュエーションだ。激闘の後で二人とも疲れ切っているし、何ならちょっと汗臭いかもしれない。ロマンチックとは言い難い風景だ。無貌の攻撃のせいで、街のあちらこちらには瓦礫が散乱している。大地には破壊の跡が色濃く残る。
だけど、若いカップルは幸せだった。唇を離して見つめ合う二人は、幸福に満ちた表情だった。
「今は色々と立て込んでる。続きはまた今度な」
「ええ、必ず」
そこに絆と愛がある限り、人は幸せを感じられるのだから。
今回、ご迷惑をおかけした作品
・とある科学の超電磁砲
※次回の更新は1週間後を予定しています。よろしくお願いします。